cherry-picking days


「お菓子もいっぱいあるからね。さぁさぁどうぞ、いっぱい食べて」


 飲み物のついでに持ってきたのは大量のお菓子だ。ポテトチップスにドーナツ、さきイカにせんべい、その他諸々。近くのスーパーマーケットで買ってきた品々がどっさりだ。因みに全てほむらの常備食である。おやつと夜食用だ。


「わーい、いただきま~す!」


 まいんが真っ先に手を伸ばし、ばくばくと一気に口へ放り込んでいく。食べ合わせを一切気にせず適当に。遠慮のなさが少々意地汚い。もらえる物はもらっておけの精神だろうか。


「ほら、生徒会長もどうぞ」

「え、ええ」


 遅れて風華はおずおずと、盛られたせんべいをひとつつまみ上げる。お茶をすすりながらひとかじり、実に渋い組み合わせだ。社長令嬢だけあって食べる姿は美しい。


「エルルにはこっちだよ」


 ほむらが取り出したのは花形のゼリー。ニトクリスミラー内の食材で作った料理らしい。女子会用のお菓子として、わざわざ可愛い見た目に加工してあるようだ。

 女子高校生の愛情たっぷり手作りお菓子。嬉しくない男がこの世にいるだろうか、いやいない。いたらオレがビンタしに行く。


「はい、あーん」

「あーん……って、恥ずかしいエル」


 だが、可愛い娘にお世話されるのは恥ずかしい。何度してもらっても慣れないし、慣れたらいけないと羞恥心しゅうちしんが叫んでいる、喚いている、デモ行進している。つんと尖った耳の先まで熱々になってしまう。


「特製ジュースも飲んでね~」

「だから恥ずかし……おいしいエル」

「でしょ~?」


 まぁ結局、誘惑に勝てるはずもなく、でろでろに甘やかされちゃう雑魚ざこメンタルなオレですが。

 いいじゃない、元人間だもの。妖精だって欲望を解放したい時があるさ。と、自分を思いっきり擁護しておく。


「ところで、この女子会の開催意義はなんですの?」


 せんべいを食べ終わった風華が、企画した張本人であるオレをじろりと一瞥いちべつ

 早く本題を進めて有意義な時間にしろ、と言いたいのだろう。


「そうエルね。そろそろ真面目な話に移ろうエル」

「え、みんなでワイワイするんじゃないの?」

「てっきりタダで飲み食いできる会だと思ってたのですぅ」


 女子会をなんだと心得ているんだ君達は。特にまいん、それはただの相席居酒屋だ。絶対割り勘認めてくれないタイプだな彼女は。


「今後の魔闘乙女マジバトヒロイン活動について話し合いたいエルよ」


 親睦を深めるには中身のない会話を無意味に楽しむ、そういう時間が大切なのも重々承知している。

 だけど、それだけでは気が済まないし、済ませている場合でもない。

 朱向市あかむきし、ひいては地球の命運を握る立場にいるのだから、のほほんと牧歌的にまったりしている暇などないのだ。


「つまり同じ魔闘乙女マジバトヒロイン同士、足並みを揃えて戦いましょう、って言いたいのですよね?」

「ザッツライトエル」


 さすが成績優秀で生徒会長な風華だ。オレの意図をズバリと見抜いている。


「今現在確認されているゾスの眷属は三人、対する魔闘乙女マジバトヒロインも同じく三人。戦績はまだエルル達の圧勝だけど、いつひっくり返されるとも知れないエル。今のうちに協力し合って対策を立てるのが吉エル」


 こちらが絶賛パワーアップ中なので、ゾスの眷属側も対策を立ててくると考えるのが定石。自分達は無敵と胡座あぐらをかいていると、うさぎかめのように寝首をかれてしまうのだから。


「うーん、いいんじゃないかな? 難しいことはよくわからないけど」


 ほむらが理解しているのか怪しい返事をする。


「でもそれってぇ、このメンツで仲良しごっこをしようって話でしょ?」

「正直言って、私は反対ですわね」


 一方、まいんと風華の反応は芳しくない。お互いが気に喰わずにらみ合い続行中だ。


「頭の出来に不安が残る龍崎ほむらさんはまだしも、本心を隠して偽りの自分を演じる牛尾まいんさんは信用なりませんわ」

「そんなぁ、先輩ってばいけずですぅ。まいんとしてはぁ、自分が優秀だとおごり高ぶる人とは一緒に戦いたくないのですぅ」

「そういうところでございましてよ。それと、猫なで声で甘えても同性相手には逆効果じゃございませんこと?」

「はぁ? あんたこそ、古くさいお嬢様言葉でオタクびにいそしんでいるじゃないの?」

「これは元からですし、一応本物のお嬢様ですもの。おかしくないですわ」

「はぁん!? お金持ちとか余計に性質たちが悪いわ! こんなのと共同戦線とか絶対無理、無理ったら無理!」


 口撃の応酬でヒートアップしていくふたり。まいんに至ってはキャラ作りをかなぐり捨てて全力投球だ。それでいいのか。


「ふ、ふたりとも落ち着いてよ。同じ魔闘乙女マジバトヒロインなんだし、きっとわかり合えるって……」


 間に入って喧嘩を仲裁しようとするのは、仲良く楽しくがモットーのほむらだ。頭は残念だが心優しい、正義の味方に相応しい少女。ロリショタコン趣味を除けば、だが。


「事なかれの平和主義では収まりがつかないこともあるんですのよ」

「あんたのことムカつくけど、それには賛成できる」


 で、即刻否定されてしまうというオチだ。


「なによふたりして! あたしだって怒る時は怒るんだからね!」


 で、ほむらもウガーッとブチ切れてしまい、てんやわんやの大盛り上がり。

 これは前途多難そうだな、と心の中で深く深く溜息をつく。

 女性とろくに付き合った経験もなしに、癖の強い女子三人を纏め上げるのがそもそもの間違い。向こう見ず極まる無謀な挑戦だったのだ。

 この調子で今後、ゾスの眷属との戦いは大丈夫なのだろうか。

 なんて先行き不安にさいなまれていると、タイミング良く、否、タイミング悪く、街の方から爆音が届く。建物の間から黒い煙が空へと伸びている。

 今日もまた、悪との戦いが始まろうとしていた。

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