私の好きな人は、兄さんの彼女

白雪 維月

第1話 初めての顔合わせ

 ―コンコンコン


 私は病室の扉をノックされた音で目を覚ました。目を擦りながら意識をはっきりさせると、返事を返した。


 「……どうぞ」


 ガラリ、と扉がひかれた。目を向けるとそこには、袋を片手に下げ柔和な笑みを浮かべた私の兄、奥村浩介と女の子の私でも一目惚れしてしまいそうな綺麗な女の人が立っていた。


 「佐奈元気にしてたか?」

 「……失礼します」


 二人は入ってくると私の近くにあった椅子に腰を下ろした。


 「兄さんまた来たの? そんなに毎回来なくていいっていったじゃん!」

 「いいだろ別に。俺はただ可愛い妹の様子を見に来たかっただけ。じゃないとお前が寂しがるかと思ってな」

 「……別に全然寂しくないけど」


 フンと鼻を鳴らす私に向かって、兄は片手に下げていた袋を前に差し出してきた。


 「そんなこと言ってるとコレあげないからな」


 その袋には見覚えがあった。なぜなら、私は小さい頃からケーキ屋【Shiro】で売られているシュークリームが大好きだったからだ。


 「……べ、別にいらないけど。でも兄さんがいらないなら、貰ってあげてもいいけど。残すともったいないからね」

 「…………」

 「う、嘘です。欲しいです。優しい優しい兄さんがお見舞いに来てくれて嬉しいです」


 私が涙目になって兄さんに謝っているところがおかしかったのか、兄の隣に座っている女の人がクスッと笑みをこぼした。


 兄から袋を受け取りながら兄の隣に座っている女性に目を向けた。絹のような美しい黒髪は肩甲骨あたりまで伸びており、顔は小さく、目鼻立ちが整っていてアイドル顔負けの美少女がそこには座っていた。それだけではなく、体のラインは女性の理想そのものだった。体は引き締まっており、でも出るところはしっかりと強調されていて羨ましく思った。


 「で、兄さん。その隣に座っている人は誰なの?」

 「……この人は黒瀬香織さんで、……お、俺の彼女なんだ」


 兄が顔を紅潮させながら黒瀬さんを紹介した後に、凛と透き通るような声が私の鼓膜を打った。


 「黒瀬香織です。浩くんにはいつもお世話になっております」

 「いえいえ、こちらこそ兄がお世話になってます」


 その優しそうな笑みを向けられ、私の頬が自然と熱くなるのを感じる。んんっと咳払いをして兄に目を向けた。


 「いくら払ったの?」

 「なにが?」

 「黒瀬さんをレンタルするための料金だよ。兄さんにこんな綺麗な彼女できるわけないじゃん。だからいくら払ったのか気になちゃって。妹に見栄を張るためだけに危ない橋を渡らないほうがいいよ」

 「そんなことせんわ!」

 「だって兄さんにはもったいないぐらい黒瀬さん綺麗じゃん」

 「そこには同意するが―」

 「ついに認めたね! 後で私が母さんたちに報告しておくから、危ないことは今回で終わりにすること! わかった?」

 「いや、なにもわからんのだが!」


 はぁ、と兄がため息をこぼした。ちょっとからかい過ぎたかなと少し反省し、真面目に問いかけた。


 「で、いつから付き合ってるの?」

 「中一の二学期ぐらいかな」


兄は今、中三なので二年ぐらい交際していたんだろう。また、私の中の悪戯心が目を出した。


 「どこまでしてるの? キスはもう済んでいるよね? あ、もしかしてそれ以上のことまで済んでちゃったりして~」

 「……っ、……べ、別におまえには関係ないだろ」

 「ふーん、」

 「なんだよ、そのニヤニヤ顔は」


 兄は照れている顔を私から隠すように背けるが、そこでは顔を真っ赤にして俯いている黒瀬さんと目が合って兄の顔はさらに赤みがかっていた。


 「…………」

 「…………」

 「ちょっとふたりだけでイチャつかないでくれる?」

 「イチャついてねぇわ」「イチャついてません」

 「ちょっと糖分取りすぎてしまったから、兄さんブラックコーヒー買ってきて」

 「おまえブラック飲めないだろ」

 「うーん、じゃありんごジュースで」

 「はいはい、わかったよ」


 兄はしぶしぶといった感じで病室から出ていった。病室から兄が出ていくと必然的に黒瀬さんと二人っきりになる。沈黙を破るように黒瀬さんに話かける。


 「あ、まだ私の名前言ってなかったですね。兄さんから聞いているかもしれませんが、奥村佐奈です。佐奈って呼んでください」

 「わかった、佐奈ちゃんね。私のことも香織でいいわよ」

 「じゃあ、香織さんと呼ばせてもらいます。香織さんは兄さんのどこを好きになったんですか?」

 「うーん、恥ずかしいね、改めて聞かれると」


 香織さんは恥ずかしいのか視線をさまよわせていたが、少しすると優しい眼差しでこちらを見つめ語りだした。


 「一緒にいて頼りがいがいがあるところかな。いつも私を引っ張ってくれたり、我が道進んでいるように見えるけどその実、しかっり周りへの気遣いもできるところが私は好きかな」

 「…………」

 「……え? なんで黙るの? 私おかしなこと言ってた?」

 「いえ、兄さんは素敵な彼女さんがいて幸せ者だなぁと思って」

 「……っ、からかわないでよね」

 「あ、でも兄さんにはもったいないから私の彼女になってくれませんか?」

 「ふふ、それもいいかもね。佐奈ちゃん可愛いし」


 そんなことを話していると扉の開く音が聞こえてきた。


 「何の話してたんだ?」

 「別に、ただのガールズトークよ」

 「ほれ、りんごジュース」

 「ありがと」


 兄からりんごジュースを受け取り、キャップを回すと直ぐに取れた。あまり力を入れずに取れたのは兄が緩くしてくれていたからだろう。そんな気遣いを嬉しく思いながら、ゆっくりとりんごジュースを喉に流していった。喉が潤ったのを感じながら兄に目をやった。


 「兄さん、香織さんを悲しませる様なことしないようにね。兄さんにはもったいないぐらいの彼女さんだから。もし悲しませるようなことしたら、私が香織さんもらちゃうからね」

 「わかってるよ。そんなこと」

 「じゃあ、私のお見舞いはこれで終わり。来てくれてありがと。あとは若いお二人でデートでもしてきんさい」

 「なんで、ばあさんみたいなこと言ってんだよ。まあ、でもそう言うんならお言葉に甘えてデートに行かせてもらうわ。また来るな」

 「またね、佐奈ちゃん」


 そう言い残し二人は病室から帰っていった。






































 ―――だが、これから先この三人が出会うことが二度とないことを今の私には知る由もない。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 初めまして、白雪維月です。

 この作品が私の処女作となります。

 「面白そう」、「続きが気になる」と思っていただけた方は、感想等もらえると嬉しいです。

 これからも白雪維月をよろしくお願いいたします。

 

 



 

 


  












 




 


 



 





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