08話.[自然と会えるよ]
「なぎさちゃん、なんか豊崎君が朝から元気がなさそうだから元気づけてあげて」
朝だって一緒に登校してきていた自分としては違和感しかなかった。
最初からそうなら私は間違いなく気づいた、ということは先輩は装っていたということなのだろうか。
「あれ、もう来てくれたんだ?」
「あれ、佐藤先輩が元気がないと教えてくれたから来たんですけど……」
「え、凄く元気だよ? まあ、理由はどうでもいいよ、一緒にいられる時間が増えるならそれでいいからね」
怒る気にもなれなかったからゆっくり会話をしていくことにした。
ちなみに自分のことに集中するべきだとか考えておいてあれだけど、いまは物凄く兄とゆみこの関係が気になっている。
だってあの後、色々求めてきて混乱してしまったとゆみこは言っていたし……。
「それにしても佐藤さんは最近、大人しく教室にはいないんだよね」
「私達よりもいま恋をしている子の方が見たいからじゃないですか?」
「僕らだって恋をしていると言えるでしょ?」
「いやもうあとは分かりきっているじゃないですか、多分、佐藤先輩は自覚した瞬間なんかを見たいんだと思います」
ゆみこ達のところにあんまり行かなかったのもこのことからと考えているけど合っているだろうか?
結局、そのときの気分次第かもしれないし、心を読めない限りは本人から教えてもらっても本当かどうかも分からないことを考えても意味がないかと終わらせる。
「今日はアイスでも食べに行かない? 七月も近づいて暑くなってきたからちょっと早いけどいいかなって思ったんだ」
「分かりました、それなら放課後によろしくお願いします」
えっと、コンビニとかスーパーとかそういうところで済まそうとしているわけではないんだよね? ということはこれはデートに該当するのだろうか?
というかちょっとなにかがあったからってすぐにこれは恥ずかしいよね。
最初から先輩とそういう関係になりたくて動いていたのなら変ではないけど、少し前までは友達として仲良くしたいと言い続けていたのにこれだから恥ずかしい。
こういう自分を直視することになるから恋というのはいいことばかりでもないんだよなあ、何回も頑張れる人は本当にすごいな。
「私が魅力的に感じているのはそういうところなんだよねえ、なんかふとした瞬間に不安になって考え込んじゃうところとかがいいの」
「それってマイナス思考を歓迎しているということですか?」
「違うよ、そのまま自滅してしまうようなら駄目だね。だけどそこで違うと、自信を持ってではなくても行動できるところが素晴らしいんだ」
あのとき一緒にいることを許可していたのかどうかは分からないものの、あのとき一緒にいられたらその素晴らしい瞬間というやつを見られたことになるのか。
そういうところを見たいと考えている佐藤先輩が一番そういうところを見られないという結果に終わりそうだ。
信用できる相手にしかそういうところを見せないだろうからそれも普通のことで、佐藤先輩も分かっているからどんどんと行動できるのかもしれなかった。
「なんかゆみこみたいです」
「でも、ゆみこちゃんは強いからなんにも心配がいらないという点ではつまらないかな、だから私はなぎさちゃんをじゃなくて豊崎君をよく見ていたんだよ」
「確かにしん先輩は物理的に弱いですけど、精神的には強いと思いますよ?」
弱音を吐いたとかそういうことは一度もない。
私としてはなにか困ったりしたら言ってほしいところだけど、きっとそういうことをしないで過ごせるというのも強さだと思うのだ。
「ぶ、物理的に弱いって……」
「まー、女の子とぶつかって自分が倒れてしまうぐらいなんだから弱いでいいんじゃない?」
「はい、弱い人間です……」
そういう強さもある程度は必要だ、だけど内の強さの方が重要だろうからショックを受ける必要は全くない。
よく強いと言われる人間は外側のそれにではなく内側のそれについてだと思う、そうなってくると両側がしっかり強い人が最強ということになるけどそんなのは考えなくていい。
どっちもは無理だからこそ片方だけでもと行動する人間で、そうやって行動して努力をできることが素晴らしいことだからだ。
「ちなみに一番最悪なのは天然タイプね、色々な子に対して色々なことを言うものだから嫌になるんですよ」
「私、天然な人には会ったことがありません、どんな感じなんですか?」
「この先長く生きれば自然と会えるよ、そのときに私が今日こう言った理由が分かると思うよ」
