第42話 私は端末を疑っている

土曜日。朝早く目が覚めた私は一恵さんが起こしに来る前に身支度を終えた。


 一恵さんが心配するといけないので、ベッドの上に図書室にいますと言う伝言を置いて,図書室に行った。

 夕べまた倫太郎君と話したとき地図の場所を聞いておいたので、必要な物を出そうと思ったのだ。

 まず、世界地図。日の本の地図。日の本の周りの国々も載っている地図・・・3種類で大丈夫かな・・・日の本の地図のもっと詳しい物は・・・・これか・・・。


『僕もいて話を聞きたいんだが・・・明日は華国の首相と会談なんだそうだ。

 そうだよ。夏にあった人だ。

 ・・・この国に首相が来るって話は聞いてない?

 ああ。今は中都国にいないんだ。華国にいるんだよ。


・・・


僕がいても何にもならないと思うんだが・・・まだまだ学生の身なのに・・・政府の奴らも連合の奴らも僕の力に頼りたいだけなのさ。

 え?会談の時?・・・後ろに控えているだけさ。

 ・・・まさか。一介の学生が会談の最中に口は挟まないさ

 僕の力・・・そうだね。君の力のことも併せて・・・次に帰ったときにそのことを詳しく教えるよ。こういう通話でする話じゃないしね。


そうだよ。へえ・・・盗聴っていうのか。なるほど。考えられるな。

今までの話は・・・大丈夫かな。

・・・けっこういろんなことを話したからね。心配になってきたね。

でも。・・・・嫌な力はこの通話からは感じられないな。


え?ヒカリが?そう・・・大丈夫だと言ってきたって?


そうだね。清浄か。ありがたいね。君のヒカリに感謝だ。

僕たちの通話は、いつも安心して続けられるって分かっただけでもありがたいよ。

・・・次は・・・いつ帰れるかな。この後、汎国とロザリアには確実に行かなければならないらしいから。』


「倫子ちゃん?」

おばあさんだ。

「はい。います。」

「お食事ですよ。」

「今行きます。」




食事がすむと約束の時間まであと少しだ。

「影と広川さんか。・・・私もそこにいて話を聞いていたいものだが・・・」

「だめですよ。わたしだってそこにいたいのに・・・」

「分かってはいるが・・・」


おじさんとおばあさんも聞きたいらしい。


広川さんが早めにやってきた。


 勉強室に通し、用意してあったお茶を出した。


しばらく無言で二人してお茶の入った茶碗を見る・・・

「これって普通のお茶かしら?」

「・・・聞いていないわ。」


・・・・・


広川さんも水戸君について考えたことはわたしと一緒だという。

「彼も、堂々と私たちといられるし、一緒にいても不審に思われない。

でも・・・倫子ちゃんと一緒にいるだけでなく、私も一緒と言うことは・・・」


「そうだよ。君も狙われている。」


いつの間に・・・


「この家は隙がないね。こんなに堅固に守られている家は初めてだよ。・・・普通の奴らならまず侵入は出来ないな。」

言いながらちゃっかり座り込む。

「でも水戸君は?」

「ははは。学園長から中に入れてもらっただけさ。ここの使用人頭って言う人に図書室まで案内してもらったよ。」

なんだ。坂木さんが案内してくれていたのか。黙って侵入してきたのかと思ってびっくりした。


2重に見える水戸君は二人ともにこにこしている。でも見ていると疲れてしまう。できるだけ見ないでおこう。私はお茶を入れることにした。


すると水戸君は私たちに紙を渡してきた。

『声を出さずに読むこと。』

最初にそう書いてある。

『君たちの端末をこの袋に入れて、隣の部屋か、もう少し離れたところに置いてきて欲しい。』


「?」


『静かに急いで頼む。』


言われたとおり端末を渡された袋に入れ、隣室に置いてくる。


「早速だが、君たちが一番心配な東についての情報だ。」

戻ってきた私がお茶を水戸君の前に置き、座ったのと同時に話し出す。



「端末に盗聴器が仕掛けられているといけないからね。」


・・・・・昨日の倫太郎君との話とかぶる。




「まあ。そんなことは置いておいて。」

「東。奴は汎国の神官だ。」

「え?神官?何でこんなところに来ているの?」

「倫子ちゃん。貴女を見極めるために決まっているわ。」

「そうだ。」


お茶を一口飲んで水戸君は続ける。


「おそらく・・彼は上層部から見極めろ、懐柔せよ、もしくは滅してしまえ・・・多分そんな命令の下で動いているだけだろう。あのバーナーの火も。君がどう動くか見たかっただけだと思うよ。あれを見るに、奴は炎を操れるようだな。」



「あの黒い渦は?」


広川さんが聞く。


「あれは東の仕業とは思えない。奴は腐っても神官だ。大勢の人間に害をなす行為は・・・出来ないはずだ。神官になるとき誓願を立てる・・・それは決して破られないもののはずだから。」

「神官が罪を犯すこともありますわ。」


「そうだ。・・・いや。俺がそう思いたいだけで・・確かに東ではないと言い切れないかもしれない。

 だが、東からはそのような大きな波動は感じられないのだが・・・」


「波動って何ですか?」


また新たに聞く言葉だ。


「俺がいろいろな物事から感じ取れるもののことを俺は波動と呼んでいる。いろいろな人間や物の出している波動を読み取ることによって俺は動いている。別の言い方をするとこれがこの仕事をやっていける理由なのさ。」


この人独自の特性をそう言うのか。


「水戸君の言霊は波動?」


「まあ。そういうことかな。」


私たちはまた無言になる。


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