第13話 断片的な記憶

「…耐えろ。」

『嫌じゃ、飯食いたい。』

「そんなん言ったって、なあ、」


俺たちは博士から追い出されて、名誉を剥奪されて、今どん底だ。腹も限界だ。


「じゃあ飯は?盗むとでも言うのか。」

『あ、我輩に、アテがある。』


俺はゼータに腕を引っ張られた。


「お、おい。」


着いたのは、ソラの定食屋という所。


「ソラの定食屋?」

「お姉ちゃーん。」


こっちに走って来る少年がいる。


「うお、リク。」


どうやらこの子はリクと言うらしい。

「リクじゃないか。」

「あの、リク君とゼータは、どんな知り合い?」

「ぼくは、この前ね。ゼータちゃんと、一緒に遊んだの。」


リクとゼータは、どうやら知り合いらしい。


「お兄さんは?ゼータのお兄ちゃんなの?でも、」

「いや、此奴はまあ、お兄ちゃんみたいなもんではあるな」

「ゼータお前、」


こっちを向いたゼータは、純情な少女のような顔をしていた。男だし絶対老人だがな。


「あ、ゼータくんじゃない。」


ドアを開けて出てきたのは美人な女性だった。


「あなたは、ゼータくんの親なの?でも、若すぎるよね。」


彼女に何か聞かれたが、俺は今の状況を把握していない。


「そ、そうだ。我輩は、腹が減ったのだ。此奴にも、与えてやってくれ。」「え?」


ゼータは、そう言うと頭を下げていた。

それじゃ、まるで乞食じゃないか。


「ソラの定食屋としてそれは出来ない。無条件で与えるというのはって。アンタは…。」


出てきたのは、屈強な男だった。だが、さっきまで頑なに表情を変えなかった男が驚いた

ような顔をしていた。


「あの巨大なリザードを倒した奴にお前よく似ているな。」


いや、合ってるけども。でもなんかここで言うのは、うーん


『我輩、謙遜は好きだが、そんな弱々しいと舐められるぞ。』


心の中のゼータの声が聞こえる。


「じ、実はあれ俺たちなんですよ。」


俺は少し冗談気味に言った。


「嘘を吐けぇ、彼奴は銀髪だったぞ。」

「そ、それは、此奴と我輩が合体した姿なのだ。」

「何言ってんだ嬢ちゃん、ほら、帰った帰った。」

「そんな事言わないの、ソラ」


美しい女性は、屈強な男に言う。


「もーレアが言うなら、しょうがないなぁ。


ほら来い。美味い飯食わせてやる。」


「張り切っちゃって。ゼータくんもあなたもちゃっちゃと入りましょ。」


俺はレアと言う女性に腕を引かれ、店の中に入った。


チリリン。と店のドアに付けられた鈴がなる。


「へぇー店の方はこうなってたんだ。」


ゼータが感心していると、レアさんが話しかけてきた。


「私は知ってるよ。あなたがあの黒騎士だってね。」

「え?」


俺が驚くとレアさんは少し微笑んで言った。


「だってね、あなたと黒騎士のマナ構造が似ているもの。」

「マ、マナ構造?ってなんですか。」


突然のマナ構造という発言に、どういう意味なのか分からなくなる。なんかいい香りがする。カレーだろうか。


「まあ、後で話しましょ。あー、ゼータくんも食べるんだよね。あの人ったら、中辛じゃまだ子供には早いでしょ。」


どうやら彼女はカレーを作っている匂いで辛さが分かるらしい。


「我輩の勝ちー」「えーずるした!」「我輩ずるなんかしてなーい」


そんな声が聞こえた。よく見るとチェスをやっていた。というか、100年間寝てたのによくできるな。


『我輩も何故か出来るんだよ。』

「え?」


やはり思考を共有しているから頑張れば盤面まで見えそうだなぁ。よしやってみるか。

足を滑らせて奈落に落ちていくような感覚になる。


『やめろ、…やめろ!!!お前それやったらもう戻れないかもだぞ。おい!』


意識が遠のく。


光が差し込む感覚があった。


「我は創世の龍→×+|^%○>>である。お前のような悪は、滅ぼさなければ。」


これはなんだ。白くて緑の龍と、全身が闇に覆われた少年。が空に浮いている。少年の周りには怨念や、悪意が渦巻いているようでって、本当にどういう状況?


「うわぁぁぁ!」


また奈落の底に落とされる感覚。


再び光が差し込む感覚があった。


「私はディミク、そなたを倒す者だ!」


目の前には、聖剣を持った青年がいた。

あ、あれは、俺が持った時と同じ光だ。だが、色が違う。黄金に輝いている。


「いくぞ、ゼター。この剣でお前を滅する!」


また奈落に、落ちそうになったその時。


「おーい、寝るな、。こんなとこでおーい。」


ゼータの声がする。目を開けると、ゼータと爺さんがいた。


「おお、目覚めた。」


爺さんが俺にそう言った。辺りを見回すと。ゼータ達がこちらを見てる。


「すまない。空腹で気を失っていた。」


俺は誤魔化すが、ゼータは、


(無謀な事はするな。帰って来れないと思ったんだぞ我輩。)


と。伝えてくる。すまないとは、思っている。


「大丈夫?おにーちゃん急に寝ちゃってびっくりしたよ!」

「ほっほっほ。ワシがやらなばお主は廃人になっておったぞ。」

「すまない。」


俺は、この人達に迷惑をかけているのにこれから食事なんて出来ない。


「ほっほっほ、それならアテがある。」


爺さんは、一切れの紙を渡してきた。

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