わたしが強くなる理由

1.

　小さな頃のわたしは泣き虫で、いつもお母さんの後ろをついて回っているような、そんな子供だった。

　お母さんは遠い異国からやって来た人で、わたしはその血を色濃く受け継いでいた。

　わたしの村は砂漠の真ん中にあって、住む人たちはみんな浅黒い肌に黒い髪をした人ばかりだった。

　髪の色も瞳の色もわたしとお母さんだけ違っていて、そのことでわたしはよく近所の子供たちにからかわれていた。やんちゃな男の子たちからいじめられたりもして、ますますお母さんの背中に隠れてばかりいるようになった。

　お母さんは不思議な人だ。あまり感情を表に出さなくて、何を考えているのかわからない時がある。大人なのに時おり子供みたいに無邪気なところがあって、それでもうっすらと笑いながらわたしのことを抱きしめてくれるお母さんのことがとても大好きだった。

　ある日、わたしたちの住んでいた村に、盗賊たちの一団がやってきた。雨期が明けたばかりのとある夜に、彼らは突然現れて村に襲いかかったのだ。

　村のあちこちに火の手があがって、泣き叫ぶ声やげらげらと恐ろしげに笑う声が響き渡っていた。ほうぼうを逃げ惑う人たちの波をかきわけながら、わたしはお母さんに手を引かれてひたすらに走り続けた。

　村に伝わる古い古いほこらの跡地にまで辿り着くと、お母さんはようやく立ち止まった。わたしを建物の陰に押し込んでおまじないをかけると、何があってもここを動いてはだめと、真剣な顔で言い聞かせた。

　いつになく真面目な顔をするお母さんを見て、わたしはお母さんがこれから死ぬつもりなんだってわかってしまった。行かないで、一緒にいてと泣いてすがるわたしの頭をなでると、お母さんはいつもより少し寂しそうに笑いながらわたしのことをぎゅっと抱きしめてくれた。

　どこからともなく取りだした大きな剣を片手に、お母さんは押し寄せる盗賊たちのほうへゆっくりと歩いていく。

　お母さんが戦うところを見たのはそれが初めてだったけど、襲ってくる盗賊たちが相手にならないほどに強かった。お母さんと同じくらい大きな剣を軽々と振り回しながら戦うその姿は、まるで踊ってるみたいにきれいだと思った。

　それでも次々と集まってくる盗賊たちを相手に一人で戦いきれなくなって、お母さんはだんだんと傷ついて弱っていく。そうして、ようやく盗賊たちがいなくなり始めた頃、お母さんの前に一人の男が現れた。

　重そうな鎧を身に着けたその男は、他の盗賊たちと明らかに雰囲気が違っていた。ずっと背が高くて体も大きくて、大きな大きな鉾槍（ハルバード）を持ってにやにやと傷ついたお母さんを見下ろしていた。

　男はとても強かった。傷ついたお母さんの剣を楽々と受け止め、押し返し、力任せに弾き飛ばしてしまう。ぼろぼろになって、それでもよろよろと立ち上がるお母さんに、もういいよ、早く逃げてって言いたかったのにわたしは震えるばっかりで声をあげることさえもできなかった。

　やがて一歩も動けなくなってしまったお母さんの身体を乱暴に蹴とばすと、男は手に持った鉾槍を大きく振りかぶって――お母さんに向かって、力いっぱい振り下ろした。

　わたしは、盗賊たちに見つからなかった。

　身体はまるで金縛りにあったみたいに動かなくて、どんなに泣き叫んでも、助けを呼んでも、わたしの声は誰にも届いてくれなかった。

　泣いて、泣いて、泣き疲れて……気がついたときには、お父さんに抱きかかえられて、村の診療所に運ばれていた。

　たくさん、たくさんの人が死んでしまった。

　生き残ることができたのはほんのひと握りの人たちだけで、お父さんが生きていたのは本当に運がよかっただけだった。大人も子供も、男も女も関係なく殺された。

　肌の色をよくからかってきた意地悪な男の子も、一緒によく遊んでくれた仲のいい女の子もみんな死んでしまった。

　村の大人のだれかが、この村はもうだめだと言った。生き残った人たちはみんな知りあいや親戚を頼って、一人、また一人と村を出ていった。

　そうして残されたわたしとお父さんのところに、教会からやって来たという女の人が現れた。女の人は見たことのない衣服に身を包んでいて、わたしたちのことを迎えに来たのだという。

　わたしとお父さんは、お母さんの故郷の村に住むことになるのだという女の人の話を、わたしはどこか他人ごとのような気持ちで聞いていた。