人形と人間

バブみ道日丿宮組

お題:苦しみの夕飯 制限時間:15分

人形と人間

 残飯処理扱いを受けてるだけでもありがたいと姉はいってた。部屋から出してもらえない私はそれでも不満でしかない。

 部屋にあるのは分厚い本、しかも大体読み終えてしまった。

 読書の虫になれば少しは気が休めるでしょと姉が部屋から出て帰ってくると補充してくのだ。

 世の中には漫画というのがあるらしいけど、今のところ電子書籍というカタチでしかみたことがない。こんなものでもお腹の足しになればと読み続けてるが、他にやることがない。

 ご飯を待つだけの生活。

 あと何年こういう生活を繰り返せば外に出れるのだろうか。

「……」

 鉄格子の外は、そろそろ雪が溶けて春になりそうな季節。

 床暖房がなければ私も外で倒れてる人のように死んでしまってたかもしれない。

「……あぁ」

 うっかりとしてたからか、その倒れてる人を一瞬忘れてた。

 この部屋を管理してる私の叔母と語る人物だ。

 いい気味だと思った。

 自分だけ外に出て好き放題やってるんだ。そうやって死ねるだけマシだと思って欲しい。

 何分かそれを見てると、管理してる数人がその叔母を運んでった。


【見たことを忘れろ】

 

 鉄格子に近づいた一人がそんなことを言ってた。

「……」

 今更なんだというのだろう。

 叔母というカタチの人形が育ててる人間が私たち姉妹だということを忘れろ?

 馬鹿な話はやめてくれ。

 一体何の権利があって、人形に育てられてる人間が存在してるんだ。

 人形が外で暮らし、人間は牢屋のような部屋の中で文字通り人形遊びに使われる。

 あぁ、ひねくれた世界だ。

 人の形をしたおもちゃだったはずのものが、反旗を翻し主導権を持つなんて。

「……おかえり」

 シャッターが開く音で振り向き声をかけた。

「ただいま。窓あけてたんだ。へんなやつに声かけられなかった?」

 姉は荷物をおきつつ、衣服を脱いでく。朝見た時とは違う下着をつけてた。またメーカーカタログの人形の役目でもされてたんだろうか。

 姉はあまり外での話をしたがらないから想像眼で見るしかない。

「あぁ、これ? 新作なんだって、フリルついて可愛いでしょ?」

「……そうかな。丸見えでただの淫乱な感じしか見えない」

 あははと姉はそっぽを向いて、部屋着を着た。

 下着の本もいくつか姉が買ってきてくれてるから種類はわかるけど、最近の姉の下着の変化は異常だ。

 もしかして姉が成長するに連れて、人形たちの楽しみが増えたのか? 胸も大きくなったって聞いたし、そうに違いない。

「今日はあまりいいものもらえなかったから、簡単なものにするね」

「うん、わかった」

 いつか私も姉のように外に出ることになるのか、ならないのかはわからない。

 でも、何か……何かを考えなければ人間は抜け出せない。

 

 悪循環したこの黒い世界をーー。

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人形と人間 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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