Lovely Party Collection


 女子会。

 それはうら若き乙女達が集い、わいわいきゃっきゃとおしゃべりタイムにいそしむ、男子禁制の秘密の花園だ。異物が入れば即刻排除。もし居座ることができたのなら、そいつはもはや男にあらず。男の娘の仲間入りだろう。

 残念ながらオレは元一般男性であり、花園に出入り可能な男の娘でもないため、女子会の神髄についてはからっきし。それどころか女子そのものの生態を知らない、見るも無惨なモテない男。仲間内で馬鹿騒ぎするだけの男子会ですらほぼゼロの、人生経験乏しい人間だったのだ。


 と、この体たらくの癖に、オレは今、女子会の真っ只中にいる。より正確に言うと、女子会を提案した張本人だ。とち狂っていると言われても仕方ないし、苦言は甘んじて受け入れる。だが、これも重要なイベントなのだ。

 女子会の目的。それは魔闘乙女マジバトヒロインの親睦会だ。

 ひょんな事故から妖精になってしまってから数週間、ゾスの眷属に立ち向かう同志は三人に増えた。しかし、お互い相容れない理念、信念、趣味嗜好を持っているせいで、時にぶつかりののしり合いに発展して大賑わい。

 地球のピンチが迫っているというのに、正義の味方が身内で争っている場合じゃない。

 その危機感から、互いを知り絆を深める場所を用意したのだ。

 龍崎ほむら――マジバトドレイク。

 天馬風華――マジバトアキュート。

 牛尾まいん――マジバトヘヴィ。

 そしてオレ――ドリームランドの王女エルル。

 三人と一匹の女子会が、今始まる。


「えっと、まずは自己紹介とかすればいいのかな?」


 会場が自身の部屋なので、ほむらが率先して口火を切る。


「改めまして、あたしは龍崎ほむら。三須角みすかど高校に通う二年生で、好きな食べ物はハンバーグです!」


 食べ物の情報いる?

 というツッコミは誰もしない。オレもしない。


「天馬風華ですわ。私も三須角高等学校に通ってますが、ひとつ上の三年生で、生徒会長をさせていただいてますの」

「まいんは牛尾まいんっていいます。えっとぉ、まいんは中央中学校の二年生なんですけどぉ、まだまだ先輩達の足元にも及ばない若輩者じゃくはいものなんですぅ。なので、ご指導ご鞭撻べんたつのほどよろしくお願いなのですぅ」


 続けてふたりも自己紹介していく。

 風華はいいとして、まいんは絶賛猫かぶりモードだ。必要以上に腰が低いし間延びした語尾はイラッとくるし違和感を覚えてしまう。


「ご存知エルルエル。ドリームランドの王女らしいけど諸事情で記憶を失ったから、詳しい事情は知らないエル。だけどみんなと頑張っていきたいと思っているエル」


 最後はオレだ。もちろん、エルルとして名乗った。

 さて、ここからが本題だ。

 和やかに朗らかに、とってもハッピーな雰囲気で女子会を進めていきたいところである。


「……」

「……」

「……」

「……」


 しかし、直後に訪れたのは圧倒的な静寂。

 この場にいる誰もがなにを話して良いのかわからず、畑のジャガイモみたいに黙りこくってしまった。

 気まずい。居心地が悪い。息が詰まりそうだ。


「えー……あー……、ま、まいんちゃんとは初対面だね」


 時計の秒針が聞こえるほどの沈黙に耐えられず、ほむらがついに話を切り出した。この重苦しい空気をよくぞ打破してくれた、と褒めてあげたい。心の中でスタンディングオベーションだ。


「中央中学校ってことは、あたしの後輩かぁ」

「そ、そうなのです、ねぇ」

「……」

「……」

「せ、生徒会長もそうですよね?」

「私は引っ越してきた身ですから違いますわよ」

「……」

「……」


 この女子会、恐ろしいほどに話が途切れるな。小口切りどころかみじん切りじゃないか。


「ま、まいんちゃんって、胸が大きいんだね。あたし小さめだからうらやましいな~」

「え~、肩が凝るだけですよぉ」

「……ちっ」


 あ、地雷踏み抜いた。

 風華の口から舌打ちが漏れ出した気がするが、間違いではないだろう。自分のまな板と豊満な乳牛を見比べているし、絶対気にしている。


「で、でもまいんって背が小さくてぇ、先輩方のスタイルに憧れちゃいますぅ」

「そんなことないって。ミニサイズなまいんちゃんだってとってもビビキューだよ!」

「は? ビビキュー?」


 オイ、まいん。マジトーンで返すな。

 謎造語の口癖にツッコミたくなる気持ちはわかるが、もうちょっと猫被りタイムを維持してくれ。


「ビ、ビビキューいいですよね~……あはは。外でお肉焼くのって、とっても開放的、みたいな? やっぱり、高校生になると遊びも派手になる、みたいな?」


 それ、多分バーベキュー。

 似て非なるものどころか一ミリもかすってないから。それっぽいの語感だけだから。


「ところで牛尾まいんさん」


 ここで風華が話題を振る。

 でも何故か冷たい瞳でまいんを射貫いている。なにを話す気なのか。


「は、はい。なんですか天馬先輩?」

「以前あなたに喧嘩けんかを売られたはずなのですが、その一件について言いたいことが山ほどありますの」

「えーっと、その節はどうも……」

「いくら年下だからといって許してあげるほど、私は甘くありませんわよ」


 うわぁ、そうくるか。

 やっと会話に参加してくれたと思ったら、面倒な話題を持ち出してきたよこの人。

 ただでさえ静か過ぎて北極並に冷え冷えだったのに、それに加えて今度は辛口ピリピリホットなムードだ。温度差乱高下で胃がキリキリする。


「あ、あの! せっかくなんで、なにか飲みましょう!」


 ほむらもギスギス空気は勘弁なようで、無理矢理力業で話題を変えてきた。グッジョブ、マジでブラボー。


「あ、あたしはオレンジジュースかな」

「では日本茶をいただきますわ」

「まいんはコーヒーにします」


 これまた見事にバラバラなチョイス。

 生まれも育ちも全く違うので飲み物にも個性が表れるな。

 でもこれで、険悪極まる空気が少しだけ和らいだ気がする。このまま良い方向に行ってほしいぞ、企画した身としては。

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