なんか怖くなってしまったからそのときがこないように願っておこう。
で、せっかく戻ってきたばかりなのに佐藤先輩はまた教室から出ていってしまったので、話も終わっている身としては付いていくことにした。
どういう風に過ごしているのかが気になるので話しかけたりはしない、佐藤先輩のことだって年内中にいっぱい知ってみせる、と、全部内で言い切ったタイミングで急に走ってこられてゲームオーバーとなった。
「ストーカーはありえないって言ったでしょー」
「……気になっただけなんです」
「私のことはいいから豊崎君の相手をしてあげてよ」
「私は佐藤先輩のことも知りたいです」
「だけどそれはいまじゃなくてもいいよね? 付き合い始めたばかりなんだからちゃんと考えて行動してあげて」
いまじゃなくてもいいよねって言うけど時間というのはあまりないのだ。
悠長にしていたらふたりとも卒業するときがきてしまう。
それならなおさら彼氏を優先しなさいということなら納得するしかないけど、だけどそうやってこれからも躱される気がして嫌だった。
「ちゃんと相手をするから安心してよ」
「……分かりました」
諦めて教室に戻る。
楽しそうに友達と会話をしている親友を見て複雑な気持ちをどこかにやった。
「や、やばい……」
自分が汗っかきだということを色々あったことですっかり忘れてしまっていた。
夏休みが近づいてきているからってそればかりに意識を向けているわけにもいかない、しっかり対策をしておかなければこの関係だってすぐに終わりかねない。
質が悪い点は止まってくれと願うほど出てしまうということだった。
「なぎさちゃん」
「あ、少しゆっくりしてから行きませんか? ほら、すぐに暗くなるわけでもないですから危険というわけでもないですよね?」
「分かった、焦っても仕方がないからそうしよう」
せめて十七時ぐらいまで時間がつぶせればなんとかなる、落ち着いてくれば汗をかく可能性だって下がるから結果的に先輩のためにもなるわけだ。
彼女が汗臭い状態で隣を歩いていたら嫌だろう、だから堂々と休めばいいのだ。
「それにしてもあっという間だね」
「就職活動をしなければならない人だったらもう動き始める時期ですもんね」
「うん、だからいますぐ動かなくていいと思うとほっとするんだ」
私はどうするのかな、特に学びたいこととかもないから就職かな。
「いつもやっているけど時間を増やしていかないとね」
「こっちのことはたまにでいいですから、しん先輩はしなければいけないことを優先してください」
いいか、二年も先のことを考えたところで答えが出るわけがない。
いま言ったように私も私のことに集中するだけだ、時間とかも減りそうだから一緒にいられるときぐらいはいっぱい話したりしておくべきだと思う。
先輩と付き合うってこういう現実とも付き合うということでもあるから余計に難しくなるのかもしれなかった。
「え、家に帰ってからやれば十分だから減らすつもりなんてないよ? そうでなくても関係が変わったばかりなんだから僕が嫌だよ」
「そういうものですか? 私としても一緒にいられた方がいいですからそれならありがたいですけど」
「当たり前だよ、寧ろなんか悲しいぐらいだよ……」
えぇ、先輩のことを考えて言ったのに本当に悲しそうな顔をしているんだけど。
どうにかするためにもう移動を開始することにした、アイスでも食べてもらえばいつもの柔らかい笑みに戻ってくれるはずだ。
だけどそれでも駄目だったから人目がないところまで移動して抱きしめておいた、離れたくて口にしたわけではないのだから勘違いしないでもらいたいということが伝わればいい。
「……なぎさちゃんの家に行こう」
「分かりました」
最近は兄とあんまりゆっくり話せていないからリビングで待つ作戦を実行しようとしたんだけど、残念ながら私達の方が帰宅時間が遅いというやつだった。
リビングに入った時点で調理をしている兄が見えてしまったので、諦めてただいまと挨拶をしておく。
「こっちの家に来るなんて珍しいですね」
「なぎさちゃんとまだ一緒にいたかったんだ、上戸君は船生さんと一緒に過ごしていなかったんだね」
「いつも一緒にいられるというわけではないですよ、まあでも、一緒にいられる時間は沢山増やしたいですが」
ぐっ、意外と喋るものだから話しかけるタイミングが見つからない。
