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 やがてミューリエが水汲みから戻ってきた。その姿を見つけるなり、僕は彼女に駆け寄る。


 近くに来るまで待っても良かったんだけど、逸る気持ちを抑えきれなかったから。一秒でも早く話がしたかったから。


「ミューリエ!」


「……ん?」


 足を止めたミューリエは、僕の顔を見るとわずかに眉を動かした。それと一瞬だけど動揺したような色も見せたような気がする。


 もちろんそれはあくまでも僕の認識であって、本当に彼女がそうしたのかは分からないけど。


 ただ、十中八九は間違っていないと思う。だって今まであんなに素っ気なくて、相槌しか打ってくれなかった時もあったのに、彼女の方から口を開こうとしてくれてるんだから。


「……アレス……少し……顔つきが変わったな」


「ミューリエに頼みがある。僕に剣の稽古をつけてくれないか?」


「なんだと?」


「僕、勇者の試練を乗り越えたいんだ!」


「一朝一夕で上達はせんぞ? それは理解しているか?」


「だからこれから毎日少しずつでも稽古をつけてほしい!」


「ふむ……。だが、それは私がアレスとこれからも旅を続けるという前提の話だろう? アレスはこれからどうしたいのか、まずはその答えを聞かせてほしい。一緒に旅を続けるかどうかは、その返答次第だと言ったはずだ」


 ミューリエは呆れ顔で小さくため息をついた。




 ――そうだった。彼女にしてみれば順番が逆だもんね。


 でも僕は決意したんだ、魔王を倒すって。ミューリエだってそれを聞けばきっと共感してくれるはず。もう迷いなんかない。


 一世一代の僕の決意、今こそ見せる時だ!


「僕は試練を全て乗り越えて魔王と対決する! そして倒す! これが僕の答えだ!」


 ミューリエの瞳を真っ直ぐに見つめながら力強く言い放った。


 この言葉は口だけじゃない。男が一度口にしたことは覆しちゃいけないってどこかで聞いたような気がする。もちろん、今の僕にはそれを貫き通す覚悟も意志もある。


 この想い、どうかミューリエに届いてくれっ!


「そうか……。それなら私はアレスと旅を続けることは出来ない!」


「なっ……!?」


 ミューリエからの返事は、僕の想いとは裏腹なものだった。




 聞き間違いようのない、ハッキリとした声――。


 この突きつけられた非情なる現実に、僕は言葉を失って呆然とする。


「ミューリエ、どうしてさっ?」


 僕の問いかけに、ミューリエは答えなかった。目を逸らさず、じっと返事を待ってみてもそれは変わらない。


 お互いに沈黙したまま、その場には重苦しい空気が漂う。


 それからしばらくして、ミューリエが小さくを息をついてからポツリと呟く。


「残念だ。少しはアレスの力と心に期待していたのだがな……」


「僕の力と心?」


「おっと、口が滑ったか……。フッ、今の言葉は忘れろ」


 ミューリエはクスッと照れくさそうに頬を緩めた。それは束の間のことだったけど、僕は久しぶりに彼女の笑顔を見たような気がする。懐かしくて心が温かくなって、自然に僕も笑みがこぼれる。


 そのあと、ミューリエの表情は凛としていてちょっぴりクールなものへと戻る。


「せめてもの情けだ。日没までは剣の稽古をつけてやる。だから死ぬ気でかかってこい。それで少しでも何かを吸収しろ。――さぁ、時間はあとわずかしかないぞっ?」


 今のミューリエは吹っ切れているかのような気がする。スッキリとしていて晴れやか。一方でどことなく強がって、それでいて少しだけ寂しそうな感じがしないでもない。



 ――ここでダイス判定。六面ダイスを二個振ろう。数値の合計は?



●偶数……→46へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927860513437743/episodes/16816927860515740573


●奇数……→63へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927860513437743/episodes/16816927860516822306


 

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