第52話
昼休みが終わった頃、私はまた学園長室の呼び出された。
今回は水戸君も一緒だ。
急いで学園長室に向かう。なんだか嫌な予感がする。
ソウヨ イナイノ
イナイノヨ・・・
ヒカリの言葉は切れ切れに・・・小さく・・・さらに困惑しているようにも聞こえる。
学園長室ではおばあさんも待っていた。
「倫太郎が行方不明になった。」
そう聞かされた私はソファーに座り込んでしまった。
「今、ロザリアに問い合わせているんだが・・・要領を得ない回答ばかりなんだ。」
おじいさんの声は困惑と苦悩に満ちていた。
「ついにきましたね。」
水戸君いいえ・・影がつぶやく。
「ヒカリは何か言ってないかね。」
私は首を振る。
「いいえ。なんだか混乱しているようで・・・イナイノとしか・・・」
・・・・・
とにかく家に帰って連絡を待つと言っておじいさんとおばあさんは立ち上がった。私も立とうとしたが・・・たてない。
影はそんな様子を見て取って瞬時に茨城に姿を変え、黙って抱き上げて車まで運んでくれた。
そのまま我々は家に。影は水戸君として授業に戻り、授業中具合が悪くなったことにして城山の家に戻るそうだ。
城山の家には政府の関係者が何人か来ていた。情報収集室に集まり、政府や連合の本部と連絡を取り合っている。井部氏は無事で、とにかく中都国に帰ってくるらしい。なんで井部氏ではなく倫太郎君が狙われたのだろう?
情報収集室になぜか井部先輩の姿があった。
「?」
「やあ。倫子ちゃん。」
「先輩。なぜここに?」
「俺はね、星の力を持つんだよ。情報収集にも最適な力で・・・結構いろんなところで重宝されているのさ。」
それから先輩は書類を何枚かおじいさんに渡した。
「こ・・・これは・・・」
「そうです。」
書類は城山倫太郎という人間はそもそもロザリアには入国していない。
ホテルにも宿泊の記録がない。と言うものだった。
あり得ない。どこでこのような情報の改ざんがあったのだろう。
「父は確かに一緒にホテルに入り、夕食後別れたと言っている。側近の者も同じことを言っているが・・記録上は父と側近の者しか入国の記録はなく、宿泊の記録もないんだ。
夕飯を食べたレストランでも、給仕をしていた物が父が一人で側近達と一緒に食べていたと証言しているし。」
従って警察も動かないし、ロザリアの政府機関も動かない・・・
見事に存在を消して連れ去っている・・・
夕べ連絡を取ろうとしても取れなくて・・・その時すでに連れ去られていたとしたら・・
ヒカリ、ヒカリ、何か分かるかしら?
ワカラナイ ドコニモ イナイ
キエテ シマッタ キエテ・・・
まさか・・・死?・・うそ・・・そんなはずはないわ!!!
どうしたらいいんだろう。
私は混乱した頭で考える・・・ここにいてもらちがあかない。どうしたらいい?
・・・
そうだ。ロザリアへ行こう。行って自分で確かめるんだ。
意気込んでおじいさんにロザリア行きをお願いすると。
「駄目だ。何が起きるか分からん。これ以上の心配はさせないでくれ。」
「影と一緒に行きます。それならいいでしょう?」
おばあさんもおじいさんも首を縦には振らなかった。
もう少ししたらお父さんとお母さんもやってくるという。
「とにかくそれまで待つんだ。」
井部先輩が私を呼ぶ。
声を潜めて
「本当に行きたいなら手配は出来る。」
と言う。影がそばで聞きとがめてじろりと井部先輩を見る。
「行きたい。行きましょう。私も姿を変えることは出来るから。ねえ。」
二人は顔を見合わせて・・しばらく目で話し合っていたようだった。
「旅券の手配をしよう。まず、どんな姿で行くのか。どっちにしろ写真が必要だ。」
井部先輩は部屋の外に行き、端末で外部の者に旅券を申請し始めた。
「後は写真だ。」
おじいさんとおばあさんに、少し図書室で調べたいことがあると言って私は図書室に影と井部先輩の三人で一緒に移動した。そこでどんな姿で行くか検討する。
30歳くらいの黒髪の女性。昔の私の姿だ。端末で写真を撮り、直ちに井部先輩は旅券を頼んだ者に映像を送った。
「ロザリア行きの飛行機は明日の朝7:00。
4時にはここを出て、飛行場に向かうように。」
おじいさんとおばあさんには事後承諾になる。
すべては明日以降・・・
ヒカリは何も言わない。
ヒカリが見えない。
『本当の善とは何?
おまえ、
俺らにわかるっていうのか?
本当の悪とは何だって?
俺らが本当に知っているっていうのか?
俺らみんな、簡単に善だ悪だといっているが
俺らほ本当はなんにも知っちゃいないんだぜ
本当の悪とは何なんだ?
本当の善とは何なんだ?
なあ、おまえらも
俺らと一緒に考えようじゃないか 』
なんだろう。善って何?
倫太郎君が善なの?
それとも・・・私たちは悪なの?
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