第37話 私は護衛を知った

水戸君が護衛?!私と広川さんは顔を見合わせた。


 おじいさんから得た情報によると、今回の護衛は「影」と呼ばれるほど結構名が知られている。つまり年齢はそれほど低くないはずだ。変装にしてはちゃんと広川さん達と同じような年頃に見える。本当か?広川さんはどう思ったんだろう。影と聞いても不思議に思っていなさそうに見えるが・・・彼女も護衛の存在は知っていたんだろうか。


そこに山名さんや英田さんがやってくる。

「大丈夫だったの?」

二人は私の周りをぐるっと巡って燃えたところがないかチェックしてくれた。

「ええ。水戸君がかばってくれたの。」

その言葉に、

「へぇ。水戸君意外といい奴だったんだね。」

と、山名さんが言う。

「いや。それほどでも。」

水戸君はにこやかに受け答えしているけれど、目は東君から離れていない。


ばたん・・・ドアが開く。


「学園長」

おじいさんが青い顔をして息を切らして立っていた。きっとまたモニターを見ていたんだ。先生が慌てておじいさんの方に行く。


「報告したまえ。」


慌てて先生が報告している。東君は申し訳なさそうな顔をして神妙にそばに立っている。


「すみませんでした。何かに躓いちゃって。」


下を見るが何も躓けそうな物はない。広川さんも水戸君もそう思ったみたいで顔を見合わせる。

おじいさんと先生、東君の声だけが響く。

みんな黙って話を聞いている。

それから、同じ班の広川さんからも水戸君からも私からも話を聞く。


おじいさんは一通り話を聞くと,水戸君の方を振り返った。

「どれ。水戸君?でいいのかね?そうか。ちょっと腕を見せてくれないか。」

「はい。」

「ほう。白衣は焦げているね。めくってみてもかまわないかね?」

水戸君は腕をめくってみせる。

「なんともありませんよ。」

確かに白衣の下の白いシャツも、その下の腕も何ともなっていなかった。

「ふう。不幸中の幸いだな。」

「はい。」

「いずれにしても、倫子君をかばってくれてありがとう。」

おじいさんは探るように水戸君を見ている。

「どういたしまして。」

水戸君はにっこりしていった。

「この白衣は、私が預かろう。新しい物を早急に用意させる。」


「あのぉ」

東君が口を挟んできた。

「なにかね?」

「その白衣、ボクに弁償させてくれませんか?」

おじいさんはさらに探るように東君を見た・・・疑ってます感が半端なくでている。

「いや。学園でのことなので、君は心配しなくていいよ。」


しばらくしておじいさんは、十分気をつけなさいと全員に向かって言葉を残して焦げた白衣だけ持って実験室を出て行った。


 先生が気を取り直した頃にはもう授業の終わりの時間だった。


 みんながやがやと教室に戻る。


「昨日からやたらと変なことが起きるわねぇ。」

誰かが言うとみんなが賛成する。

「何かが起きているのかもな。」

冬彌君が言うから、山名さんも,

「私たちの知らない何かってこと?」

と返している。




確かに・・・何かが起きている。いや・・・おきようとしているのか・・・


『本当の善とは何だって?


 おまえ、


 俺らにわかるっていうのか?


 本当の悪とは何だって?


 本当にそれを知っているっていうのか?




 俺らみんな、簡単に善だ悪だといっているが


 俺ら本当はなんにも知っちゃいないんだぜ


 知っているよな?


 なあおまえ


 本当の悪とは何なんだ?


 本当の善とは何なんだ?


 知っていたら教えてくれ


 ああ、おまえらも 知っちゃいないって


 光がなんだ 闇がなんだ


 本当に知っているのは誰なんだ


 俺らと一緒に考えようじゃないか 』








なんだろう。急にあの詩が浮かんできた。


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