第410話 ドルンレッシェンシュロス

エゼルキアの方は、ヴァルトスたちに一旦丸投げしておくとして、次はアリエノール王女と守護天使どもの身の振り方を考えてやらなければならない。


≪夜兎族の街≫とクシナたちのことは家令のメリュジーヌに任せておけば問題ないし、リグヴィールの家の方は、もう少しほとぼりが冷めてから戻らないときっと迷惑をかけてしまう。


本当に忙しいが、まずは一個一個、できることから済ませていこう。



「……んっ、はぁ、チュッ、ヌチャ、レロレロ、……はぁ」


≪夜兎族の街≫から南にある森の奥、倒れた巨木の幹に腰を掛けたロランはアリエノール王女を膝の上に乗せ、抱き合う様にしてその唇を味わっていた。


うっとりした表情のアリエノールの太腿の間に手を這わせ、時折、汗ばむ乳房を弄ぶ。


夏も終わりに近づいてきているが残暑があって、うっそうとした森の木陰であってもまだ少し暑い。


「ああ、もう……」


「もう? どうしたの」


この世のものとは思えぬほど美しく、そして品のある顔を真っ赤にさせたまま下を向き、アリエノールは何も答えない。


「一国の王女様ともあろう御方が、こんな日が高い時間に、それもこんな屋外で続きをしてほしいなんて言わないよね?」


ロランはわざと意地悪そうにそう言うと耳たぶをそっと甘噛みした。


「ヒャンッ、いや」


アリエノールとは、まだエッチしてないので、彼女はまだ処女だが、こうしてイチャイチャする機会を重ねる度に、少しずつ緊張ほぐれてきており、最近ではこうして人目が無いと自分から甘えて来るようになった。


そろそろ下着に手を入れてみようかと考えていると、邪魔者たちがもう帰ってきてしまった。


「ロラン様~、例の砦見つけたよ~」


ジブリルが両手を目一杯振り、巨乳をゆさゆさと揺らしながら上空から声をかけてきた。

サマルを抱えたファヌエルもいる。


ロランは、守護天使たちの拠点を探してやるべく、≪魔尚書ましょうしょ≫時代に与えられた伯爵領内にどこかいい場所はないかと彼らを連れて、視察に訪れていたのだ。


領内統治の過程で従属させた土着魔族たちの集落を訪ね歩き、条件に見合う土地を探していた。


北国であるエゼルキアにあって比較的に気候が穏やかで、さらに危機の際に≪夜兎族の街≫から駆けつけやすい場所。


その地に守護天使たちの拠点を作り、匿ってやっているという恩を着せまくったあげくに、その負い目を利用して彼女たちにアリエノールやサマルを守らせようという一石二鳥の狙いがあった。


守護天使たちは、俺の命令には絶対服従らしいから、そんなに回りくどいことをしなくても役目を果たすだろうが、このひと工夫がモチベーションの違いを生むのだ。


そして、匿うことになったのは揃いも揃って、教皇庁のお尋ね者ばかりである。

教皇庁の支配が及んでいる人族の土地に匿うのはリスクが大きすぎるのだ。


しかも分散して匿うと俺一人がただ忙しくて大変である。


長年、敵対関係にある魔族と天使族の事情を考えれば、いきなり≪夜兎族の街≫に連れて行くわけにもいかないし、クシナたちにアリエノールの存在を知られてはフランシスの時のように修羅場になりかねない。



そうした諸々のことを考えた挙句、新しい別の拠点を作ることに考えが至ったわけだ。


土着魔族たちの話によると、この森を抜けた先の丘陵地帯に人族が放棄した砦があり、今は使われていないということだったので、王女の休憩を口実にサマルたちに探しに生かせたのだが、すぐに戻ってきてしまった。


ロランは、アリエノールの着衣の乱れを直してやり、その身体を隣に座らせると何もなかったかのような顔をして「ご苦労さん」と降りてきた三人に応えた。


サマルは怪しむ様な目でこちらを見ていたが無視、無視。



ジブリルたちが発見した砦は古く、しかもかなり本格的な城塞だった。

標高50mに満たないくらいの丘陵地帯に建つその建造物の周りには幾重にも石積みの城壁があり、繁みに隠されてしまっているがかなりの数の家屋が立っていた名残があった。


「これは軍事用の砦というより、城郭都市の名残みたいだね。しかも人が住まなくなったのはかなり昔からみたいだ」


ロランたちは、その丘陵の頂に立つ石造りの古城を念入りに調べ、再利用可能であると判断した。

城の外壁には棘のある蔦が這い、内部も埃っぽくて汚かったが主要な構造部に問題はなさそうだった。


≪編集者≫として派遣される前に研修により現世知識を学習してきていた物知りのサマルによれば、ウェーダン国が軍事共和制に移行する前に敷かれていた王政期の城ではないかとの話であった。


そう言えば騎士学校の同級生だったポールが言っていた。


ウェーダン国はかつては王政を布いていたが、堕落し腐敗した王室を追放したことで、共和制国家になったと。

今となっては確認する方法も無いが、案外、追放されたウェーダン王とその一族が、落ち延びてきて築いた城郭都市の跡だったりするのかもしれない。


いずれにせよ、一から拠点を作るよりだいぶマシであるし、ジブリルたちをこき使って、快適に住めるようにしよう。


男の隠れ家。

秘密基地。


所帯持ったせいか、なんかそういうものに魅力を感じてしまう。


この城塞の名前はどうしよう。


お尋ね者が集まって住むから、≪梁山泊りょうざんぱく≫なんてどうだろう。


いやいや、むさいおっさんとかいっぱい集まって来そうだし、敗北フラグみたいで、この名前はあまり良くないな。


う~ん、王女様に捧げるお城ということで、安易だけど≪いばら姫の城ドルンレッシェンシュロス≫とでも命名しておくか。





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