第24話 両親の愛情

大人たちの収穫祭は夜通し行われた。

この日ばかりは無礼講と、代官やその共の者たちを交え、酒を酌み交わし、音楽に合わせて踊り、力比べと称して相撲をとったりして盛り上がったそうだ。


ロランたち子供は母親に連れられ、いつもよりは少し遅い時間だったが、早々に就寝させられた。


いつの世も、楽しいことは大人の特権である。


スキル『カク・ヨム』で改稿した後、代官セドリックは妙に晴れ晴れとした顔になり、ロランに近づいて来ることはなかった。

精神的に完全に立ち直り、亡き息子への未練が消えたので、情に負けて行動することが無くなったからではないかと推測できた。

うむ、一件落着。



体力自慢の父アキムも昨日はさすがに飲み過ぎたのか、昼近くまで起きてこなかった。

ロランは少しお腹が空いていたので、何かつまみ食いをしようと食事部屋に向かうと、部屋の中では見るからに寝不足という顔をした父アキムと母アンナが何やら深刻そうな話をしていた。


ロランが来たことに気付いたアキムと目が合ってしまったので、つまみ食いをあきらめて去ろうとすると、「ロラン、待ちなさい」と引き留められた。


これは何か怒られるのかなとビクビクしながらアキムの正面の席に座る。


「ロラン、落ち着いて聞いてほしい。実は代官のセドリック様からお前を養子に欲しいという申し出があったんだ。セドリック様は一人息子を落馬事故で亡くして、跡継ぎを失い、困っておられるんだ」


アキムは疲れたような顔でロランをじっと見つめた。

どうやら、憔悴しているのは酒のせいではなく、養子話のせいだったのか。


「お父さんはどうしてほしいの? 」


「お父さんは、突然の話過ぎて戸惑っているよ。かわいいお前を手放したくないし、アンナも同じ意見だ」


傍らで母がうなずく。


前の世界でもそうだったが、俺は本当に両親の愛情には恵まれている。

アキムとアンナに育てられたのは六年間という短い期間だったが、深い愛情を感じたし、真夜中のエンドレス騒音以外は嫌な思い出もない。


弟か妹かわからないが、アンナのお腹の中には俺の弟妹もいるらしいし、いくらアキムが仕事ができるといっても賃金の少ない小作農では、生活は厳しくなるだろう。

自分が代官のセドリックの養子になれば、食い扶持が減る上に、アキムの出世への道だって開けるかもしれない。


「かわいいお前を手放したくない」って言葉を貰えただけで、もう十分だ。


「ぼく、セドリック様のところに養子に行くよ。そしていつか立派になって、お父さんとお母さんを楽させてあげるよ」


これは、高橋文明とロラン、両方の本心だった。

PVをたくさん稼いで、両親に生活費を入れると誓ったあの日から時と世界を越えて、今度は立派な騎士に成り上がって、宿願をかなえて見せる。


両親に楽をさせるという宿願を。





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