第40話 OP(=Over Power=強すぎィ!)らしい

 時を戻そう。

 レモンティーが転生者3人とプラトン砂漠に《テレポート》して、ログアウトした直後。


「オレもその強そーな鎧欲しいんだけど」


 シイナはルナの《妖精王の鎧》を指差す。以前カイリも欲しがっていたアイテムだが、現在のシイナには装備できない。初心者ミッションをクリアしていないシイナだが、レベルは249でカイリよりも高くなっていた。カントの森で《HK416》をぶっ放し、レッサースパイダーを倒し続けた結果である。

 ルナは心底嫌そうな表情を浮かべつつ「なんで?」と訊ねる。


「勇者としてつえーやつと戦わないといけねーからだよ」


 当たり前のような顔をして答えるシイナに「だったら自分でモンスターを倒して手に入れるんだな」とそっぽを向くルナ。ルナはシイナをユートピアに加入させるのは反対だった。転生者ではあるが。反対できるような状況ではなかった。それに、いつの間にかギルドメンバーの加入や脱退を選択できる権限のある副ギルドマスターから外されている。カイリちゃんではなくレモさんの仕業だと思う。

 自分のことを好いてくれているレモさんと美少女のカイリちゃんさえいればあとは誰もいらない。心の底からそう思う。ギルド対抗戦には参加しない。争いとは無縁の平穏を手に入れたいのである。……考えれば考えるほど、シイナにバラされたのは手痛い。女として、警戒されずに付き合いたかった。つらい。シイナが来る前の日常を返してほしい。こうなってしまったものは仕方ないので、切り替えていくしかないが。

 スクールカースト上位っぽいルックスと自信たっぷりな言動、さらにはプロeスポーツチーム所属のプロ選手というステイタス。どれも一色京壱にはないものである。話によれば“敵性プログラム”を倒せば現実の世界に帰ってくれるようだから、さっさとその“敵性プログラム”を倒してやろうじゃないか。帰れ帰れ。


「わたしにはアイテムをくれたじゃないですか!」


 カイリはルナに抗議する。初期のカイリは《ビキニアーマー》や《棍棒》といったアイテムをルナからもらうことでまともに戦えるようになった。自分とシイナとで待遇に差があるのはおかしい。


「やば。姫プしてんの?」

「姫プ?」

「女に強い武器をあげたり手伝ったりする奴な」


 シイナが貶めようとしてくる。ルナは「FPS界隈ではそうなのかもしれないけど、MMORPG界隈では初心者には優しくするもんなんだよ! 君のとこの常識で考えないでもらえます?」と早口で捲し立てた。


「あっそ。まー、オレには《HK416》があるしな」


 スリングベルトで肩掛けにしてあるアサルトライフルの《HK416》を撫でるシイナ。この《HK416》は弾が装填されていないので、シイナの《左目》がなければただの鈍器にしかならない。勇者だけ専用装備が2つあるようなものだ。ルナはこの待遇の差にもイラついていた。王者の【統率】も強力ではあるが、あくまでこのゲームで実装されている魔法しか使用できない。ネクロマンサーの上位職であるネメシスの《マリオネット》でも使って勇者サマを操り人形にしてしまおうか?


「ここに来た目的を忘れてませんか!」


 いがみ合っていては何も始まらない。

 ここはユートピアのギルドマスターらしく、場を仕切ろうとするカイリ。カイリの専用装備を探しに来たのである。この満天の星空の下、どんな効果をもたらすかも姿形も大きさも重さもわからない賢者の専用装備を探す。


「専用装備を探すんだろ? にしても広いなここ」


 地平線の果てまで広がる砂を見て、シイナはカイリに問いかける。レモンティーが『無謀』と言った意味は、現地に来てわかった。

 ルナとしてはカイリには強くなってもらわなくとも構わない。なぜならルナが守るからである。カイリを守ることで失った信用はある程度回復するだろう。だが、得体の知れない“敵性プログラム”がカイリに何をしてくるかはわからないので(悔しいけれどシイナの言う通り)専用装備はあったほうがいい、という判断を下して「カイリちゃんはオアシスに落ちてきたから、落ちているとしたらやっぱりその周辺だと思う」と答えた。


「レモン先輩が手がかりを探してくれるって言ってましたし! まずはそのオアシスに行きましょう!」


 3人の転生者は砂を踏みしめながら歩き始める。その様子をプラトン砂漠に生息するデザートイーグルが観察していた。実在する拳銃のことではない。この場合は“砂漠に住むワシ”である。


「なんかいるぞ」


 その姿をいち早く捉えたのはシイナだった。視線の先には豆粒ほどの大きさのデザートイーグルがいる。カイリは「どこですか?」とキョロキョロとして「プラトン砂漠のモンスターなら大したことないから無視していいよ」とルナに諭された。2人には視認できていない。


「プロゲーマーの実力、見せてやんよ」


 シイナは《HK416》を構えてドットサイトを覗き込んだ。

 ドットサイトはスコープとは違い、等倍で照準を合わせやすくする効果がある。


「プロゲーマーって言っても実際の射撃のスキルとは関係ないだろ」


 ルナの指摘に「うっせ。黙って見てろや」と吐き捨てて、シイナは引き金を引いた。

 銃声と共にフルオートで射出される5.56mmの弾丸は、全弾がデザートイーグルの頭部にヒットする。


「ひゃっ!」

「うるさ!」


 味方の2人は聞きなれない発砲音に飛び上がっていた。





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