第7話 戸隠の旅館

 泊めてもらうのは、神主さんが経営している元宿坊の旅館でした。

 代々戸隠神社の神主(明治の神仏分離以前はお坊さん)をしながら宿坊をしていたんだとか…。

温泉では無いのですが、ここも手打ち蕎麦の有名宿みたいです。


 おっと、宮様御一家の写真が飾ってある…。

そんなヤンゴトナイ人まで泊まるところなんだ。

 なんだか、恐れ多くなってきましたよ。


 案内されたお部屋も、綺麗で豪華…。

もしかして、一番良い部屋を用意してもらったのかも…。

 やっぱり私は、ラッキーガール!

 



 食事は広間で、他のお客さんも一緒。

 元宿坊というだけあって神棚というか、神社のような大きな祭壇もあります。


 私は、その祭壇近くの席。

ここって、一番の上座じゃない?

なんだか、ホントに申し訳ないな…。

 他のお客さんも、こっちをチラチラ見てる…。

私、完全に場違いよね……。


 し、しっかし、ここの料理、凄い!

蕎麦会席料理っていうらしく、どれにもこれにも蕎麦が使われている。

とっても凝った料理で、洗練されていて、優しく上品で、深い味…。


 そして、締めの、打ちたて手打ち蕎麦が最高!!

極細だけどコシがあり、蕎麦の香りが鼻に抜ける。ツユも甘すぎずに私好み。

 これ、つずら屋さんに負けてないぞ!


 食事終わりに、御主人が私のところへ挨拶に来てくれました。

白い調理着姿。よく見ると、さっきの紫袴の神主さんです。

 違う格好してると分かんないな…。

この料理、神主さんが作ったものだったんだ……。


 蕎麦会席、最高だったと話すと、ちょっと照れたように、そして申し訳なさそうに、御主人は言いました。


「手打ち蕎麦を出す関係で、広間で用意させてもらったけれど、配慮が足りませんでした」と…。


 どうも、あの看護師さんから、私がアルビノだと聞いたようです。

配慮というのは、周りの目のこと。

 全く気にならない訳ではありませんが、そんなのはいつものこと。

外人さんだと思っているだけですから大丈夫ですよ。


 それよりも……。


 私は、いつの間にかポケットに入っていた、あのお御籤を見せました。

 御主人=神主さんは、大いに驚いていました。


 …ありえないと。


 外見は神社のお御籤と同じ。

なのに、中が全く違う。

 大凶なんて無いはずだし、大当たりなんて、論外だと……。


 まあ、普通そうでしょうとも!

でも、じゃあ、私が持っているこの二枚は何??


 それに……。


 食事中、ずっと私は気になっていました。

ある視線に…。


 御主人が気にしていた、他のお客さんのじゃありません。

上座の隅。つまり、私のすぐ近く…。

 和服姿で白髪白髭のお爺さんがずっと、私の方を見てニコニコしていました。

でも、話しかけてはこない…。

 そのお爺さんに寄り添うように、やはり赤い和服姿の小さな女の子。

着物の丈がちょっと足りなくて、脚が出ていたね。

その女の子は、そっぽを向いていた…。


 明らかに違和感のある二人。

客のようには見えないから、宿の関係者?

 でも、誰もその二人の方を見ないし、気にもしていないようでした。


 まるで、そこには、誰もいないように……。


 いつの間にか居なくなってしまったその二人について、私はご主人に聞いてみました。


「え? うちには、そんな老人も小さい子供もいませんが……」


「は? い、いや、そこにずっといましたけど…」


「いやいや、そんなはずは。そんな人が居れば、私も従業員も直ぐに気付きますし…」


「えっ……」


「あ、あの……、大丈夫ですか?」


 大丈夫って、何が? あ、頭か…。

私は自分の頭へ手をやります。


 い、痛い…。

コブが出来てる…。


 もしかして、打ちどころ悪かったかなあ……。

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