職業
中には、沢山のお店が建ち並んでいる。フルーツや野菜はもちろん、服やアクセサリーも置いてあった。
全てがお店というより、屋台に近い作りの建物になっており、道を歩いているだけでどこの店に何が売られているかすぐに分かる。
長屋のように連なっており、店番している人。呼び込みを頑張っている人から、今にも眠りそうな人までいた。
そのような村を、目を輝かせながら星壱郎は歩いている。
「周りに気をつけろよ」
「あ、すいません。気をつけます」
「気持ちはわからなくのないけどな。ここは賑わっているから、テンション上がるわ」
そう口にしているフォンセは、確かに少しテンションが高い。先程より口元に笑みが浮かんでおり、楽しげだ。
カマルは星壱郎と同じく、目を輝かせながら歩いている。そのため、ルーナが裾を掴みなんとか離れないようにしていた。
「お、あそこに星壱郎の服置いてんじゃね?!」
「これから買うから、今の段階だとまだ星壱郎の服では無いけどな」
「そこ、訂正する必要ありますか?」
そう会話を交わしながら、一つの店へと向かう。三人で話し合いながら星壱郎の服を決め始めた。
本人は、この世界で目ただない服装ならなんでも良いというらしく、服選びは全て三人に任せていた。
外から三人を星壱郎は、眉を下げ笑みを浮かべながら見ている。まるで、子供を見守っている親みたいな、優しい瞳だ。
星壱郎の様子を気にせず、フォンセ達はそれぞれ選んだ服を見せあって相談している。
数十分話し合った結果、ルーナがフォンセとカマルの選んだ服を組み合わせた。だが、しっかりと自分の来て欲しいと思っている服も取り入れ、星壱郎へと駆け寄る。
「これを着てみて!!」
「う、うん。分かった、ありがとう」
星壱郎は差し出された服を受け取り、試着室へ。
着慣れない服なため手間取っていたが、何とか着ることができ、試着室のカーテンを開ける。
「ど、どうかな……? 着方合ってるか、分からないけど……」
今の星壱郎の格好は、僧侶と司教がミックスしているようなものだった。
肩が出る上着は膝まで長く、右肩から斜めがけにしている白い布は
7分丈のスキニーのようなズボンを履いている。
「おぉ、結構いい感じに仕上がったな」
「かっこよくなったぞ星壱郎!! さすがルーナのコーディネートだ!」
「星壱郎さんは元々かっこいいもん。どんな服でも似合っていたと思うよ」
たくさんの褒め言葉を投げかけられ、慣れていない星壱郎は薄く頬を染め頬を掻く。
「あ、ありがとうございます」
「んじゃ、そのまま買うか。金払ってくるから待ってろ」
フォンセはそのままお会計へと行ってしまう。
星壱郎は自身が着ていたスウェットと借りていたコートを手に持ち、カマルが選んだ足首まで隠れているスニーカーを履く。
「星壱郎さん、少ししゃがんで頂いてもいいですか?」
「え、うん」
いきなりルーナに言われ、星壱郎は素直に片膝をつく。すると、彼女は彼の後ろに回り髪に触れる。
優しい手つきで黒く長い髪を丁寧に束ねていく。
「出来ましたよ!」
顔を明るくし、ルーナはフリルのついているスカートのポケットから手鏡を取り出す。そして、星壱郎の顔に突きつけた。
「き、器用だな」
「ありがとうございます。どう、ですか?」
少し不安げにルーナは彼へと問いかけた。すると、星壱郎は目を細め、優しくルーナの頭を撫でた。
「ありがとうルーナ。すごく気に入ったよ」
「っ!! う、うん!!」
二人で笑い合いたい、それをカマルは嬉しそうにニコニコしながら見ている。すると、お会計を終わらせたフォンセが戻ってきた。
「ん? 星壱郎の髪、後ろで一つに結んだんだな。一部三つ編みされているし、横顔は結ばず垂らしてんだなぁ。ルーナの好きな髪型だな」
