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 いくら動物に近いからってモンスターに変わりはない。そもそも邪気がなければ大型のコウモリのようだと言っても、それはあくまでも仮定の話。現にデビルバットには邪気があって、僕に襲いかかってきているんだから。


 それにこのままずっと避け続けるのなんて無理。いずれ僕の気力も体力も尽きて、あの素速い動きに対処できなくなる。そうなったら確実に毒牙の餌食だ。


 この状況では逃げることだって不可能だし、ピンチを乗り切るにはミューリエにデビルバットを倒してもらうしかない。


「ミューリエっ、デビルバットは動物に近かったとしてもモンスターだよっ! だから早く倒しちゃってよ!」


「……承知」


 ポツリと呟いた直後、ミューリエは目にも留まらぬ速さで剣を振るってあっさりとデビルバットを倒した。真っ二つになった肉塊は床に落ち、わずかにピクピクと痙攣している。ただ、それも程なく沈黙し、その場に静けさが戻る。


 ミューリエは剣を鞘に収めると、無言でその場に佇んでいた。こちらには背を向けた位置関係になっているから表情は分からない。


「……た、助けてくれてありがとう。ミューリエ」


 僕はそう声をかけたけど、依然として彼女は一言も発さなかった。髪の毛一本すら動きがなかった。まるで金縛りにでも遭っているんじゃないかというくらいに凍り付いている。


 重苦しい空気と耳が痛くなるような無音。その緊張感に耐えきれず、僕は思わず唾を飲み込む。


「……行くぞ」


 ミューリエは僕に背を向けたままポツリと呟くと、早足で先に歩いていってしまった。


 まるで僕の存在なんかそこにはなくて、ひとりで旅をしているかのような感じ。意識すら向けようとしてくれない。


 僕らの間に心の壁が出来たというか、天と地くらいに気持ちが離れてしまったような気がする。どうしてこんな風になっちゃったんだろう? 悲しくて寂しくて、胸が張り裂けそうになる。


 とはいえ、今の僕にはミューリエに付いていくほかに選択肢なんてない。だから今は色々な想いを心の隅に押し込め、急いで追いついて彼女の一歩後ろを歩いていく。

 こうして僕たちはさらに洞窟の奥へと進んでいくのだった。



 →41へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927860513437743/episodes/16816927860515550810

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