第63話 ラッキースケベ体験
「バルテレミーよ、儂は決めたぞ。騎士学校団体対抗戦の前日まで、この小僧は儂が預かることにした。学校にも来んから手続きの方はよろしく頼む」
シームは、ロランを指さし、校長に告げた。
「シーム先生、それはどういうことですか。一年生の授業はどうするんですか」
「それは、ヤンの奴にでもやらせておけばよい。教頭の仕事など、どうせ暇じゃろう。なんならお前が授業やってもいいんだぞ。あとロランは特別課外授業ということで出席扱いにしておけよ」
「いくら大恩あるシーム先生とはいえ、他の者に示しがつきません。急に復職を願い出てきたり、一年生の担任になりたいと言ったのも、先生ご自身ではありませんか。復職して初日だというのに、特例特例では、他の者の目が……」
「だまらっしゃい。今、校長をやれてているのは誰のおかげだと思っておる。ダンマルタンの奴に直接言ってもいいんだぞ」
「ああ、それだけは許してください。わかりました。その辺の後始末はヤン教頭にやらせます」
おいおい、何だこの茶番は。
校長がシームに随分とぺこぺこしているし、教頭もダンマルタン子爵もみんな呼び捨てだ。
最初会った時はあんなに大人しそうだったのに、本性はかなり無茶苦茶な爺様のようだ。
「おい、何をボーとしておる。お前は寮に戻って貴重品と着替えを持ってこい。しばらく寮には戻れんぞ」
シームは杖で軽くロランの尻を小突くと、有無を言わせない迫力ある目で言った。
どうやら、俺には拒否権は無いようである。
ロランは寮に戻り、支度を済ませるとシームに連れられ、カルカッソンの町を出た。
日も暮れて、辺りも随分と暗くなっているのにどこに向かおうというのだろう。
シームは自分の荷物をロランに背負わせ、自らは杖ひとつ身軽で、意気揚々と街道を進んでいく。
シームの荷物は何が入っているのか非常に重く、ロランは顔に汗を浮かべながら、後に続いた。
『体力:69』でも、この重さの影響で疲労の蓄積が早い。
この世界の仕様なのか、敏捷がいくら高くても、こうした重い荷重をゆっくりと移動させる際にはどうしても筋力の数値の影響が大きいようだ。
あんなに速く動けているのだから、速筋とかメチャクチャ発達してそうなのに、少し重いものを持っただけでこの有様だ。
自分の筋力を越える重量物を持つと移動速度や敏捷性に著しい影響が出てしまう。
運動能力に関する法則はやはり前の世界とは大きく異なるみたいだ。
それにしてもこの背負い袋、一体何が入っているんだろう?
大人二人くらい体育座りとかして無理すれば入れるくらいにデカいし、異様に重い。
「ほらほら、はやく歩け。今夜中に進めるところまで進んでおきたいんじゃ」
「シーム先生、僕たちはどこに向かっているんですか。僕、力がないからこんな重い荷物だと疲れちゃうなぁ」
おどりゃー、この爺。大人しくしてれば調子にのりやがって、荷物くらい自分で持たんかい!
内心は啖呵きって荷物を地面に叩きつけてやりたい衝動に駆られたが、ぐっとこらえて子供らしい口調で訊ねた。
「王都じゃ。校長の話を聞いとらんかったのか。大会まであと十日だと言っておっただろうが。儂らは徒歩で王都をを目指す。その間、儂自ら、みっちり修行をつけてやる。かつて剣聖と恐れられた儂の修行をマンツーマンで受けれるんじゃ。感謝せえよ」
修行?
マンツーマン?
「他のメンバーの人達は? 」
「あんな有象無象などどうでもいいわい。馬車でのんびり来るじゃろう。馬車なら二、三日で着くからな。儂らは途中、宿場町によって、その足でそのまま王都入りするんじゃ」
マジかよ。この爺さんと十日間二人っきり。
しかも修行とか言ってるし。
馬車で先輩女子たちと一緒なら、揺れでおっぱいに密着とか、短かすぎるスカート内の神秘の三角地帯がチラ見できたりとか、色々とラッキースケベ体験できたかもしれないのに、こんな強烈ジジイと十日!
修行とかそんなのは少年誌でやればいいんだよ。
修行嫌っすよ。
自分、体育会系じゃないんで部活とか合宿とかもやったことないっすよ。
汗、青春、スポ根。全部無縁だったっすよ。
だいたい十日で何が変わるというんだ。
こんな遅れた文明レベルの非科学的トレーニングなんか、ノーセンキューだ。
兎とびとか、水分補給禁止とか本当にやめてくれよ。
憂鬱しかない騎士学校団体対抗戦で唯一の希望だった先輩女子との触れ合いが露と消えた。子供の振りして甘えたり、あわよくばラッキースケベを狙っていたのに!
じじいと巡る王都への旅。大半は野宿だろうし、ろくな飯だって食わせてもらえないんだろう。荷物は重いし、辺りは暗くて、山賊か何か出てきそうだ。
「どうした? おぬし、嬉しくて泣いておるのか? 」
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