消えた光

バブみ道日丿宮組

お題:愛すべき家事 制限時間:15分

消えた光

 言葉を忘れた弟はあたしのご飯を食べる時だけは笑ってくれる。

「オムライス好きだったよね」

「……」

 無言で口にスプーンを運ぶ様子は昔と何も変わらない。

 変わったのは、この家の広さ。

 いるべき人がいない空間。

「……」

 仏壇に一度目をやって、テーブルの上に並べてある家族写真に目をやる。

「……頂きます」

 あたしも弟に続くようにお腹にオムライスを落とし込む。まだまだやることは今日たくさんある。明日の昼ごはんの準備。親御参加の学校行事の日程に間に合うように学校を飛び出す時間などなど……計画はしてたけど、再度頭に入れ直さなきゃ行動するには遅い。

「……」

『やることは何度も繰り返しイメージトレーニングするんだ』

 孤児から拾ってくれたおじさんとおばさんがよく言ってくれた。

 参考書も一緒に勉強をしてくれた。わからないことも一緒に悩んでくれて、いろんなことを覚えた。おじさんたちが高齢だったこともあって、家事は基本的にあたし。孤児院でも手伝ってたからそこはなんとかなった。おじさんたちはあまり食べないし、献立の文句をいうのは後にも先にも弟だけだった。

 洗濯物はさすがに4人分はたいへんでおばさんが届かないところにほしたり、おじさんたちはこの家の隅々をあたしたちに教えてくれた。

 だから、弟と一緒に事故にあった時、あたしはショックで一週間寝込んでた。その夢の中でおじさんたちは笑ってた。いつも通りの生活をしてればいつか幸せになるから、そのために一緒に勉強してきたんだよって。

 目覚めたあたしは医師に問題なしと言われ、心がなくなった弟を連れて我が家に戻った。

 最初はほんとうに人形になってしまうんじゃないかって思った。

 あたしも弟もおじさんたちが大好きだったから、交通事故に巻き込まれた弟はより一層罪の意識が強いって医師がいってた。それが心をなくさせたって。

 でもそれも家に帰ってからは少しずつ治ってった。

 本当に少しずつだけど、勉強するようになった。昔のあたしのように家事を手伝うようになった。あたしの姿が……あの頃はもしかしたらおばさんに見えてたのかもしれない。

 そうだとしても、立ち直るきっかけになったのならあたしは何でも良かった。

 おじさんたちが望んだのは、あたしたちが元気に大人になること。


 遺言書を見つけた時は、また倒れそうになったけど……いつもあの二人はあたしたちのことを第一に考えてくれたんだって思った。

 だって、遺言書があったのはあたしが一番最初に手伝った時に怪我をしたタンスの奥。

 忘れることなんてできやしないよ。

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消えた光 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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