初めてのダンジョン

星屑の村

 日が昇り、朝日が木々の隙間を降り注ぐ。

 鳥のさえずりが耳に入り、涼しい風が星壱郎の長い髪を揺らしていた。


「んじゃ、今日は星屑の村に行くか」

「また、ギルドに仕事を貰いに行くの?」

「その予定だ。ついでに食料調達やこいつの服なども買わないといけないな。さすがにその格好は変に目立つ」


 朝ごはんを食べながらフォンセとルーナは話している。

 朝ごはんは、それぞれが持っていたパンを頬張っており、星壱郎はみんなから少しずつ貰い食べていた。


「確かに、その格好はここでは見た事がないからな」

「目立つの……嫌だ」

「安心しろルーナ。とりあえず、新しい服を買うまでは、俺の服で我慢してくれるか?」


 そう言うと、フォンセは自身の長い上着を脱ぎ、星壱郎に渡した。それを、戸惑いがちに受け取り、スウェットを隠すように腕を通し前を閉じる。

 背丈は似たりよったりなので、サイズは問題ない。だが、なぜかフォンセのようにかっこよく着こなすことが出来ず、どちらかと言うとやぼっとたいように見える。


「…………なんか、俺が惨めになる……」

「? よくわからんが、とりあえずそれなら少しはカモフラもできるだろう。ここから少し歩くから、今は飯をしっかり食えよ」


 そう言いながら星壱郎を抜いた三人は、自身のパンを頬張り無言で食べている。


 カマルが以前に言ったことが本当なのなら、ここから星屑の村までは、歩いて数時間。

 ずっと家の中で小説を書き続けていた星壱郎には、今までにないほどの長旅になる。

 それを頭の中で想像したのか、顔を真っ青にし、星壱郎は何も口にしせず、ただただ唖然とするしか無かった。


 ※※


「遅れているぞ星壱郎」

「すごい汗だぞ。大丈夫か?」

「お、お兄ちゃん。星壱郎さん、キツそうだし、少しどこかで休まない?」


 腹ごしらえが終わった四人は、自分の荷物を持ち森を出た。もちろん、自分の荷物などない星壱郎は手ぶらで、何も持たずに出発した。そのはずだが、一番最初にダウンしてしまい、大量の汗を額から流し、肩で大きく息をしていた。


 今四人が歩いているのは、気晴らしの良い草原だ。

 周りには何も遮るものはなく、所々に大きな樹木が一本、または二本立っている程度。

 先を見ても地平線しか見えず、本当に何も無い緑の道を、ただひたすらに歩いていた。


「体力ないな!!」

「うっ……。自覚アリです……」

「だが、ここで休むのはやめておいた方がいいぞ。いつモンスターが現れるかわからん。まぁ、万が一出てきたとしても、倒してやるけどな。S級じゃ無ければ」


 最後の言葉に、星壱郎は少し肩を震わせた。その反応を楽しんでいるのか、フォンセはケラケラと笑い「冗談だ」と言って、歩み進めようとする。


「だが、冗談抜きにここで休むのは得策ではない。あと一時間くらいすれば目的の村が見えてくるはずだ。もう少しだけ、頑張れないか?」

「が、んばります……」


 眉を下げそう言われた星壱郎は、大量の汗を流しながら頷くしか無かった。


 ※※


 途中、D級のモンスターが複数現れたが、どれも一瞬で倒した。そのため、ルーナの出番もなく無事に目的地である星屑の村へとたどり着くことが出来た。


「…………大丈夫か、星壱郎」

「はぁ………ぜぇ………は、ハィ………はぁ……」


 問いかけられた星壱郎は村の手前、人の出入りが邪魔にならないところでへたりこむ。


 人口はすごく多いという訳では無いようだが、活気溢れる楽しそうな村だった。

 出入口には村を守る門番が立っており、鎧を身にまとっている。片手には自身の体より少しだけ長い槍を持っていた。

 顔の鎧は足元に置いているため、堅物そうな表情が丸わかりで少し怖い。


 そんな門番に、フォンセは自身が持っている冒険者ギルドに属しているという証の名刺を見せた。他の二人も見せ、星壱郎に関してはフォンセが言いくるめてくれた。


「星壱郎、片目をこれで隠せ。門番の角度からではお前の顔は見えなかったらしいが、今から村に入るとすれば、隠さなければ後々めんどくさい事になる」

「え、あ……。そういえば、今の俺の目って左右非対称なんだっけ……。見たことがないからわかんないや……」


 そう言いながらも、フォンセから細長い白い布を受け取り、右側の目を隠すように巻いた。だが、頭の後ろで結ぼうとしているが、髪の毛まで巻き込んでしまっており、上手く結べていない。布も緩いため、直ぐに解けてしまいそうだ。

 その様子を見て、ルーナが慌てて近づき優しく布を星壱郎の手から取り、結んであげた。


「あ、ありがとう」

「い、いえ」


 照れたようにそう返事をするルーナに、星壱郎は笑顔を向けお礼を口にした。その後、耐えきれなくなった彼女は、顔を赤くしフォンセの後ろへと隠れてしまう。


「さてさて。準備もできたし中に入って、まずは星壱郎の服を探すぞ」

「おー!!!」


 フォンセの言葉と、それに元気よく返事をしたカマルの声が賑やかな人の声に紛れ、そのまま流れるように村の中へと入っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る