仕方がないから求めていなかった隙間時間を使って着替えてくることにした、急いで戻ったのにこっちに意識を向けることもしてこなかったからショックだった。
まあいい、それならゆみこに会いに行こう。
ひとり複雑さを感じているよりはいい時間を過ごせる、多少時間を使ったとはいえもう七月なんだからすぐに暗くなるということもないしね。
「はい……って、なんであんたがいんの?」
「お暇なら相手をしてください」
「上がりなさい、丁度ひとりで暇していたところだったのよ」
彼女の家、部屋だったら全く気にならないから寝転ばせてもらう。
汗も違うことに意識がいっていた結果全くかかなかったし、汚してしまうということではないから気にする必要はない。
「兄にゆみことの関係はどうなっているのかって聞けなかったよ」
「頭を撫でてくれたりとかよくしてくれるようになったけど関係性は変わっていないから友達だと答えられるだけよ」
「もしかしたらゆみこがいないところでだけ大胆になるかもしれないよ?」
「ないない、あのごうさんがそんなことをするわけがないじゃない」
慎重になりすぎているというかそもそもそういう感情がないだけなのかもしれないけど、兄もなかなかの言われようだなって苦笑した。
もしかしたら男の子っぽい部分を見せたい可能性だってあるのになんかこれでは可哀想に思えてくる。
「あんたは――誰か来たわね、出てくるわ」
部屋で引き続きゆっくりしていたら「来なさい」と言われて付いていくと、何故かソファに先輩組ふたりが座っていた。
兄だけならともかく先輩もいるから部屋に連れてくるのは不可能だったということが分かるけど、だからって当たり前のように女の子の家に来る男の子二人組というのも微妙だ。
「「なんで家に帰った瞬間に出ていくのか分からないけどな、こっちは」」
聞こえない聞こえない、そもそも文句を言うならこっちを放置なんかした自分達に言ってほしい。
「俺はあくまですぐに終わらせるつもりだった、妹を放置してまでそんなことをする意味はないしな」
「僕もそうだよ、上戸君とはゆっくり話したかったけどそれはふたりきりのときでいいからね」
「や、揃って言うところが怪しすぎよ、そうされたくないのなら放置はやめなさい」
ああ、やっぱり親友の存在は大きいなあ。
私が同じように言っても言うことを聞いてくれることはなかった、だから私にも同じような説得力が欲しい。
そういうのは意識したところでなにかが変わるのかな? というか、そのためにはどうやって行動すればいいんだろう……。
「ところでなぎさ、俺は先輩と付き合い始めたことを直接教えてもらっていない気がするんだが」
「忙しそうだったからね、最近はすぐに部屋にこもっちゃうからさ」
ご飯作りだけは頑張ってくれているけどいつもそうだ、だから家族なのにゆっくり話せていないということになる。
あれもこれもと求めてしまう人間だから正直物足りない、家族とぐらいは毎日そういう時間がなければ駄目なのだ。
「それに曖昧な関係だったからね、いまでも正直に言って付き合っているって感じがしないぐらいだし」
「お、おい、先輩もいるんだからそんなことを言ってやるな」
それでも先輩が言っていたように関係は変わった、それだけは間違いない。
あのときみたいに自分から行動して同じように失敗――ではなく、やっぱり成功したことになるわけだ。
「でも、私はしん先輩のことが好きだから、なんというかその……あ、なくてはならない道具みたいな存在みたいな感じかな? うん、そんな感じ」
「「「ナチュラルに彼氏を道具扱い……」」」
それよりみたいみたいって語彙がなくて悲しくなったよ。
とにかく、大事な存在であることには変わらないわけで、マイナス側に考えるのはやめてほしかった。
「ところで兄さん、ゆみこの家だからって簡単に入ったら駄目ですよ?」
「俺が基本的に誘う側だから入ることは少ないよ、あと、適当にゆみこといるわけじゃないから仮にこっちに来ることになっても問題はないはずだ」
「ん?」
「俺はゆみこと決めて動いている、ゆみこはどうか知らないがそれだけは絶対に変わらないことだ」
えぇ、狙ったわけではないのになんかここで言わなくてもいいことを吐いてくれちゃったんですけど……。
嬉しいことを言ってもらえたはずのゆみこは固まってしまっているし、先輩はまたこちらからすれば怖い顔に見えるような顔をしていたから微妙な空気になった。
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