第155話 たらい×Ω=洗濯機?

 子供達の服が炭で汚れまくってるけど… 最終的に子供達の汚れた服を洗うのはおれだし、まぁいいかな。

 なんだかんだで仕分けも終わり、折れていない炭を入れた箱は番小屋の中に置く。崩れた炭は使わなくなったミードの空き樽にまとめて同じく番小屋に置く。


 マリサちゃんがおもむろに左手の手袋を外して、右手の手袋を叩きだす。


「なんかモワモワしてるけど、叩いても痛くないの。」


 その様子を見ていて… 久しぶりに…


 ティン!! と来ましたぁ~~~!!!!


 グローブが作れるぞ! これでハンザ君とキャッチボールも出来るぞ!!!


 そもそもと、セルフ突っ込みをしておく。

 子供達のしている皮手袋と廃棄する予定の皮手袋は一度全部回収。あとはこれを何とか縫い直して貼り合わせたりすれば… 駄目じゃん、よく考えたら裁縫のスキルなんて持っていないじゃん。


「ソーヤさん。どうしたんですか?」 


 う~ん…う~ん…と考えているおれに、サクラさんが声をかけてきた。


「この前、散歩の時にトーラたちの獲物の回収訓練をしたことがあったよね。

 その時にハンザ君から『上手に投げる方法ってない?』って聞かれてて、さっき皮手袋に詰め物をして2重にしてたのを見て思いついたことがあるんだけど… でもよく考えてみたら、裁縫なんて僕ができない事に気がついちゃって…」


 そう言うと、サクラさんが!と胸を張って答えた。


「裁縫なら任せてください。トーラちゃんたちの あの皮袋遊び道具を作ったのはですよ。どうするのか教えてくれれば出来ると思います。」


「お願いします! あとで紙に書いて説明します。」




--------------

 翌朝はすっかり寝坊してしまった。わずか二日間だが、慣れない荷馬車での移動で思った以上に疲労が溜まっていたようだ。


「皆さんおはようございます。すみません、すっかり寝坊してしまいました。」


「おはようございます、ベンリルさん。慣れない荷馬車ですからね、仕方がないですよ。」


 ウーマの世話をしながら、ドルナルドさんが返事をしてくる。


「クワルからなら、半日ぐらいで開拓団ラドサにつきますから、慌てなくても大丈夫ですよ。」


 チップデル村長にお礼と挨拶をして開拓団ラドサに出発した。すぐに北の森からの街道との合流部を通過する。


「思った以上に道が綺麗ですね。もっと道が荒れているかと思ってましたよ。」


「親父たちと一緒に入植したときは、まだまだ荒れた道だったんですけどね。定期的に騎士団で整備して、延伸してますからね。僕が騎士団見習いになった頃はまだまだひどい状態でしたけど。」


 辺境伯の方針で、街道整備には力を入れていると聞く。確か開拓団ラドサの入植がはじまって5年、そろそろ村に格上げされてもおかしくない時期ではあるな。


 右手にはバソナ川、正面には北西山脈ボーダーマウンテンの険しい山肌が見える。周囲には大きな木も無く非常に見通しも良い。再生の日リボーンを過ぎると北西山脈ボーダーマウンテンからの冷たい吹き下ろしの風が強まり、一気に気温が下がるそうだ。


 バソナ川と支流の合流点に少し広めの草地があり、そこで少々休憩する。ここを過ぎればそんなに時間もかからずに開拓団ラドサが見えて来るという。ゆくゆくはこの場所に野営地を設けるという話をギダイ氏がしていた。


 支流に架かる橋を渡り一時間ほど進み緩やかな上り坂に差し掛かると、ゼシト氏が荷馬車を降りて、先に開拓団ラドサに連絡に行くと言い走っていった。

 右手に橋が見えてくる、開拓団ラドサから境界森林ボーダーフォレストに向かうにはこの橋を使っているそうだ。



--------------

 子供達の顔も真っ黒、服に至っては… 


「みんなありがとう。おかげで早く終わったよ。

 でも、結構汚れちゃったね、井戸に行って洗おうか。」


 ぞろぞろと井戸に向かう。たらいに汲み上げた水を張り、たわしを召喚してみんなの手や顔の汚れを落としていく。最後に自分も頭から水をかぶり、煤まみれになった全身の汚れを落とす。

 あとは洗濯だけど、2匹のご飯も作っておきたい… どんどんやることが先延ばしになりそうな気がする… そうだ!


「みんな、着替えたら汚れた服をビラ爺の家まで持ってきて。待っているから。」


 たらいをもって家に戻り土間に置く。汚れた服を着替えてたらいの中に入れ、部屋から保存箱を持ってくる。


 部屋から出てくると、着替えて汚れてしまった服をもって子供たちが次々にやってくる。


「着替えて来たー! 服はたらいに入れればいいの?」


おれが頷くと、次々に子供達がたらいの中に着替えた服を入れる。


[スライムくん、洗濯お願いできるかな?]


[シトサマ…センタク…マカセテ…]


「みんな、これからスライムくんに洗濯をしてもらいます。」


 そう言って、保存箱の蓋を開け傾けるとスライムが ”ぬりゅるん” とたらいに中に入る。


「はじめてみたー!」「ぷよぷよしているよ。」「服が溶けちゃわない?」


 スライムがじわじわと服の隙間に入り込んでいく。ゆっくりと服が動き出したらいの中をグルグルと回り始める。


 やっぱり、この動きって洗濯機だよな…


「夜までには綺麗になっていると思うよ。僕は炭焼き小屋に戻るけど、みんなはどうする?」


「何するの?」


「トーラたちの新しいご飯を作ってみるんだ。」


「「「「「「「「「 手伝うー! 」」」」」」」」」


「じゃあ行こうか。」


 家を出た瞬間、目の前を… えっ? ゼシト?


「ゼシトー! どうしたの?」


 立ち止まってゼシトが振り返る。


「ソーヤ! ローク・ドージョー食品商会の荷馬車の護衛してきた。親父は?」


「「「「「「「「「 あー! ゼシト兄だー! 」」」」」」」」」


「団長なら、あっちでダルベさんの家作ってるよ。」


 トーラとシーマを見たゼシトが一瞬驚くものの。


「わかった、報告してくる。」


 子供達もトーラとシーマもゼシトと一緒にぞろぞろと行ってしまった。

 さ…淋しくなんかないんだから。さてやるか。


 番小屋に行き、石灰水に漬けてあった皮を剥いたテポートを取り出して井戸水で洗う。

 一度石灰水を捨てて新たに作り直す、桶一杯の水に対して、生石灰をバンブで作ったスプーンに2杯。しっかり混ぜてテポートを漬け込む。

 石灰の量と時間をメモして蓋代わりの木の板の上置き、風で飛ばないように石で重しをしておく。


 ジーンさんから分けてもらった、すじ肉・くず肉を細かく刻み摩り下ろしたテポートと一緒に木鉢に入れかき混ぜる、量は1対1。少し水分が多かったかな? このままじゃ血を混ぜても固まりそうにないな。テポートのでんぷんだけにすればよかったかも。


 ジーンさんに聞いてみよう。木鉢を鍋の中に隠し、蓋をして石を乗せて置く。これでトーラが嗅ぎつけて来ても大丈夫だろう。



--------------

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は 7/21になります。よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る