第414話 大丈夫だ
「だーいじょぶだー」
ダダン、ダ、ダンッ。
「だぁ~いじょぶだぁ~」
ダダン、ダンッ。
ロランの掛け声に合わせて、太鼓の音が鳴り響く。
ここはエゼルキア帝国の首都レドクリスタにある旧ディヤウス正教大聖堂。
少し前まで、リヴィウス神が「会いに行ける神様」活動と称して、集まった信者らに洗礼を施し、教えを説いていた場所である。
リヴィウス神が消滅してしまった今、このカドゥ・クワーズに満ちている魔素の影響から人々を守る洗礼儀式を行うものがいなくなってしまったため、この場所でロランが週に一回、代わりを務めることになったのである。
顔を顔料で真っ白に塗り上げ、ちょんまげを結う奇抜な恰好をすることでロランは、リヴィウス神に代わる新たなる神ダイジョブ・ダーを演じている。
ノーメイクだと、今後プライベートのこととかに色々な支障がきたしそうだったので、やむを得ずに取った苦肉の策であったのだが、これが意外と好評であった。
この一見ふざけているとしか思えないこの儀式だが、効果はしっかりとある。
洗礼神儀を受けた人々は長年苦しめられてきた持病などから解放され、それが口コミで広がることで、天授スキルを授かれなかった子供たちの他、その親、家族など段階的に信者の数が増えてきた。
さらにはこの集会に参加を希望する魔族もちらほら出てきて、まだ三回目だというのに大聖堂内は満員だった。
建物内に入りきれない人たちもかなりいて、次回開催からは整理券を配ることになっている。
大聖堂の出入口で販売されている聖書「大丈夫だ。だって、人間だもの!」も飛ぶように売れており、すぐに増刷が必要だった。
水晶玉やお守り、お札などのダイジョブ・ダー神グッズもそのうち売り出す予定である。
御利益があったと実感した人々からの善意のお布施もかなりあって、ロランの所有資産はますます増え続けている。
ロランには、夜兎国王としての税収や製紙業、製材業、印刷業などの事業収入の他、小説等執筆活動やこの宗教活動によって荒稼ぎした資金が潤沢にあり、不遇にも一人王家を離れることになったアリエノール王女のために城を一つ用意することなど容易いことであった。
調子に乗ったロランは、アリエノール王女に捧げた≪
城から見て南に位置する町の中心にある非常に大きな路地が高台にある≪
なにかの漫画にそんな名前の街が出てきていたような気がする。
この城造り、街造りはいわば公共事業のような役割も果たしていて、領民たちに現金収入を得させる手段として、とても喜ばれた。
こうなるとロランがクシナたちと暮らす天魔宮がある≪夜兎族の町≫も発展するようにせざるを得なくなった。
最近、サザンクロスの方にばかり足が向き、その造営に力を入れていることを正妻であるクシナに怪しまれつつあるからだ。
かつてボロースという田舎町であったこの≪夜兎族の町≫も、さらに≪ヤト・キャピタル≫と改名し、首都化を進めた。
このように建国したての国の王は忙しい。
やることは山のようにあるのだ。
「やれやれ、今度はリグヴィールだ。そろそろほとぼりも冷めただろうし、王女失踪事件の余波についても、様子を見に行かなくちゃね」
合間を縫って、二重生活も続けなくてはならない。
だが、ロランはこうした多忙な日々に文句を言いつつも、本当のところは充実感と幸せを感じていた。
前世の高橋文明時代のように、自室に閉じこもり過ごしたあの孤独の日々を考えれば、比べようがないほど幸福だ。
「瞬間移動だってできる。だって、人間だもの」
ロランは
実現したい事象、拒絶したい事象を文章で発声し、最後に「人間だもの」で結ぶことで効果を発揮する。
実際に何が起こるかは、
ロランは、あの美しいリグヴィールの風景を思い浮かべ、瞬時に移動した。
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