読書のことやエッセイを定期的に書いていきます♬

Ochi Koji

第1話 「星の王子さま」

「星の王子さま」   サンテグジュベリ


この本をもっと早く知っていれば、人生が変わったのではないかと思う。

そんな本である。


残念ながら、僕は田舎の兼業農家だったものだから、野山を走りまわって育ち、知的に育つ環境はまるで無かった。


友達には、両親が学校の先生という家もあって、「子供世界文学全集」や百科事典などの本が家にそろっていて、知的環境は遥かに優れていた。

子供心にも凄くうらやましかった。


残念なことに僕の両親は活字とは全く無縁の人間である。

田舎で必要な活字は回覧板くらいかも知れない。


おそらく彼の家では小公子や小公女にまじって、この「星の王子さま」も入っていたのではないかと思う。


僕は大人になってからこの本を読んだ。

大学生くらいだったと思う。大人が童話を読むのは少々情けない。


しかし、子供向けの童話だと思っていたのだが、恋愛の教則本のようなことが書いてあって、いたく感動した。


もっと早く読んでいれば、楽しい学校生活がおくれたのにと悔やんだ。


スマップの歌う「たった一つだけの花」のことが出てくる。

小さな星から都会に出て来た王子様が、きれいに咲いたたくさんの花達を見てびっくりする。


しかし、後で大事なことに気がつくのだ。


君達はただきれいなだけで、僕にとってはそれだけのことだよと言ってのける。

田舎から出てきた若者が陥りやすい話である。


自分が居た星に咲く一つの花は、王子様が毎日水をやり、風が吹くといえば囲いを立ててやる。お日様が強いといえば日除けを作ってやる。とてもわがままな花である。

しかし、王子様にとっては、いつのまにかとても大切な花になっていた。


ここに恋愛の秘密があるように思う。


自分が手を掛ける、そうするといつの間にかこの花は、大切なかけがえのない存在になっていく。

なるほど、そういうことだったのか。もっと早く知っていればと、そう思った。


もう一つ印象に残っている話がある。


重要な友達となるキツネが出てくる。

なぜ大事な友達がキツネなのかと、ハタと考えたがちょっと不思議だった。


キツネは日本でも欧米でも狡猾なイメージがあるにも関わらず、とても重要な人物として登場する。

そして、このキツネがとても示唆にとんでいる。


こんな素晴らしい友人や先輩に巡り合いたいものである。実際の人生では難しいかも知れないが、書物の中でも良い。

書物の素晴らしさは、こんな所にもあるようにも思う。


そして、このキツネが言う。


大事な友達と会う時には、気まぐれに会ってはダメだという。

毎週水曜日に会うとか日を決める等の決まりを作ることが、重要なのだという。


そうすると火曜日あたりから、明日会えると思ってそわそわしてウキウキしてくる。

また、風になびく麦の穂を見て、君の黄金の髪を思い出して嬉しくなるだろうという。


なるほど、決まりが大事だったのだ。


本当にもっと早く知っていればと後悔した。

こうしたことを知っていれば、もっとうまくやれたのかも知れない。


と思うと汗がどっと噴き出す。


容易に会えない、障害があるほど気持ちが募っていくのだ。

今のSNSで簡単に繋がるのは、気持ちの高揚は小さいのかも知れない。


不倫が高揚するのは事実かも知れない。


「この人を好きになってはいけない」と考え始めた時が恋の始まりで、

障害が大きいほど抑えが利かなくなるのではないだろうか。


もっとも、覚める時も同じであろうと思う。


「本当に大事なことは、眼には見えない」との言葉も忘れられない。

どのシーンで出てきたのかは想い出せない。


手元に原文が無いのですこぶる怪しいが、心の眼で見なさいという示唆に富んだ言葉である。


剣の極意と同じである。日本人には、とてもわかりやすい。


他にもある。


「砂漠は井戸を隠しているから美しいのだ」って、子供にはわからないだろう。


最近若い女性達がなぜかサハラ砂漠に行っているのをFBで見るが、

こんなこともインプットされているのかも知れない。


厳しい砂漠の中にも、必ずオアシスがある。


サンテクジュベリは、飛行機乗りだった。

そして小説家として硬質な小説も書いている。「夜間飛行」とか「人間の大地」とか。

この星の王子様を書いた頃には、愛人もいたらしい。美人に決まっている。


男から見てもしびれるほど、憧れる存在である。


エンジニアであり、かつ仕事に対しては妥協を許さず一途な所がある。

遭難も経験していて、そしてその結実がこの著書にもつながっている。


最初に「星の王子様」と会うのは、飛行機の不時着からだったと思う。


彼は第一次世界大戦で飛行機に乗ったまま帰らぬ人となった。

しかし彼には、そういう人生が似合っているように思う。


彼は人々に飛行機乗りのまま、そして「星の王子様」の作者のまま、

伝説になったように思う。



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