100%ヒーロー
悲鳴と建物が崩壊する音が混じり合い、街の中心部は
その元凶、暴虐の限りを尽くすのは、触手と金属バットの体を持つ怪人。ゾスの眷属が生み出すディープワンと呼ばれる化け物だ。
オレもついさっきまで、アレに似た姿をしていた。
だが、今は違う。
オレは
「いっつも自分勝手に暴れて、たまにはTPOを守ってよっ!」
彼女が
ドリームランドが誇る戦闘技術の最先端、地球人から見たら神秘の力をもたらすアイテム。しかし、大いなるツッコミどころがある。
なにせ自称本のクロノミコンブック、厚みがあるくせにページがほぼないのだ。
ツタ植物風の模様が刻まれた表紙をめくると、そこには液晶画面らしき物がはめ込まれている。誰がどう見ても、手帳型ケースに収まったタブレット端末の類いだ。
本当に異星の最新技術なのか疑問が残るぞ。
「行くよエルル!」
「あ、うん」
だが、ほむらはそれについては特に気にせず、
ボトルの
『-
ブックからボトルの色がアナウンス、機械音声が色の読み込みを告げてくる。続けてとくとく液体が注ぎ込まれる音がして、画面に龍の紋章が、マゼンタカラーで浮かんでくる。
すると今度はポップな曲が流れ始める。それはまるで可愛さ全開元気弾けるアイドルソング。短めの同じフレーズをリピートし、変身の
『-
「ビビッドチェンジ!」
ほむらが画面をタップして、はつらつな掛け声が
光の
体に纏う光の粒が、集い繋がりコスチュームを形成。ミニスカートのドレスを彩る輝きは、
おもむろに
『-
『-
ポップな曲が奏でられ、変身完了をブックが告げる。
「舞い踊る烈火のカラー! マジバトドレイク!」
龍崎ほむら――マジバトドレイクの名乗りが高らかに響き渡った。
「あー、うん」
あまりに壮大な変身に、思わずオレは
変身前と比べものにならない鮮やかな姿。
しかし、どうしても言いたいことがある。
口に出してはいけないだろう、無粋極まる禁断の言葉。
「変身時間が長過ぎエル」
体感時間は二分弱。敵の前で悠長なことこの上なく、変身に必要な過程が多いのも問題だ。
「なんでアイドルソング風エル」
「本当に遠くの星の技術エル!?」
そして、最後にもうひとつツッコミを。
タブレット端末らしきアイテムもそうだが、無駄に長い変身といちいちうるさい機械音声。しかも何故か英語だ。確かに地球で一番普及している言語だけどさ。
これが今のトレンドなのか、正義の味方業界の。
「え、いつものことじゃん」
「……そうなんだ、エル」
彼女の反応を見る限り、これがきっと常識なのだろう。この様子だと、他にも色々衝撃的な文化がありそうだ。ツッコミしていたらキリがないな。
「待ってたぜ、
頭上から聞き覚えのある声がした。
誰だろうか、脳裏で記憶を探りながら、オレはそちらへ目を向ける。
「お前は……!」
民家の屋根に立っている、モヒカンヘアーの
彼こそゾスの眷属そのひとりであり、オレを怪人にした憎き相手、ガターノだ。
「一日に二回も暴れるなんて、ちょっと働き過ぎだよ!」
「あぁン!? タイミングなんてオレの勝手だろ、偉そうに意見すんじゃねーぞゴルゥアッ!」
人は見かけによらないと言うが、彼の場合、見た目通りの
なんて、どうでもいい分析をしていたら、ガターノとバチッと目が合った。
「あン? おいクソ王女、妙に力が溢れてんじゃねーか。まるでさっき素体にした奴みたいだな」
「うげっ」
背中に冷や汗がたらり、血の気がさっと引いた。
まずい。
エルルの中身がオレ――ディープワンにした人間かも、と疑われている。
このままでは、妖精のフリして女子に近づく、遠回りにアクティブな変態と思われてしまう。
「ま、いっか」
「……ふぅ、セーフか」
最悪の可能性を
言動と容姿の通り単細胞で、細かいことは気にしない性格みたいだ。根掘り葉掘り追求されずに済んで助かった。
「そんだけ強大なエネルギーがあれば、あのお方の復活に役立つだろうしな!」
「なんでそうなる」
前言撤回、全然良くなかった。
ディープワンにされた時と同様、どうやらオレはエネルギーの塊らしく、材料的な意味でお得なようだ。
生まれ持った才能なのか、それとも相性の問題なのか、理由についてはさっぱり不明。だが、素質があるのは確かなようだ。
それはエルルの肉体を得ても変わらず。
反面、それはガターノ達ゾスの眷属にとっても好機。封印解除の鍵たる王女に、詳細不明のエネルギーがおまけでついてくるのだ。もしも邪神が復活すれば、元気いっぱいファイト一発、滅亡目指して頑張るだろう。
願ったり叶ったりとはまさにこのこと。もっとも、オレ達地球の住人としては、史上最悪の栄養剤なのだが。
「……いや、待てよ」
そこではっとする。閃きの稲妻が脳内を駆け巡る。
先程は、自身の謎エネルギーが作用して、ドレイクを苦しめる強敵を生み出した。
では、今はどうだろう。
自爆特攻するのが精一杯の、
サポート役の立ち回りじゃない、前線で舞うハイパー無敵の花形妖精になれるはずだ。
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