序章 始まりの街、ユグドルフ

第1話 目覚め、そしてユグドルフ

「待ってください!先輩…僕まだ。」


屋上には二つの影があった。


「杉原君、もういいよ。私はどうせ要らない子だから、」


先輩と呼ばれる人は答える。


「だからって、そんな、自殺しようとしないでくださいよ。」


「だって誰も私の事好きでも無いし!」


先輩は、俺にそう言った。それが彼女の最期の言葉だっ…。






「うわぁぁぁ!」


最悪だ。なんか悪夢を見た気がする。


「大丈夫ですか?」


と少女が口にする。


「ああ大丈夫、少し悪夢をね。」


俺が、ベットから起き上がると少女に言った。


この少女の名はリサ。夜に盗みに入った少女だったが、リサは盗賊をするにはあまりに弱かった。だからこそ、盗みをするくらいなら暮らさせてあげようと父に相談したら、快諾してくれたのだ。今はメイドをして貰っている。


『おい!我を忘れるな!』

「うわぁ!」


胸から声がする。


『愚かな若人よ、我を瀕死にさせおって、』

「あの、大丈夫ですか?」


リサが俺に話しかけた。


「え?あれ、てかなんで俺寝てたの?」

「…ユニスさん、三日も寝てたんですよ。」


リサが涙目になっていた。


「ごめん、でもなんで?」

「だってユニスさん、胸に風穴空いてたのに。なんで蘇ってるんですか?」


リサが唐突に言う。


「え?もしかして夢じゃない?」

「あの、今あなたは有名人なんですよ。」

「もしかして、あの聖剣ヴィングスのことで?」

「そうです。」

『我を無視するな!』

「そういや、何かと契約した気…」

『我を!忘れるな!』


(てことは、此奴は。)


『我の名を忘れるでない!、我が名はゼータ・ネメシス!』


やはり、契約したままだ。


『え?なんだ?実は貫かれたのを治すのにめちゃ魔力使ったからもう少しの思考の違うのが聞こえないのだ。』


(お前なんで死んでないの?)


『そ!れ!は!お前が死んだら我が死ぬからだ。』


そうなれば、


「団長!団長は?」


リサは、答える。


「まだご存命です。ただ…。」

「団長の所まで行くぞ。リサ見当つく場所はどこだ?」


俺は焦りを感じる。団長が生きているなら!


『焦るな焦るな、生きているんだろ?のんびりしとれや。』


うるさい。うるさい!


「あの、王立魔法医術研究所バグーバンにいると思います。」


リサは答える。


「分かった、すぐ向かう。って痛っ。」


俺は体勢を崩した。


「ダメですよ。…そんな動いちゃ。寝てたんですから。」

「でも、…団長は、」

「大丈夫ですから。落ち着いてくださ…いって。」


リサも、倒れてしまった。


「三日三晩付きっきりでしたので。すいません。」


リサ…リサが心配してくれるのは、今まで信頼出来る人がいなかったからと泣いていたのを思い出した。


「ここで寝ていいよ。」


俺はベットを指さした。


「でもこれはあなたの…。」


リサは少し戸惑う。


「いいから。」

「ありがとうございます。」


直ぐにリサは、眠りについた。


『なあ、会いに行かないのか?』

「行くよ、まあ、ゆっくりね。」


ゼータは、どうやら危害を加えるほどの力もないらしい。


「いってきます。」


家を後にした。


自分のというか父さんの領地を越えて、ユグドルフというブリンク王国の首都に行く。

まあ、普通に歩いたら二日かかるが。馬車があれば、今日の夕方頃には着く。と思っていたのだが。


「出れません。」


馬車の運転は執事であるトレーター・ライオット(トレとよく呼ぶ)がしてくれるのだが。


「何故だ?トレ」


「それは、貴方様が王国の世界の聖剣ヴィングスを覚醒させたからでございます。」


覚醒させた?なんの事だ。


『我を出せ。我を出すのだ。』


ゼータか、あまり覚えていないがゼータは、世界を滅ぼす竜つまり魔力量は、絶大だ。


「それは、俺が…魔力をいっぱい持っていたから発動したんじゃないのか。」


流石に暗黒竜であるゼータと契約したとは言えない。


「どうやら違うらしいのです。なんでも、大賢者様が触れても、少し光るだけで、なんにもならなかったらしいのです。」


魔力ではない?


「だからといって何故出てはならんのだ。」

「というか、城からも本来出てはなりませぬ。」

「だから何故なのだ!」


俺は、怒鳴ってしまった。


「…それは、我々の土地の農民は、大喜びをして、そして外の貴族たちが嫌な顔をしてらっしゃるのです。だからいつ襲われるか分からぬのです。」

「でも、私はミステク様とお話をしたいのです。」

『そして、如何わしいことしたいんだろ?騎士見習い。』

「何言ってんだよ。…あ、すまない。」


トレは嫌な顔をする。


「…もし、行くというのなら、これを。」


渡されたのは黒いマントだった。


「トレ、これは?」

「これは、お父様が良く若い頃使われていた。有象無象マーセズ・ウイングという、魔術加工がされているマントで、これは庶民に成りすますことの出来るマントです。」


そう言えば、父さんは夜はいつも消えると農民達から聞いたことがある。

このマントを、使っていたのか。


「もし、本当に行くのなら覚悟してください。どんなことが貴方様に起きるのか分かりませんので。」

「ああ、」

「では、出発致します。」


俺は、馬車に乗り込んだ。






ユグドルフに着いたのは四時頃だった。

ここから歩いて向かうのが、安全だとトレは言った。


「お気を付けて、ユニス様。」

「トレ、ありがとう。」

「いえいえ。」


トレは、馬車で帰って行った。



「とりあえず団長のところ行かないと。」

『待て!我を出してくれ。』

「出すってどうやって?というかどっか行って帰ってこないだろ。」


ゼータに釘を刺す。


『頼む、百年で何か変わるのか知りたいのだ。』


世界を滅ぼす竜が平凡な青年に頼み込んでいる。


「分かった、でも裏切ったら聖剣でぶっ刺すぞ。」

『分かっておる、そんなこと。』

「で、どうやって出すんだ?」

『あそこの家の影にいけ。』


とりあえずゼータが指さす方へ向かう。

ゼータは今、人に見えない状態になっておりまた、俺と離れられない。


「どうやるんだ?」


『汝が、我を呼び出さんと欲すなら、我は応えよう!』


急にゼータは叫び、目の前が光った。



『ふぅ、どうだ、若人よなかなか良いじゃろ、我輩。』


そこに居たのは銀髪の黒い角の生えた小さい少女だった、ゼータなのだろう。


「君、誰かな?」

『ゼータじゃい、この姿ならバレないだろう。』

「暗黒竜だとバレはしないけれど兵士達に連れてかれて、親探しされそう。」

『うるさい、お前の魔力量じゃこれが限界なんじゃ。』


ゼータは、ご立腹のようだ。


『まあ良い、では我輩は少しこの街を回って来るぞ』


と言ってゼータは、走ってった。


「ああ、ちょっと。…まあいいや、とりあえず団長のところ行かなくちゃ。」


俺は、王立魔法医術研究所バグーバンに向かって歩いた。


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