詩「望郷」

有原野分

望郷

市民プール。の奥にある壊れたシャワールー

ムの壁に浮かび上がるのは地元の海だった。

元気。うん、コロナが落ち着いたら――。電

波で錆びついた両親の声が日毎にか細く。な

っていくような気がして、揺れる水面に顔か

ら飛び込んで、目を真っ赤に腫らして。腕に

刺さる針の痛みは誰かの愛情か。嘘、赤の他

人の血。娘は最近クロールができるようにな

って、海。ぼくはスキップでもしながら、階

                   段

                   を

              駆けあがって

会いたい人。に会いたいときに会えていた日

常に甘えていたのかもしれない。神さま。幸

せはシーソーまたは天秤のようです。宇宙は

楕円形の卵で。小さな命。父と母と朝一に必

ず「おはよう」と送り合うのが当たり前だと、

終わらない錯覚を夢見ながら、フラフラの副

反応、夜。空気が抜けて「イグアナが飼いた

いわ」「ぼくはね、昔、手乗り文鳥を飼ってい

たんだよ」「猫もかわいいわ」「白と黒の文鳥

なんだ。…鳴き声が美しかったんだよ」震え

る手のひらに乗った空は――鳴く。――鳴け。

――チュチュチュチュンチュン…、そっと手

                   紙

                   を

            送ったことがある

。誕生日。鬱。は、お前達のせいだと、めち

ゃくちゃで、気が狂っていた、罪。人でなし、

嫌味なダダイスト、シュールな親不孝者、そ

の癖、こいつは人生の幸福を信じて疑わず…、

更に両親の幸福も信じて――ああ、眠たいや、

 眠たい。

(――刺す。――刺せ)

 おはよう。と咳、また今日を振り返って。

会いたい気持ちは卵焼き、トースト、コーヒ

ー、花。の写真、鳥の鳴き声、漢方薬、注射。

また温泉にでも行きたいと、遠くからふと思

うこの感覚は、朝。仕事に行く前にまだ生き

ているうちに、どうか置いていかないでくれ。

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詩「望郷」 有原野分 @yujiarihara

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