お疲れ様チョコ

 私はベテランOLの天音つばさ。

 アイドルみたいな名前って覚えてもらいやすいけど、名前負けな29歳独身。


 仕事は充実していて、わりとテキパキこなせます。

 まあ、そもそ大学卒業してからずっと同じ会社で仕事してますからね、経験があるから自信を持って働けてます。


 そんな私ですが、恋人いない歴=年齢でして、私、そろそろやばいと焦りだしました。


 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとの精神を、親友でモテ人生を送る由良ちゃんから教えてもらった。

 由良ちゃんには、他にも彼氏の出来るコツをあれこれ伝授してもらった。

 由良ちゃんは幼稚園の頃から、恋人がいないことはないというツワモノで、モテの仕草が身に染みついているそう。


 もはや由良ちゃんのモテテクニックはあざとくも計算でもなく自然体、息をするがごとく、モテオーラを発している。


 由良ちゃんの今時期のモテテクニックは、ズバリ2月14日のバレンタインデーをフル活用することだった!


 義理っぽくない義理チョコを、とくかく配れまくれというミッションが私に課せられた。


「つばさ、いい? この作戦は題して『お疲れ様チョコ大作戦!! つばさに愛をください、お願いしますミッション』だよ!」


 決め顔、決め台詞でばしっとポーズを取る由良ちゃん。


「つばさはかわいいもん。性格だって素直で親切で優しくて、裏表ない性格だもん。ちょっと奥ゆかしくて人見知りなだけ。安心して。絶っ対ぃに彼氏は出来るんだからね、絶対だよ!」


 てへっ、恥ずかしいな。

 そんなに褒められては舞い上がってしまいます。


「じゃあ、手始めに……。由良ちゃん、お疲れ様です。私などのために一生懸命になってくれてありがとう」

「……」

「由良ちゃん?」

「……もう、俺で良くね?」

「ふぇっ?」


 あ、あの〜、たくさんお疲れ様チョコ用意したんだけど。

 由良ちゃんで決まりだと、バレンタインチョコが無駄になってしまいませんかね。ははは。


「付き合い長すぎて、つばさと俺はもはや家族や兄妹みたいかも知んないけど。今更だけど、誰かにやりたくないって、めっちゃ思った」

「こんなにチョコ買わんでも良かったじゃないですか」

「あーもう! チョコは二人で食べればいいじゃん。日持ちすんだし。つばさ、俺と付き合う? 付き合わない?」

「……じゃ、じゃあ付き合います」

「じゃあって……。まあいいや。幼馴染みを越えた『好き』にさせてやるから」


 お疲れ様です。

 由良ちゃんのおかげ? です。

 え、ええーと、天音つばさ29歳独身OL、生まれて初めての彼氏ができました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る