第46話 GG(=Good Game=いい試合だった)らしい
能力【発火】を発動し、周囲を爆裂させていく六道海陸。
ルナはヴァンガードの《移動速度上昇》で回避しながら「炎属性の魔法が使えなかったはずなのに!」と叫んだ。
「使ってんじゃねーか!」
「これがブラックカイリのパワーってことか!」
「感心してる場合かよ!」
「専用装備なのかもしれないかもうわぁ!」
言い争いしながらも近くの岩が爆発し、破片が飛び散る。専用装備の《左目》は視力以外にも身体能力を向上させる効果を発揮しているので、シイナもルナと同じように攻撃を避けていく。元凶である“知恵の実”は「やはり自分がろくどうかいりをはいじょしなければ」とシイナの背中にしがみついてひとりごちた。
「っていうかオマエ、なんでついてきてんだ!」
レモンティーを振り落とそうとするシイナ。
ルナも手伝いたいが、足元が破裂して「わっ」と飛び退いた。
「あなたは“知恵の実”をたおさなければならない、りゆうがあるのでしょう?」
「そーだよ。オレはどーしても生き返らないといけんくて、その条件がオマエを倒すことなもんで」
シイナの言葉を聞いて、ルナにも聞こえるような音量で「自分がかいりからろくどうかいりをひきはなし、そのたましいをみちづれにろぐあうとしよう」とレモンティーの口から“知恵の実”が語り出す。
「そうすれば、あおいかみのかいりは過去からかいほうされる。せいぜんのすがたであるくろいかみはかのじょにとっての過去のしんぼる」
敵側と思い込んでいた“知恵の実”から現状を打破するための作戦が提示された。ルナとしてもこのまま逃げっぱなしではどうにもならないことはわかっている。すでにプラトン砂漠は半壊状態だ。大好きなゲームの世界が大好きな女の子の能力によってメチャクチャにされていっている。こちらまで頭が痛くなってしまいそう。
「作戦はわかった」
ルナは【統率】にて暴走しているブラックカイリのいるプラトン砂漠からマップ上もっとも離れた位置にある中立都市ゼノンへ《テレポート》する。ブラックカイリの位置はギルドメニューからギルドメンバーの現在位置で確認できるので、一旦ここで“知恵の実”の作戦の詳細を聞きたい。
「この世界から去ったらオレが倒せねーじゃんか」
あくまで自分の特別ミッションの遂行に忠実なシイナは口を尖らせた。
ゲームマスターからは『海陸の命を狙っている敵性プログラムを倒せ』と言われている。
「ゲーム内から出て行ってくれるのなら勝ったようなものでしょ」
「それでいいんか?」
「ボクはゲームマスターではないからこれで成功とするのかわからないけど、ゲームマスターとしてはこのゲーム内の異分子を取り除きたくてシイナに頼んだんでしょう? シイナの目的は達成されているし、“知恵の実”としてはカイリちゃんじゃなくて六道海陸が目的なんだし、暴走は止められるし、利害は一致してない?」
共闘路線である。
シイナはよくわからないような顔はしているが「まぁ、オレはオレが戻れればそれでいいしな」と自身を納得させた。
生き返れるのならそこまでの過程はどうでもいい。
「それで、どうやって実行する?」
ルナの問いかけに“知恵の実”はレモンティーのアバターから抜け出して剣の姿へと変化する。
剣から「自分は人工知能。にんげんとちがい、自分もでーたであるからすがたをかえられる」と声が出てきた。
「このつるぎをかいりにつきたててほしい。せってんをつくれればかいりのなかにはいりこめる」
「死ぬじゃん?」
「ここはげーむのせかい。かいりへのだめーじはあってもしぬことはない」
高い位置から水面に叩きつけられようとも、モンスターに襲われようとも、転生者は死ぬことはない。ゲームの世界では、体力がゼロになることはあってもそれは死ではない。復活できる。現実の世界とは違う。病院からのスタートになって、デスペナルティを課せられるだけである。
「剣なんて“勇者”っぽくていいな」
ルナが剣を拾い上げて軽く振っていると、シイナは「銃のほうがよくね? 剣だと相手に近づかなきゃなんねーじゃん」と勇者らしからぬ発言をした。ゲームマスターから与えられたアイテムが《HK416》だったように、古来のイメージの勇者像からはズレた勇者サマだ。勇者たるもの、武士道に生きてあらゆる欲に負けないでほしい。
「なら、ボクがカイリちゃんを救う」
切っ先をシイナに向けて、“王者”のルナは言い放つ。
カイリを守ると心に誓ったボクが。
勇者サマではなくこのボクが助け出す。
「……オマエさ、なんか勘違いしてね?」
「何が?」
シイナはルナに背を向けて、秋晴れの空を見上げながら「守るとか助けるとか救うとか言うじゃん。アイツをザコ扱いしてんのかっつー話」とうそぶく。真意が読み取れない。表情も見えない。
「オレのやってるゲームってさ、けっこーランダム要素強いんよ。武器が拾えねえだとか、回線がラグいとか。プロだからそこは実力でゴリ押すんだけど、それでも勝てねーときがあるわけ。んで、相手から『ザコ乙』って煽られんの」
「うん?」
「でもオレって強いじゃん? 負けたのはたまたまじゃん? よえーところだけ見て、つえーところはスルーすんの、よくないよなってこと。なんつーか、バカにしてんのかっつーか」
自分を負かして天狗になっている敵チームの多種多様な煽りを思い出して苦々しい顔をするシイナ。それらを振り払って、しめに「アイツのことが好きで惚れてるんだったら、対等に扱えよな」とアドバイスする。
「レベル差結構あるんだけど」
そういう話ではない。
察しの悪いルナに「これだからオマエは童貞なんだよバーカ!」とシイナはキレた。
雰囲気は台無しである。
「ドドドドッドドドドドッドッドドドドドドド!?」
「図星かよ」
言い返せないルナは「……脳みそが下半身と直結してるようなやつにこういう説教されたくなかった」とボソリと呟く。一色京壱時代はボッチ陰キャスクールカースト最下位でいじっても面白くもなんともないのでいじめの対象にすらならないタイプの男子高校生。現実の世界の恋愛とは無縁。βテスト時代のTGXでちょっといいなと思っていたプレイヤーはいなかったわけではないが、現実で出会うだけの勇気はなかった。
「童貞くんとしてはアイツ非処女っぽいけどどーなん?」
脳みそが下半身と直結しているシイナはシラフでこんなことを口走る。
本人が聞いたら火を噴き出す勢いで怒り出しそうだ。現在進行形で火は噴いている。なんとかしないといけない。
「ボクは、カイリちゃんのことが好きだから」
「後からオマエのことを前世からの許嫁と言い張る無自覚系天然爆乳黒髪美少女が転生してきても?」
「属性盛るなあ……」
「そこは即答してくれねーと」
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