地主物語
JAZZ坊主
ジヌシズ・ライク・ティーン・スピリット
「じぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじーぬしじ、ぬしじーぬーしじぬしじぬしーじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬし。」
「じぬじぬ。」
「じぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬし!」
午後10時を過ぎたころB県S市のとある大豪邸から野太い声とまだ10代であろう男の子の声が聞こえてくる。大豪邸の所有者は地元では知らない人のいない程の大金持ちの権力者一族、地主家だ。
「じぬしじぬしじぬしじぬしじぬしじぬし。」
「じーぬーしーー…。」
独特の抑揚をつけ淡々と話す野太い声に対し、10代の方は泣きそうな声で返している。
野太い声の主は地主家の家長、父地主こと地主源一。服の上からでもわかる筋肉質で胡坐を掻いた鼻に眼光鋭い目をした大男である。もう一方の若い声の主は若地主こと一人息子の地主剣一郎。ずんぐりむっくりね体系で色白に素朴な顔立ちの少年だ。
大豪邸の中でも最も豪華な部屋であろうリビングでその会話はされていた。
「じぬし?」
哀願する若地主。
「じぬし!」
強く否定する父地主。
「じぬしー!」
そこで若地主は泣き出しリビングを飛び出した。若地主は自室に向かい泣きながら走った。ひたすら走った。何せ外周歩いて周ると大人の足でも一時間はかかる程の大豪邸であるからリビングから若地主の部屋までの距離もなかなかのものである。自室に着くころには涙はすでに乾き、嗚咽を漏らすだけになっていた。若地主はベットに俯せに体を投げると枕に顔を埋めた。
「じぬしー…」
若地主は枕に顔を埋め鳴き声を上げていた。リビングから部屋まで走ったことで少し気持ちはスッキリしたのだが、父地主や使用人の誰かが様子を見に来た時にかわいそうな自分をアピールしたくて、ずっと泣き声をあげているのだった。
先程まで地主親子が話していたのは言語は地主語といい、代々地主一族が使ってきた言語である。今や人口五万人程のS市の権力者ではあるがかつては日本を裏から牛耳っていたこともある地主一族が機密などを漏らさぬため発達した言語が地主語である。今でも地主一族同士での会話で用いられている。
先程の会話の内容はというと、これまで地主家の使用人や様々な分野の専門家を雇い自宅学習をしてきた若地主に、16歳になる今年から社会勉強のため地元の公立高校へ行くように父地主が告げたものだった。箱入りで育ってきた若地主は泣いて駄々をこね、今に至るのである。
「じぬしー…」
若地主が枕に顔を埋めて二時間、まだ若地主は嘘泣きをしていた。もう誰も様子を見に来ないと諦めた若地主はベッド際にある窓を開け空を眺めた。星を数えながらこれからの生活のことを考えた。ちゃんと友達はできるのだろうか。学校ってそもそも何をするものなのだろうか。外を一人で歩いたこともないので学校までちゃんと行けるかも心配だ。一通り不安に考えを巡らせた後、今まで接してきた人たちのことを思い出していた。勉強を教えてくれた使用人や専門家の先生達。使用人の子供で自分と同い年のクソ野郎と呼んでいた本名も知らないやつ。そして戦国自衛隊の皆さん。これからは生活が大きく変わるんだと思うと若地主はまた少し寂しくなった。
外から室内に風が吹き込んできた。
「じぬしっ!」
若地主は大きなくしゃみをした。
せめていい夢が見れますようにと思い、若地主は枕の下にちょっとエッチな漫画を入れて目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます