第24話 広川夏美は憂えている


・・・広川夏美




 この前はびっくりした。


 東野先生に呼び出されていると言われて、職員室に行ったら、


「呼び出していませんよ。」


って言われたから。


 っ・・・呼びに来たのは清水嘉穂さんだった・・・・!!




何かあるのでは?!


「・・倫子ちゃん?!!」


慌てて教室に走って戻る。




誰もいない。倫子ちゃん。帰ったのかしら。山名さんは一緒かしら。


ポケットの小型端末を取り出す。最近売り出されたこれはとても便利だ。


倫子ちゃんの家の番号は・・・番号を検索する手も震えてしまう・・・そのとき・・


 え?どこかからすごい怒鳴り声がしなかった?

何だろう。

がき?ガキって聞こえたわ。まさか???


 慌てて端末をポケットにしまい、声のした方へ走り出す。


どこ?どこ?

どこから聞こえるの?悲鳴?


 ここ?


「何をしているんだい」


井部先輩の声がする・・ここだわ。


 誰かがぼそぼそ答えている。

「いいわけは言わなくていいよ。一目瞭然だよな。」

何が一目瞭然なの?

私はノックももどかしくドアを開けた。


!!!!!


「倫子ちゃん!」

ホワイトボードの前に・・・倫子ちゃんが真っ青な顔をして倒れている。


 井部先輩。それに吉井令佳と藤井百華、清水嘉穂・・・。


 私は3人をにらんで思わず言った。


「私をはめたわね。」


 井部先輩が怪訝な顔をする。


「だまされて呼び出されたんです。


 ・・そんなことより、早く倫子ちゃんを。」




 私は倫子ちゃんのそばにしゃがみ込んだ。足があらぬ方向に曲がっている。真っ白な顔。脂汗がにじんでいる額。首カラチも流れているではないか!!!もしかしたら頭を打っているかもしれないので下手に手を出せない。ハンカチを取り出して、倫子ちゃんの額をそっと拭くくらいしか出来ない自分がもどかしい。


 井部先輩はポケットから小型端末を取り出す。


 すぐに連絡した相手は保健室の山之内先生のところだった。


 続けて学園長。




 学園長に報告しているうちに山之内先生が走ってやってきた。


倫子ちゃんのようすを診て、すぐに各教室に取り付けられている通信端末を使って救急車の要請を始める。


「頭を打っているかもしれないから、動かさない方がいい。」


 しばらくすると学園長も駆けつけた。


その間、あの3人は放心状態で座り込んでいた。


いったい何なのだ?


「何があったんだね?」


 学園長の声が震えている。


 3人とも黙ったままだ。


 学園長は、教室に備えられている通信端末を使って、職員室に連絡を始めた。


・・・・


 直ちに担任がやってきた。


 その後、(実際はそんなに時間はかかっていないのだろうが)ひどく長く感じられた時間の後で、救急隊の人が来て慎重に倫子ちゃんを連れて行った。


 井部先輩は、山之内先生と一緒に救急車の方に付き添っていく。もちろん私も。


 学園長が後ろから何か叫んでいたけれど、それより倫子ちゃんだ。


 救急車には山之内先生が一緒に乗り込んだ。


 後は医療機関に任せるほかはない。


 井部先輩と二人でさっきの教室に引き返す。




 教室にはすでに誰もいなかった。ふと床に光るものが落ちているのに気がついた。ちぎれた鎖・・・そして金色の花の指輪。小さい。


 井部先輩と二人で顔を見合わせる。

「倫子ちゃんのだ。」


「あの3人は?学園長は?どこかしら。」

「職員室か。学園長室か。」


 二人とも無言になる・・まず、職員室に向かう。


 職員室は騒然としていた。


 あれは・・・警察。


 学園長が学園長室から出てきた。


 私たちを見て,学園長室で待つようにと指示を出し、警察の方に近づいていった。


 学園長室には、担任の東野先生と副担任の三波先生、隣のクラスの渡部先生があの3人と一緒にいた。


 3人とも黙って下を向いている。


 ややあって、学園長が警察の人を二人連れて戻ってきた。


「お座りください。」

 二人の警察官が座る。


 かなり疲れた様子で、学園長も座った。



「さて,何があったのか順を追って話してもらおうか。」




・・・




 3人の話は要領を得ないものだった。


 行きつ戻りつ・・進まない上に、支離滅裂




 たたいていない。倒してもいない。


 殴るなんてするわけがない。




 では何で気を失っていたのか、足があらぬ方向に曲がっていたのか。




 分からない。私はやってない。


 私じゃない。


 私も違う。


 うそだ。百華さんが蹴った。


 蹴ってない。蹴った。蹴ってない。




 ついに3人で泣き出してしまった。


・・・あきれてしまう。




 判断するに、百華が倫子ちゃんを蹴り、残りの二人が止めようとしたところに井部先輩が目を覚ましたようだ。

「この指輪は、あなたたちが倫子ちゃんから奪ったものなのね?」

3人はただ泣くばかりだ・・・

私は指輪と鎖を学園長に渡した。警察の方が証拠として欲しいようだったけれど、きっと倫太郎君が渡したものに違いないから、おじいさんである学園長に渡した方がよいと思ったのだ。


でも・・・


 井部先輩。いてくれたのは良かったけれど、もっと早く目を覚ますべきでしたね。そんな思いが顔に出ているのが分かったのか、井部先輩はこっちを向いてごめんと言った。私に言われても・・・井部先輩は耳栓をして眠っていたという。そうまでして学園で寝ていなくてもいいのでは・・・帰って寝るとか、保健室に行くとか・・・いや。いてくれて良かったんだ。おかげで少なくとも倫子ちゃんを助けることが出来たんだから・・・




 その頃になってあの3人の家の人たちがやってきたという連絡が入った。




 ・・・これからまた大変ですね・・・誰がつぶやいたのか・・・


 もう遅いから帰って良いと言われたけれど・・・倫子ちゃんが心配だ。




 学長もかなり心配していらっしゃる様子。


 学園長室の通信端末が鳴った。


 みんなはっとして端末を見る。


 端末は医療機関からで、複雑骨折。脳には異常はないが、まだ目覚めないなどのことが明らかになった。

「今夜は医療機関で休ませ、明日、城山の家に連れて行くから大丈夫だ。」

と言われてようやく納得した私たちは、家路に着いた。

これからあの3人と保護者はさらに警察の方々から聞き取りをされるらしい。警察署に移送されるとのことだった。



 ・・・とにかくあの3人はおかしいとしか思えない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る