第22話 スリーアウトチェンジ

 僕の作戦は大当たり。

 ちょっと翼を煽ってあげたら投球が改善したのだ。


 ど真ん中とはいえあれだけのストレートならばなかなか打てやしない。バットに当たってもヒットに出来るかどうかだろう。


「なっ?上手くいっただろ?」


「……結果オーライな感じもするっすけど、確かに効果はあったっすね」


 雅が引き気味に驚くくらい効果テキメンといったところだろう。我ながらナイスアイデア。


「でも翼、怒ってる」


「めっちゃ怒ってるっすね……、あとで雄大くんには蹴りか硬球が飛んでくること間違いなしっす」


「雄大、どんまい」


 何か雅と爽がボソボソと言っている気がするが気にしないでおこう。

 監督たるもの時には非情なこともしなくてはならないのだ。このぐらいでビビっていられない。


 2球目も翼は思い切り振りかぶってストライクゾーンど真ん中へ放り込む。

 さすがに相手も4番打者。同じコースに2度同じ球種が来るなんてチャンスを見逃しはしなかった。


 カキーンと乾いた金属音が響く。

 打球はライト側へふわりふわりと力なく飛んでいった。

 翼の球威が完全に勝っている。これは普通のライトフライだ。


「よしよし、これでいい。犠牲フライで1点献上してしまうのは仕方がないけど、このぐらいなら許容範囲だ」


 僕の頭の中ではこの4番を打ち取って次の5番でこの回を終わらせようと考えていた。そうなるとこのライトフライからのタッチアップは致し方ない。この1点くらいは失っても問題はない。そう思っていた。


「……ううん、1点もやらない」


「えっ……?」


 爽がボソッと呟く。その瞳の向こうには、まもなく捕球体勢に入ろうとするライトの野々香がいた。


「野々香を見てて」


 一瞬爽が何を言っているのかよくわからなかった。

 しかしその後の野々香のプレーでやっと爽の言葉を理解することになる。


 フライを捕球した野々香はすぐさまバックホーム返球をした。


 僕はてっきり3塁ランナーのことは諦めて、2塁ランナーを進塁させないよういち早くボールを内野へ戻すとばかり思っていた。しかし野々香はそうしなかった。


 彼女の投げたボールは信じられないほど真っ直ぐ進んだ。その軌道はマウンドの横付近でワンバウンドすると、ホームで待つキャッチャーの林檎のミットへ吸い込まれるように収まった。


 ホームでのクロスプレーになることなく、突っ込んできた3塁ランナーはタッチアウト。これでダブルプレーとなりスリーアウトチェンジだ。


「よっしゃあ!ナイスパチ美!」


 マウンドで翼が吠える。

 他のチームメイトもまさか野々香が捕殺するなんて思っていなかったようで、驚きと感激が入り混じった表情で彼女を祝福した。


「ま、まさか野々香がバックホームで刺すなんて……」


「今の送球ヤバかったっす!今までのパチ美とは別人みたいっす!レーザービームっすよ!」


 グラウンド上のナインと同じように、ベンチでは僕と雅があんぐりとしていた。だって、『ライパチの美合野々香』だそ?


「野々香はもともと肩が強い。投げ方が良くなかっただけ」


 僕と雅の隣で爽が小さな声で語り始める。


 やっぱり仕掛け人は爽か。


「……もしかして、爽が野々香の送球を?」


「そう。野々香、せっかく肩が強いのに山なり送球しか出来なかった」


「だから爽が野々香にアドバイスしたというわけか」


 爽はコクリと首を縦に降った。

 野々香へのアドバイスが結果に繋がったということで、ちょっぴり嬉しそうに見える。


 ちょうどベンチに帰ってきた野々香もその爽の嬉しそうな顔を見てホッとしたのか、にっこりと笑顔を浮かべた。


「ありがとう。爽のおかげだよ」


「違う、野々香がちゃんと練習したから」


「んもー、そういうところも可愛らしいんだから。このこのー」


 そこにはもう、友達のいない矢作爽とライパチと揶揄される美合野々香の姿はない。


 心の友を見つけた守備固めと窮地を救ったレーザービーマーが、チームメイトから手荒い祝福を受けていた。


 良かったな、爽。


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水卜みう

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