「う、うるさいよお兄ちゃん!!」
ルーナは戻ってきたフォンセの背中をポコポコと叩き、彼は「悪い悪い」と言いながら謝罪の言葉を口にする。だが、その言葉には気持ちが籠っていない。適当に流していた。
「あ、あの。フォンセさん、服をありがとうございます……」
「あぁ、問題ない。これから、また金を稼ぎに行くからな」
そのまま四人は笑い合いながら歩き始める。先程まで笑いあっていた星壱郎だったが、自身の着ている服を撫で不安げに眉を下げた。
「にしても、こんなに高そうなもの……」
「本当に気にするな!! 俺達が金を使う時は、大抵武器の調達か飯だからな!! こんな時ぐらい、大いに使ってもいいだろう!」
満面な笑みを浮かべ、カマルは星壱郎の肩に手を組みそう宣言した。
その事に困惑の顔を浮かべ、フォンセの方に顔を向ける星壱郎だった。
彼の反応はそこまで気にしている様子はなく、肩を竦めやれやれと言った感じのジェスチャーをしている。
「今回だけだ。出会いの記念とでも思っておけ」
「うん。あの、本当にすごく似合ってますよ。星壱郎さん!!」
頬を染め、必死に伝えようとしているルーナが愛らしく、つい星壱郎の頬も赤く染まる。その顔を隠すように彼は、咄嗟に顔を背けてしまった。
フォンセはそんな二人を意味ありがな瞳で見ており、ニヤニヤと口角を上げている。
「さて、ギルドに行って次の依頼を貰うとしようか。もうそろそろダンジョン攻略とかもあっていいな」
「そうだな兄さん!!!」
「う、うん! 今までA級だったけど、私達Sランクまで上がったわけだし、S級と戦ってみたいかも!!」
カマルとルーナが楽しげにそう盛り上がり、フォンセがそれを諌める。
取り残された星壱郎は、今後自分がどうすればいいのか考えている。何も無い空間をじっと見ていた。
「何しているんだ星壱郎」
「え、いや……。これから俺はどうすればいいのかなと……」
彼がそう口にすると三人はいきなり顔を見合せ、当たり前のように口を開いた。
「今後何をするって、俺達と依頼をこなしたり、ダンジョン攻略だろ?」
「え?」
「そうだ。お前には聞きたいことが沢山あるし、何より異国人には興味がある。もし良かったら、俺達と今後も共に行動して欲しいと考えているんだが、ダメか?」
「い、一緒に、旅をしませんか?」
カマルに続きフォンセ、ルーナと星壱郎を仲間にしたいと伝える。
戸惑っている星壱郎にフォンセは近づき、右手を差し出した。
彼はすぐに頭が追いつかなかったようで、差し出されている手を掴むことが出来ない。
フォンセの顔と差し出された手を交互に見ており、間抜けな声まで出していた。
「あ、あの。でも、俺、何の役にもたちませんよ?」
「それは、まだお前がここに来て日が浅いからだろう。慣れていけばいい。人間、最初は全て『約立たず』から始まんだよ。そこから慣れていき、分かり、成長する。最初からなんでも出来るやつなんてそうそういねぇ。だから、安心しろ」
優しく笑みを浮かべ星壱郎を説得するフォンセに、彼は少し考えた末、差し出された手を握った。
「あ、ありがとうございます。これからも、よろしくお願いいたします」
「あぁ」
仲間が増えたことに、ルーナとカマルは大いに喜びその場で飛び跳ねている。そんな二人を再度落ち着かせ、ギルドに向かい始めた。
「俺達の仲間になってくれるのなら、早速ギルドに行き登録してもらわないとならんな。初めてのギルド入団のはずだから、ランクはFからのスタートだろうが、まぁいいだろう。それより問題なのは、お前を登録する際の
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