ミステリー研へようこそ

パンパース

第1話 ミステリーは嫌いですか?

青春は悪であろうか。

否、正義とはいえないであろう。

しかし反対解釈で解決する問題ではない。

それは人の人生にも通ずるものがあるんじゃなかろうか。

人の正義はその人の視点によって正義だ悪だと変わっていく。

戦争が良い例であるように、正義か悪かを決めつける事案には必ずと言っていいほど勝者がいて敗者がいる。

いや、この例は良い例ではなかった。

なぜなら俺は戦争を経験していない。

実際には歴史という名の規制線が引かれた教科書上でしか事実を知らない。

その規制線を張られた歴史では日本は負けたという結論が書かれており、それを知ったときは何も感じなかった。

しかし負けれどこの日本を悪だとは思わない。

戦勝国を正義とも思わない。

これはミステリーにも言える。

ミステリーは解く方は必ず正義の位置にいる。

しかし解かれる方には解く探偵は悪にしか見えないはずである。

それもイカ墨のように真っ黒な。

だから私、嘉山蒼汰ミステリー研には入らないことをここに書き記します。


「で、どうなったのさ」


「入れだとよ」


「だろうねw」


海斗は大きく笑い、放課後の教室に笑い声を響き渡らせる。


「笑いごとじゃない。これは一時間かけて編み出した傑作なんだぞ」


嘉山は文字の書かれた紙を目にして大きくため息を吐く。


「全然ダメだね。てか、無理くり繋げたように見えるよ」


目の前の親友、海斗の笑いに苛立ちを覚えるも、目の前にある問題解決のためにはそのエネルギーを使っていられない。


「京子先生の推薦なんだろ?」


「推薦でも何でもない。あんなの脅迫だ!」


俺がなぜこんなに声を荒げているのか。

それは俺が担任の京子先生からミステリー研に誘われているからである。

相手が誰であろうと部活に入るつもりはないが、相手が相手だ。


「なんでそんなに京子先生を恐れてるんだい?」


「恐れてなんかない。ただ…」


先生とは怖いものだ。

例え良い先生であっても、奥深くに眠る闇を呼び起こすわけにはいかない。

こちらが下手に出れば、今後の学生生活に大きな影響が出てしまうことは容易に想像出来る。


「ひとまず部室へ向かってみたらどうだい?」


「まぁ…そうだな」


海斗は空手部があるため一足先に教室に出ていった。

そして俺も、コツコツと静かな廊下に音を響かせながら目的地へと向かう。

静かな空間の中、時折部活動の掛け声が聞こえてくる。


「よくやるな…」


ぽつりと出た言葉は小さく、周りを見渡して安堵のため息をつく。


「ここか…」


足取りを進めて4分。

校舎の4階にはめったに来たことがなく、どこか不気味な廊下が続いていた。

目的地のドアの目の前で棒立ちになるが、意を決してノックをする。


「居ないのか?」


扉を横にスライドさせると扉が開き、鍵はかかっていない。


「!?」


綺麗な黒髪に綺麗な横顔、スラっとした体形に目を暮れているとその人物はこちらに気づく。


「どなたですか?」


「あ、あぁ…俺は嘉山蒼汰(きやま そうた)。って水島さん?」


「驚きました!嘉山さんでしたか。どうしてここに?」


「あぁ、京子、、先生に呼ばれて来たんだ」


まさかクラスメイトの水島がいるとは…


「とりあえず…座ります?」


「そう、、だな」


長机に椅子が二つ。

特に飾りつけのない質素な部屋だが、水島の存在が影響してか華やかに感じる。

椅子に腰かけ蒼汰は小さくため息をつく。

その横に水島も腰を掛ける。


「お話しするのは初めてですよね?」


「あぁ、そうだったな」


水島美玲

容姿端麗で勉強も出来る才色兼備。

噂程度でしか聞かないが、実家は金持ちで俺とはかけ離れたお嬢様だとか。

しかし、とある噂で変人だとも聞く。


「ミステリーにご興味が!?」


俺の横に腰を掛けた水島は至近距離で目を見開いてこちらに問いただしてきた。


「え、、あぁ、小説で少し読むくらいだ」


本当は一切読まない。

そして興味も一切ない。

しかし嘘をつく必要がある。

なぜならこの部活を長くやっていく可能性があり、ここでNOと言えば確実にこちらに対する印象が悪く変わるだろうからだ。

こいつはミステリーが好きなのだろう。

相手が好きなものに相槌を打つのが和平への一歩なのだ。


「そうなんですか。私はミステリー、嫌いです」


「は?」


思わず出てしまった「は?」の一文字。

それは親友や知人にしか発しない言葉だが、意表をつかれた時に出る素直な言葉。

今その言葉が不思議な返答によって生み出されたのだ。


「えっと、ここミステリー研だよな?」


「はい、そうですよ」


さも当たり前のように返答をする水島に蒼汰は困惑していた。

雲一つない綺麗な目を見て、嘘を言っていないと分かり、変人と言われる所以を鑑みた気がする。


「今嫌いって…」


「あれ、知りませんか?この部活動は…」


すると扉付近にノック音が響き、扉が揺れる。


「あっ、どうぞ」


水嶋の声と共に扉は開き、強い風と共にスカートを揺らしながら女子生徒が入ってくる。

頭に?マークを浮かべながら蒼汰はその光景を目にしていた。


「そちらに座ってください。では、聞きましょう。相談内容は何ですか」

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