第26話 次はカッコイイ名前のギルドを作ってほしい
常勝軍団のトップにふさわしくない、悲しいセリフであった。
はたから見ればそう見えるだろう。
特にルナを慕っていたレモンティーにとっては、とりわけ悲哀のこもった言葉になってしまった。
「レモさんには最後までお世話になってしまったから、他の子よりも先に話しておきたかったの」
「そんな……。だったら、はやく相談してほしかったニャ」
ルナは感情を表に出さないように唇を噛み締める。
レモンティーに対する裏切りに似た気持ちはあった。あったのだが、一般プレイヤーであるレモンティーには絶対に相談できない。どこから話せば信じてもらえるのだろう。信じてもらえるかもらえないかより、説明にかかる労力が嫌だった。それは他のギルドメンバーに対しても同じである。理解してもらえないのなら理解させようと努めるより、バッサリと切り捨ててしまったほうがいい。
今のルナには†お布団ぽかぽか防衛軍†のギルドマスターであり続けることよりも、同じ転生者であるカイリを匿うことのほうが重要となってしまっていた。ギルド対抗戦も1周年イベントもどうでもいいのである。これまで積み上げてきた信頼を放り投げても、ちっとも惜しくない。
「身勝手でごめんなさい。でも、私はカイリちゃんと2人だけのギルドを作ると決めたの」
転生者だけのギルドを作る。
ルナとカイリだけの2人だけのギルドなら、一般プレイヤーから後指を指される心配はいらない。ギルドにはギルドメンバーの現在位置を表示する機能があるせいで、王者の【統率】によってとっても便利な《テレポート》を使えるのに使えなかった。チートスキルである【統率】が活かせるシーンが戦闘でも何度も何度もあったにもかかわらず、チートを疑われて運営に密告されTGXから追い出されてしまうのを恐れて取り逃がす。
便利なのに不便な生活はこれでおしまい!
「わたしはレモン先輩と一緒がいいです!」
カイリの主張に「は?」と半ギレしてしまった。
綺麗な顔を歪ませてしまう。
「お姉様が2人だけとおっしゃるなら、ウチは入らないニャ」
「いやです! レモン先輩がいないならわたしは新しいギルドに入りません!」
何言っちゃってんのこの女。
ルナはカイリの目を見て「カイリちゃん、あのね、私もレモさんには居てほしいのよ?」と宥めようとする。
「居てほしいならなんで入れてあげないんですか!」
「それは、……チッ」
言葉選びを間違えてしまった。舌打ちする。カイリはレモンティーに向き合うと「レモン先輩も今のギルドを辞めちゃいましょう! ルナさんのことを嫌いな人なんて嫌いでしょ!」と肩を掴んで前後に揺らしていた。
レモンティーは視線を落として黙ってしまう。お姉様とは離れたくない。何のためにこのゲームをしているのか。お姉様と共にあるためである。だからこそ、お姉様が嫌がることはしたくない。ならばどうすればいいのか。必死で考える。
「わかりました!」
カイリはレモンティーの肩から手を離す。
それから、ルナの目を見て「わたしがギルドを作ります!」と言い放った。
「何言ってくれちゃってるわけ?」
キレた。ルナとしての口調を忘れて「ボクはキミのためにやってやろうとしてんのになんだかんだとぐちゃぐちゃ言いやがって」と早口で捲し立てる。口をポカーンと開けてしまう女子1人とメスネコ1匹。
「そもそもギルドを作るには資金が必要で、キミのその小学生のおこづかいみたいな所持金だと圧倒的に足りないんだが?」
コソコソと「レモン先輩、お金貸してもらえます?」とレモンティーに訊ねるカイリ。
レモンティーはブラウザを立ち上げてTGXの公式サイトを開いた。ギルドについての項目を見ながら「ギルドは本拠地を置きたい都市の市長にお金を渡すとできるみたい。どこがいいか教えてもらえたら《テレポート》するニャ」とカイリに伝える。
「それなら和風都市がいいです」
「マァ、文化的に一番住みやすいかもだけど、あそこはスニーカ族の領地ニャ」
「種族違うと選べないんですか?」
「選べなくはないけど税率が違うニャ」
「うーん、でも、ニホンっぽいところがいいです」
ルナを無視して話を進める1人と1匹。このままだと本気でギルドを作られてしまいそうだ。所属できるギルドはプレイヤー1人につき一ヶ所だけである。掛け持ちは許されない。
「あと、ギルド名を設立時に決めないといけないみたいニャ」
「うーん……名前かあ……」
「漢字と記号も含めて30字以内、だってニャ」
「とらんすぽーと、げーみんぐ、ざなどぅ……ざなどぅってどういう意味ですか?」
カイリの問いかけに、検索エンジンを開いて調べようとするレモンティー。
ルナは割り込むように「桃源郷ですわ」と口調を普段通りに戻して答えた。
「ルナさんには聞いてないんですけど!」
カイリは口を尖らせた。この頑固者を説き伏せるのは骨が折れそうだ。面倒なことは嫌いな性分のルナは「もういい! わかった! レモさんも入れますわ!」と白旗を振る。レモさん1人ならなんとか……なんとかなるはず……なんとかするしかない……。
「ありがとうございます! これからもウチのお姉様ニャ!」
ルナの胸に飛び込むレモンティー。
のどをゴロゴロと鳴らしながら頭をなすりつけた。
「ルナさんのセンスだと†お布団ぽかぽか防衛軍†になっちゃいますよね?」
「何か不満なの?」
名付け親のルナに対して言いづらそうに頰を掻きながら「いや、なんかカッコ悪いんで……」と率直な意見を述べるカイリ。絶句するルナ。今度はルナが口をポカーンと開ける番だった。ギルド名への不満をぶちまけられた経験は一切ない。
「次のギルド、桃源郷からの連想でユートピアってどうですか?」
【あなたは団体行動が得意ですか?】
Season1 end.
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