第228話 最初の使徒

 食堂内を片付けて、まだ吞んでいる団長たちを残してさっさと風呂に向かう。

 風呂から上がり家に戻る。ビラ爺は家に戻り水薬を飲んですぐに寝てしまったようだ、トーラとシーマもおれのベッド脇で丸くなっていた。

 ドルナルドさんは今回もジーンさんの家に泊まることになっている。冒険者たちは野営天幕の中で夜を明かす。シチリーを使っていたので凍えることもなくゆっくりと眠れるだろう。


 部屋に戻りベッドの草床の上に鬼兎オーガラビットの毛皮を敷き、麦わらを束ねて布を巻いた枕を置きゴロンと横になり毛布をかぶる。すると髪の毛が目にかかり少々うざったく感じてしまう、こちらに来てから一度も散髪をしていないのでそろそろ切っておきたいな。

 そんなことを考えていたらいつの間にか眠ってしまっていた。


 --------------

 ・・・久しぶりに呼ばれたようだ。

 目の前に光の粒が集まり人型になり幼女姿の清浄たわしの女神が現れる。


『ひさしぶりなんだよ。今日は話があったから呼んだんだよ。』


 少々つっけんどん… というか怒ってる?

 腕を組んで口を尖らせている女神がそこに居た。おれ何かしたっけ?


『今日はお話があるんだよ。

 大変なことが起こった(怒った)んだよ。』


 何だか非常にまずい事でも?

 もしかして聖公国あいつらが関係した話なのか?


『実はね… 女神像のおかげでとんでもないことになったんだよ!』


 女神像? 偽物が創られて売られているとか?


『偽物の方が良かったくらいだよ。

 あの…女神像のおかげで… おかげで…


 私の姿が固定されちゃったんだよ!

 スタイルが抜群の…

 もっと胸が大きくてバインバインの姿になるつもりだったのにぃ!!』


 ・・・なんじゃそりゃ、どこが大変な事なのだろうか?

 確かにバインバインの女神も見てみたい気がするが、今の姿でもそれなりに需要は… イテェ!!!

 身体の芯に響く痛みが走った。


のおかげで、神力は大幅に回復したからいいけど…

 あまり失礼な事考えていたら、次はもっと大きな神罰を与えちゃうんだからね。』


 そんな理不尽な… 判りましたよ… でも、それだけで呼び出したわけじゃないですよね。


『もちろんだよ。ここからが本題なんだよ。

 呼んでくるからちょっと待っててね。』


 清浄たわしの女神の姿がかき消えて、しばらくするとまた目の前に光の粒が集まり出して人型になっていく。

 ん? 多くない?


 輪郭がはっきりと明確になっていくにつれ、どうやら現れたのが創造神様と清浄の女神様、見た事のない神様が2柱。

 ふくよかな顔をして白いコック服を着ている神様と、モノクルを掛けていかにも学者って感じがにじみ出ている神様。


『久しぶりじゃの。

 どうしてもこの2柱、礼を言いたいというので連れて来たんじゃ。

 料理の神と知識の神じゃ。

 今見えている2柱の姿は、おぬしの中のイメージじゃがな。』


 料理の神と知識の神? おれ何かしたかな?


『私は料理の神。

 君が使徒サーブロ遺産レシピと新しい食材を探し出してくれたおかげで、日々神力が回復してきているんだ。

 この調子なら、ことが出来そうだ。

 本当に感謝する。』


『私は知識の神。

 私の神力も、君が九九くく算盤そろばんを広めてくれたおかげでだいぶ回復してきているんだ。

 それにこちらの世界の人々が考えつかなかった道具の数々、それによってさらに神力回復速度が上がるだろう。

 本当に楽しみだ、感謝するよ。』


 そう礼を言う2柱の神の姿… おれのイメージを読み取って、その姿なのか。それなら清浄たわしの女神様も、おれが想像すればバインバインになるのか?


清浄たわしの女神の姿は変わらんぞ。そもそも最初の神託の段階でおぬしが抱いたイメージが強かった上に、偶像によって固定されてしまっておるからの。

 姿を変えるのであれば、おぬしが天命を全うした後になるがの。』


 最低限、おれが生きている間はその姿なのか… 何だかごめんなさい。清浄たわしの女神様。


『しょうがないから許してあげるんだよ。

 神力も余っているから、”たわし”を強化してあげるんだよ。』


『そろそろ良いかの?』


『『はい、創造神様』』


 2柱はおれに向かってにっこりと微笑むと光の粒になって消えていった。


『では、ここからが本題じゃ。

 が現れる事についてじゃ。』


 マリーダさんのお腹の中の子供はで確定なのか…


『そうじゃ。あの子らはとして生を受ける。

 送り出すときに使と言っておきながら今更なんじゃが、願いを聞いてもらえるかの?』


 これって拒否権が無いパターンだよね。でも、おれが矢面に立って守り戦うというのは無理だと思うんだけど…


『やがて起こる騒乱から、を守護してほしいのじゃ。

 もちろんお主が直接的な武力ちからを持っていないのは知っておる。じゃから守護とは言っても、武力ちからではなく知恵を使ってと言う事じゃ。』


 知恵? どういうこと?

 せいぜい衛生環境や生活環境を整えるくらいしか… まさか、疫病とか瘴気汚染とかが起こるのか? それならそれで多少はやれることはあるけど… それを引き起こすのは聖公国やつら


『そうじゃ。を狙ってくるのは聖公国…

 というより最初の使徒じゃな。


 最初の使徒はおる。そして間違いなくを狙ってくる。

 誕生してくるを、自らの目的のために利用しようと手段を択ばずに手を出して来るじゃろ。』


 でも、開拓団ラドサでも辺境領でも緘口令が敷かれているし、そう簡単に漏れるとは思えないんだけどなぁ。


『ここに至っては、すべてを知らせておくとしよう。

 最初の使徒には、わし自らが加護を与えたんじゃ。それもかなり強力な加護をな。

 最初の使徒はまだ生きておると言ったが…

 として保存し、精神だけで憑依を続けておるんじゃ。そして代々の教皇の身体を使い、元々の精神を破壊し肉体を乗っ取っておる。


 しかしその状態では使徒の力を十全に発揮することができずにいるのじゃ。

 無理に力を使うと使用している肉体が急激に劣化して崩壊してしまう、そして何よりもその精神憑依もそろそろ限界が近づいてきているのじゃ。


 放置しておけば、あと数十年で精神体も崩壊するじゃろう。もう何百年も前から崩壊を先延ばしにする為に、他人の魂を取り込んでエネルギーに変え保っているのじゃ。

 使の魂や『いにしえの血脈に連なる者』の魂を狙い国ごと滅んだこともある。

 を使えば、精神体を永久的に維持することが可能になるんじゃ。


 加護を贈った神との間に繋がりが出来るという話をしたことを覚えておるかの?

 そのおかげで、最初の使徒には… わしを通じてすでに断片的な情報が伝わってしまっておる。

 少しでもその情報量を減らすために、清浄の女神の神域に来たんじゃ。


 最初の使徒がとした姿は… 今の姿なんじゃ。』



--------------

新年 あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。


新年の挨拶が遅れたけど、ぎりぎり松の内だから… 許して。

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