僕は剣を振り上げたまま、タックさんへ向かって全速力で突進した。


 剣を扱う技術とか戦術とかコツみたいなものなんてないから、とにかく間合いに入って振り回すだけ。逆にいえば、それくらいしか出来ることがない。運良くヒットすれば儲けものという感覚だ。


 それに誰であろうと、剣を持った相手が結果を恐れず死に物狂いで攻撃してくることに恐怖を感じないはずはない。怯んでくれたらさらにチャンスは大きくなる。


「お前は……の意味を……って……い……」


 ん? 今、後ろでミューリエが何か呟いたような……? 気のせいかな?


 ――まぁ、いいや。今は戦いに集中だ!


「うぉおおおおおぉっ!」


 雄叫びのような声を上げつつ、僕はタックさんとの距離を縮めていく。


 ただ、タックさんはキョトンとしたまま、ナイフを握って棒立ちをしているだけ。戦いが始まってからその姿勢は変わらない。余裕があるのか、単に僕が舐められているだけなのか。


 でも油断してくれているなら、ますます付け入る隙はある。


 やがて彼がこちらの間合いに入り、僕は剣を思いっきり振り下ろした。


 でも――


「よっと……」


 僕が剣を振り下ろしている途中で、タックさんはヒラリと体を翻して攻撃をかわした。


 いとも簡単に、造作もなく、しかも紙一重で! 信じられないことに、避けている最中にアクビすらしている。驚くほどの動体視力の良さと軽い身のこなしだ。


 一方、全力を込めた剣が空を切ったことにより、その剣の重さと勢いも相まって僕はバランスを崩してしまった。足がもつれ、そのまま前方へうつ伏せになる形で盛大に転ぶ。


 その際、剣は手からすっぽ抜け、壁にぶつかって跳ね返ってくる。そしてその切っ先は床に倒れ込んでいる僕の胴体を目がけて落ちてきて……。



BAD END 4-5

 

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