第25話 手に入れたものを自慢させてほしい
精鋭都市テレスの庁舎前。
「見てください!」
見事に合成獣を撃破したカイリは市長から《紫紺のローブ》をプレゼントされてウキウキである。早速インベントリからスワイプして《布の服》から《紫紺のローブ》に着替える。艶やかな青い髪と《紫紺のローブ》を組み合わせることで、全体的に青っぽいコーディネートとなった。
「似合っているニャ」
パチパチと拍手のエモートを送るレモンティー。初心者ミッションの終了時に市長からもらえるアイテムはプレイヤーのジョブによって異なる。インベントリに空きがない場合は「空けてから来るように」と一度追い出されてしまう。主に近接攻撃のソルジャーやナイトなら《紫紺のマント》、シーフやネクロマンサーなら《紫紺のチョーカー》といった装備と決まっている。どれもレベル100ぐらいまでなら実用性の高いアイテムだ。それ以降はモンスターからドロップした装備を使うか、各都市の鍛冶屋で購入することを推奨されている。もしくはカイリのように先輩から譲り受けるのも、MMORPGらしい選択肢である。
テイマーやサマナーの場合のみ《紫紺のオカリナ》という特殊なアイテムが渡され、これを使用するとテイマーなら対象のモンスターを、サマナーなら対象の召喚獣を1体選んで従えられるようになる。
この《紫紺のローブ》の場合は魔法攻撃力が上昇する。つまり、ただの《布の服》と《スパッツ》を装備した状態よりステータスは上昇し、より魔法攻撃に特化した形になった。ウィザードにはうってつけのアイテムだ。現在は《スプラッシュ》と《フラッシュバン》の2種類しか魔法が使えないカイリにピッタリかというとそこは疑問が残る。もし《棍棒》を併用していくのであれば《ビキニアーマー》のほうが戦闘面では正しい選択となりそうだ。
ルナは一度咳払いをしてから「2人に話があるの」と切り出す。
「その前に、ルナさん写真撮ってもらえますか?」
「写真?」
カイリは左手にスマートフォンを出現させ「叔父さんに見せたいなーって思って」と言いながらカメラを起動してルナに手渡した。
このやりとりが何も見えていない一般プレイヤーのレモンティーは「ああ、スクリーンショットの撮り方ニャ?」と解釈してくれたようである。
「ほら、レモン先輩も一緒に」
「ウチもニャ?」
「ルナさんも入ってほしいけど、シャッター頼める人いませんもんね……」
陽光都市パスカル、常夏都市ガレノス、中立都市ゼノン、黄金都市ピタゴラ、和風都市ショウザン、神樹都市セネカ、と、ここ精鋭都市テレス。
7つの都市を巡る初心者ミッションを終えて、カイリは(ルナさんとわたしの他にも、転生者っているんじゃないか)と考え始めていた。街の中では見当たらなかったけれど、街以外にも様々なダンジョンがある。TGXの世界は広い。たまたますれ違わなかっただけの可能性。希望は捨てずにいたい。犬か猫ばかりの世界だから、人を見つけたらすぐわかるだろう。
それと、ゲームマスターは『女の子の“勇者”のグラフィックを用意していないから無理』と言い訳していたけれど、一般プレイヤーからはリフェス族かスニーカ族にしか見えないのだからグラフィックがあろうとなかろうと関係ない話じゃないか。嘘をつかれていると気付いてしまった。この件に関してはレモン先輩から勇者の新しい定義を定めてもらえたから、カイリはカイリなりの“勇者”への道を邁進していけばいい。
誰かの力になるには、わたしも強くならねばならない。
その為にはレベルアップだ。
「撮ったわ」
ルナからスマートフォンを返してもらい「ありがとうございますー!」と喜ぶカイリ。カメラロールに自分とシャムネコのツーショット写真が増えた。ここから叔父さんにこの写真を送るには――カイリはスマートフォンのメールアプリを開こうとして逡巡する。六道海陸は死んでいるのだった。死人からメールが届いたら叔父さんはどんな顔をするだろう。その顔を見ることはできないが、それはそれで面白いかもしれない。
送信っと。
「それで、私の話だけど」
「改まって何ですニャ?」
ルナはインテークを整えると「ギルドを抜けますわ」と宣言した。
驚きのあまりスマートフォンを落としてしまうカイリと、目をぱちくりさせながら「お姉様、今なんてニャ?」と聞き返すレモンティー。
「今日の会議で副ギルドマスターのキナコちゃんをギルドマスターに昇格させて、私は†お布団ぽかぽか防衛軍†を抜けますの」
「ちょ、ちょっと待つニャ」
慌てるレモンティーを無視して、ルナは「そして私は新しいギルドを作成しますわ。カイリちゃん、」とカイリに話を振った。
「精鋭都市以外の都市で『ここが本拠地なら住みやすい』と思った都市はどこかしら?」
「お姉様!」
ルナとカイリの間に立つレモンティー。
犬歯を見せながら「勝手に決めないで欲しいニャ!」と怒鳴る。
「私が抜けても、†お布団ぽかぽか防衛軍†はやっていけるわ」
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