第53話 やれやれだぜ
「入りなさい」
威厳ある声が聞こえ、ヤン教頭と校長室の中に入ると、室内には声の主であるらしい初老の男性とセドリック、そしてポーリンと金髪角刈りの教師がいた。
「君が、ロラン君だね。そこに座りなさい」
初老の男性に促されるまま、セドリックの隣に座る。
セドリックは怒った様子もなくにこやかで、出された紅茶のようなものを飲んでいた。
右側のソファにはポーリンが座っていて、初老の男性の背後には金髪角刈り教師が仁王立ちしており、こちらを睨んでいる。
「まずは初めまして。私が校長のバルテレミーだ。ロラン君、君を呼んだのは他でもない。いくつか確認したいことがあったからなんだ。ここにいるポーリンの話では、血迷って乱暴を働こうとしたテッツァーを君が倒し救出してくれたということだがこれは事実かね」
「嘘だ!あいつがそんなことをするはずがない。本当のことを言え」
金髪角刈り教師が突然声を上げた。
手を後ろに組んだまま、怖い顔で睨んでくる。
なんだ、こいつ。テッツァーの友人か何かなのか?
「ドゥンヴェール君、静かにしたまえ。私は今、ロラン君に聞いているのだ」
「はっ、申し訳ありませんでした」
金髪角刈り教師はぎりぎりと歯噛みしながら、下を向いた。
「ロラン君、テッツァーはああ見えて戦場でもまあまあ名が知れた騎士の一人だった。その彼をどんなスキルを持っていたとしても、六歳の児童が単身挑んで勝利するというのは信じられないという声が出ているんだよ。つまり被害者であるポーリンの証言の信憑性が問われているんだ」
バルテレミー校長の言葉にポーリンが下を向く。
「私はそれほどテッツァーについて知っているわけではないが、同僚教師たちの話では、熱血で行き過ぎたことをすることもあるが、基本的には熱意と情熱を持った教育者だと聞いている。白昼堂々、女性に淫らな行為をしようとするなど信じられないという声も多くてね」
なるほど、この人たちはポーリンの証言を否定し、事実をなかったことにしたいわけだ。本当に腐ってる。学校というところは、どの世界でも一緒なんだな。
「校長先生は、ポーリン先生が嘘を言っていると仰っているんですね」
「いやいや、誤解されては困る。ポーリンの腕には痣が残っているし、彼女が嘘を言っているとは思えない。だが、君のような幼い子供がそれなりに実績のある騎士を相手に勝つことができるのかと思っているのも事実だ」
バルテレミー校長は少し困った様子で、精悍な顔立ちを曇らせた。
年齢的には五十代後半くらいで、その目は穏やかだが、その奥には生気が漲っており、枯れた印象はない。
「校長先生、親馬鹿と思われるかもしれませんが、この子はこう見えて非凡なところがあります。先日も不慮の事件に巻き込まれ命を落とした騎士見習いのダミアンとの手合わせでも勝っておりますし、ありえないことではないかと」
セドリックが助け舟を出してくれた。
まだ入学して二日目なのに、問題を起こしてしまい、少し申し訳なく思った。
「ふむ、高名なセドリック卿が偽りを申すとは思えんし、やはり……」
「騙されてはなりませんぞ。私が入学時の書類を見たところ、その少年の天授スキルは≪読み書き≫です。何か特殊なスキルでもあれば可能性はありますが、そんな戦闘向きではないスキルで、大人と子供、ましては戦闘経験豊富な騎士との差を埋めることなどできるわけありません。その痣だって、自作自演かもしれませんぞ。テッツァーは、その売女に嵌められたのです」
この野郎、なんてことを言いやがる。
金髪角刈り教師の言葉に、ポーリンは涙ぐみ、その華奢な両手を震わせていた。
乱暴されそうになった上に、この侮辱。
ポーリンの無念さが伝わってくるようだった。
もしこのまま、ポーリンの証言がもみ消されてしまえば、テッツァーが復職してくるかもしれないし、偽証したとして、ポーリンさんも何らかの責任を取らされる可能性もある。
やれやれだぜ。
「校長先生。僕がそこの金髪先生と勝負して勝ったら信じてくれますか」
ロランの言葉に皆が驚き、視線が集まる。
もうこれ以上目立ちたくなかったがしょうがない。
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