第49話


 キタワ・・




 来た?






 図書室にいた私の前に、影が現れたのだ。


「やあ。倫子ちゃん。」


私は思わず立ち上がり、影に駆け寄った。




「・・・影?水戸君?それとも茨城さん?」


水戸君の姿をしたその人はにっこり笑った。




「明日からまた水戸だよ。君のクラスメイトのね。」


「今までどうしていたの? 3日間も連絡がなかったし・・・。」




とにかく座って。話を・・・




私ははっと気づいてお茶を入れる。


お茶を入れながら、落ち着けと自分に言い聞かせる。


この3日間、光はダイジョウブヨと言うばかりだったが。


それでも本人から聞いてみたい。




おじいさんやおばあさんにはもう学園で話をしてきたという影は、ゆっくりお茶を飲んでから3日間の出来事を話し始めた。



────────────────────────────────────────




・・・・・影




「おはようございます。」


今日はさすがに広川は休んだな。・・・一人で行動か。引っかかってくれるといいが。




 周りの奴らと挨拶を交わし、教室に向かう。俺は不審には思われていない。当然と言えば当然だが・・・油断は禁物だ。




教室に入る。


「おはよう。」


山名が声を掛けてくる。


「おはようございます。」


「珍しいわね。倫子ちゃん一人?」


「ええ。広川さんは今日はお休みなのかしら。」


俺は心細そうに見えるように首をかしげる。


「あらあら。そんなに寂しそうにしなくたって。」




 英田がやってくる。


「どうしたの?」


山名が俺の代わりに答えている。


「広川さんがお休みみたいなのよ。」


「あら。そう言えばいないわよね。」




・・・時間だ




 担任の東野が入ってきた。


「皆さんにお知らせがあります。


 東君が急に家庭の事情で転出することになりました。」


ざわざわざわ・・・


ちらりと英田を見る。顔は前を向いているから表情までは分からないが・・・




「なんでだ?」


「はやくね?」


「来たばっかりなのにね。」


誰かが今、気づいたというように声を上げる。


「先生。水戸君がいませんが。まさか、水戸君も転出ですか?」


もう一人も言い出す。


「そう言えば広川さんは?まさか広川さんと水戸君、逃避行?」


なんてことを言い出すんだ。後で広川が知ったら怒るぞ。




「広川さんは風邪を引いてお休みです。水戸君も。風邪を引いたと言うことです。」


「え~二人で風邪ですかあ?!」






 風邪と言うことにしたか。懸命だな。だが俺と同じ風邪という言い訳とは・・・これで・・・後で何を噂されるやら・・・




・・・・・


授業は淡々と進む。




昼・・・いつも見ていたように、大勢で中庭に移動する。いつもの場所にいつもの敷物を敷いて・・・




 食事が進む。倫子ちゃんは沢山食べない。今、俺はかなりエネルギーを使う擬態をしているためにいつもより多く食べたい。・・・だが、多く食べると不審に思われる。そこで持たされた城山教授の特製濃縮ジュースと錠剤で補充することになっている。錠剤は風邪薬という名目だ。


さて。先に濃厚な味のジュースを・・・・・・・・きた・・




「倫子ちゃん。今日はひま?」


 暇ではない。確か彼女は神殿に行く日だ。最も俺はまっすぐ行かないで、家に戻って入れ替わるつもりだが。彼女が神殿通いをしていることはよほど親しくないと知らないはず。学園で知っているとしたら広川だけか・・。




「うん。」


「今日は私の家に来ない?」


「え?でも。」


 にこにこしながら話しているが、城山教授の薬を朝飲んできた上に、倫子ちゃんの守りの入った銀の指輪を着けている俺には本当の顔が見えている。




舌なめずりをしているような顔。広川がいなくてしめたと思っているのが丸わかりだ。


「行っていいかどうかおばあさんに聞いてみるわ。」


俺はその場で倫子ちゃんの赤い端末に似せた端末を出し、倫子ちゃんに連絡を取った。


彼女は連絡を待っていたみたいにすぐ出た。


「私よ。倫子。」


『何かあったの?』


「おばあさん。今日はね。広川さんがお休みなの。でね。英田さんの家に誘われたの。」


『・・・・・・』


言葉が出てこないようだ。無理もない。


英田が仕掛けてきたことは丸わかりだからな。




「行ってもいいかしら?」


と聞いたら


『危ないわ。』


と答えてきた。そりゃ心配だろうが。大丈夫さ。そう言いたいが・・・




「ありがとうおばあさん。」


しらっと答える。英田が俺をじろじろ見ている。嫌な目線だ。


『一人で大丈夫なの?』


「一人でも大丈夫よ。送り迎えも英田さんがしてくれるって言ってるわ。そうよね?英田さん。」


英田に話を振る。




「え・・ええもちろんよ。」


と答えてくるので内心ふん。と思う。


『山名さんは?一緒なの?』


心配性だな。倫子ちゃん。




「山名さん?・・・山名さんは一緒に行くの?」


山名に話しかけてみる。だが一緒に来られるとやっかいだ。守り切れない場合もあるからな。




「山名さん?」


「あら。私はちょっと・・・・」


そう言ってにこにこする山名に、誰かが話しかけている。


「冬彌君とお出かけ?昨日もそうだったんじゃないの?」


「大きなお世話よ~。」




そんな声を後ろに俺は会話を続ける。


「山名さんは用事があって行けないんですって。」


『十分注意してね。』


「おじいさんにも伝えておいてね。」


俺は通話を切った。




 英田の奴。ここを引き上げるときが来たと思って仕掛けてきたな。東のことも知っていたに違いない・・・そうすると・・・大学園のロザリア人も絡んでいるのかもしれないな。


残りのジュースと一緒に錠剤を飲みながら,俺は考えた。




局長と次官に連絡を入れておくか・・・


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