第28話 ヒューマンウォッチング
「スキル『カク・ヨム』!」
何か確たる証拠があったわけではない。
ただなんとなく、ジネットに飲ませようとしている、その薬が毒物ではないのかという恐れにかられ、ダミアンにスキル『カク・ヨム』を発動してしまった。
このシチュエーションで出す薬包紙の中身は、二時間サスペンスドラマだろうが、ミステリ小説だろうが、大抵の場合、毒だろう。誰だって思いつくテンプレ展開だ。
何かあってからでは遅い。
それに、このダミアンという奴からは、悪の匂いがプンプン漂ってきやがるぜ。
小説家を目指していた頃の、駅前ヒューマンウォッチングで鍛えた観察眼と嗅覚が告げているのだ。
こいつは悪党に違いないと。
決してイケメンフェイスと高身長を妬んでるわけじゃないぞ。
時間がゆっくり進行するような感覚の後、辺りが静寂に包まれ、薬を飲ませようとしていたダミアンも、口を開けて待っているジネットも動きを止める。
セドリックも硬直したまま、立ち尽くしている。
『スキル≪カク・ヨム≫が発動しました。騎士見習いダミアンのステータスを表示します』
名前:ダミアン
種族:人間
性別:男
職業:騎士見習い
年齢:13歳
星:3
PV:4
ハート:1
レビュー:1
フォロワー:1
レベル:6
HP:13
MP:8
筋力:9
体力:8
器用:8
敏捷:7
知力:10
魔力:8
信仰心:0
こうげきりょく:13
ぼうぎょりょく:11
天賦スキル:スキル無作為強奪(直接の殺人被害者限定)F
習得スキル:演技F
奪取スキル:説教F、裁縫E、農業E、学問E 、家事F、剣術D、馬術E
≪直近のプロフィール≫
異世界転生者。前世は、市立S小学校児童連続殺傷事件の加害者であり、死刑囚。現世は騎士爵セドリック配下の兵士ドニの息子。一定周期で湧きおこる殺人衝動があり、それを他者に悟られないように隠している。酒乱で暴力を振るう父ドニの剣に細工し、戦死に導く。現在は騎士見習いだが、いずれ騎士爵セドリックの跡継ぎになり、家を乗っ取ろうと企んでいる。セドリックの息子ヨナタンを落馬事故に見せかけ殺害。ジネットには穀物の粉を薬と称して飲ませ、取り入ろうとしている。新たに現れた養子のロランを目障りに思い、追い出すか、亡き者にしようと思っている。
なんだ、これ。
こいつ、真っ黒だ。
思わず全身に鳥肌が立ってしまった。
しかも、俺と同じ≪異世界転生者≫だと書いてある。
市立S小学校児童連続殺傷事件。
この事件は、なんとなくだが覚えている。
確か、無職の男が小学校に複数の刃物を持って侵入し、次々と児童を刺した事件だ。
あの事件の加害者が転生してきたのが、こいつなのか。
俺以外に転生者がいたことにも驚いたが、よりによってこんな鬼畜かよ。
それに、『スキル無作為強奪(直接の殺人被害者限定)F』ってなんだ。
言葉の意味からすれば、殺した相手から無作為にスキルを奪うということなんだろうが、そうだとすれば奪取スキルの数からいって、少なくとも七人はすでに殺していることになる。
セドリックの息子の落馬事故もこいつのせいらしいし、自分の親父さえ殺したようなものだ。
ジネットが今飲まされそうになっている薬が毒物でなかったのは良かったが、コイツの≪直近のプロフィール≫読んでいると本当に吐きそうになるぜ。
これ以上、犠牲者を出さないためにもスキル『カク・ヨム』で成敗だ。
≪ステータス・リライト≫で「筋力:1」、「敏捷:1」にしてやる。
『スキル≪カク・ヨム≫の創作対象外です。他の作者の作品を改稿することは出来ません。5分間の閲覧タイムが終わったら、自動的にスキル≪カク・ヨム≫を終了します』
愕然とした。
こいつはスキル『カク・ヨム』で改稿することができないらしい。
万能だと思っていたスキル『カク・ヨム』にこんな限界があったなんて。
この危険極まりないダミアンを、スキル無しでどうしろというのか。
目の前が真っ暗になる気がした。
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