第15話 倫太郎から見た倫子
倫子ちゃんは小さい体でがんばっている。
体育は男女別だから、助けてあげられないのが悔しい。
男子は今、器械運動をしている。
女子はボール運動だ。彼女にはボールは大きすぎるだろう。
見に行きたいけれど、こちらもこちらで勝手に動いて見に行けない。
「鉄棒に上がると女子の方が見えるぜ。」
冬彌が教えてくれた。普段なら大きなお世話だと思って無視するところだが。
「なんだよ。気にしてるんだろう?
にらんだように見えたらしい。
「いや。ありがとう。いいことを聞いたよ。」
ぼくの言葉に冬彌はびっくりした顔をしていた。
・・・
普段、見ていると、他の女の子達からも受け入れられているみたいだ。リンと呼んでいる子もいる。みんなかわいがってくれているみたいだ。
倫子ちゃんの中身が60歳だなんて誰も信じないよ。
僕だって信じられないんだから。
基本はあの10歳の頃のままだと思うんだけれど。
そういえば、あの3人は何かというと倫子ちゃんに絡んでいって嫌な感じだけれど・・
3人のうち2人はクラスが違うから安心していたんだが・・・体育が一緒だったとは。
学級委員の広川夏美さんに頼んでおいたのは、正解だったみたいだ。同じ年頃の妹がいるって言っていたからね。
僕の目が届かないところを見てくれる。ありがたい。
広川さんのところも政府に関係した仕事をしているし。倫子ちゃんのことを何となく分かっているみたいだな。
「おい、倫太郎」
冬彌か。悪いやつではないんだが・・・・・・・
「倫子ちゃんの見張りはいいのか?!」
「倫子ちゃんの見張り?」
「いや。見守りか?子守か?」
子守はひどいだろう。
そう言うと、にやりと笑って、
「おまえが誰かに執着の様子を見せるのが面白くて・・」
と返された。執着?
「執着とは心外だな。
気に掛けているだけだ。」
いや・・・執着でもぴったりかもしれない。
「まじめな話、ちょっと気にしといた方がいいと思ってだ・・・」
なにやら例の3人がいつになく休み時間に集まってこそこそ話をしているということを教えてくれる。
「俺の彼女がさ、この前、薬草畑の出入り口で、吉井令佳と藤井百華・清水嘉穂の3人が畑の中にいる倫子ちゃんの方を見てひそひそ話をしていたのを見たんだとさ。」
見て・・・ひそひそ話す・・・
あまりいい気持ちはしないな。
「実は、倫太郎。前からあの3人にもてもてだと思っていたんだが・・なんか・・・最近の様子を見ていて、ちょっと変だと思ってさ。」
「・・・」
「倫太郎のことも気にしているんだろうけど、倫子ちゃんにやたら絡んでいくだろう?!」
そしてまたにやっと笑って続ける。
「俺の彼女が言うには,毎日のようにあまり人気のないところに行って、3人でこそこそしているらしいと・・・・最初は大好きな倫太郎の彼女に意地悪してやろうと相談してるのかと思って見ていたんだそうだけど・・・
・・・確かに、倫子ちゃんに意地悪をたくさんしているのをよく見るんだそうだ。
そんなに怖い顔するな。大丈夫だよ。いつも広川達がうまく入っているそうだ。なんか・・・」
話はまだ続く・・・
あの3人は何がしたいんだろう。祖父の情報だと,外つ国と関わりがあるらしいが。
・・・今までは、ずっと僕を見張っている感じがしていたんだが・・・
・・・実は最近、彼女らの上に黒いもやが見えるようになった。時々濃かったり、薄くなったりしているが、確実に何かが彼女らに働きかけているようだ。
・・・倫子ちゃんのことを広川さん達に頼むだけでなく、もっと何らかの手を打った方がいいんだろうな。
思考が冬彌から離れていく・・・
その間にも冬彌の話は続いている。
「・・・でさ,、おい聞いてんのか。」
「・・・聞いてなかった。悪い。」
「ちゃんと聞けよ。でな,・・・」
最後は彼女自慢か・・・少し疲れるな。
何かというとロリコン呼ばわりされるのも・・・心外だな。たまたま6歳なだけで・・・
「・・・冬彌、考えてみなよ。」
「何をだ?」
「80年後。」
「?」
「96も,86もあんまり変わりはないと思わないか?」
絶句する冬彌を後に残し教室に戻った。倫子ちゃんがちょこんと座っているのを見てほっとする。
もう前期前半テストの時期か。この学園のテストは年に5回。全教科行われる。倫子ちゃんは体育がきつそうだな。
後は呪術か。なかなか前の考えに引きずられてすんなりいかないことが残念だな。
菜の花のエキスを飲まなければもう覚醒していたかもしれないけれど。
でも・・・そうしたら、僕の倫子ちゃんではなくなってしまう・・・僕は僕の倫子ちゃんであって欲しいんだ。
だから・・・まだ神殿にはつれて行かなくていい。
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