時差男君は過去を見た

@shun030

第1話 土曜の3時29分

いい青空だ。こんなに快晴なのは久しぶりじゃないか?コンビニでおにぎりとサイダーを買ってベンチで食べようかななんて考えている


まぁ。そんなの今できそうにない。


「おい!!!近づいたらぶっ殺すぞっっっ!!!」


人質に取られてるんでね


鋭利なナイフを突きつけられて


こういう時、犯人はどんな気持ちなのだろうか。

本当に刺そうと思っているのか?

それとも興奮してアドレナリンが分泌してるから、刺したら務所行きってことなんか忘れているんだろうか?だから躊躇なく刺すのか?そもそもこういう時って正義の救世主ってのが現れて助けられるから分かんないな。


実際


正義の救世主なんて漫画やドラマの中だけだろう。本当に珍しい例として現実でも救世主がやってくるかもしれないが...


そんなわけで皆さんと一緒に過去を見ましょう


なぜこの人が、こんなことをしているのか...


俺は理由もなく完全に悪者にだなんてしない



「かあさん!俺!やったよ!ついにあいつの居場所見つけ出したんだ!」


「そうかい。そうかい。ありがとうね。必死に探してくれて。でもねお母さん。もう苦しいの...」


「え?」


ん?これは一体何があったんだろうか。

まぁ続きを見よう


「私が数年前、人質に取られて。体が自由に動かせなくなってからあいきはずっと犯人を探してくれたけど、それが悔しいの!なんか相手の思う壺に感じる...私はまだしも。あなたの時間も奪ってる様な気がして...」


泣きながらそう訴えている姿があった

人質?という気になるワードがあったがこういうのが原因で俺のことを


「かあさん...」


現在に戻る


「聞け!!!そして携帯を向けて好きに拡散しろ!!!それからテレビ局も呼べ!!!」


確かに。母親の自由を奪われ、怒り狂う気持ちもわからんでもない、が。やり方に問題がある


ここは俺がなんとかするしかない


「あの」


喋った瞬間睨みつけられる。

だいぶ興奮している様子だ。しかし次の言葉を吐いた瞬間それは変わった


「あいきさんって、いうんでしょうかね?」


「?!なんで名前知ってる?」


「いやあの気にしなくていいんですよ。とにかく、相当辛いことがあったのでしょう」


「俺の何がわかるってんだ!本当にぶっ殺すぞ?!」


ぶっ殺されたくはない。でもここで動かないわけにもいかない

たとえ相手が刃物を持っていようとも。


「あなたのお母さん。半身不随ですよね?」


「え...?」


そう言った途端

男は驚いたというか、不思議というか言い表せれない表情をしていた


そりゃそうだ。

全くの他人が家庭の事情を知っているのだから。


「数年前。あなたの母親は人質に取られた。その時に半身不随になってしまったんでしょう。でも犯人に逃げられた。犯人に時間も母親の自由も奪われ、必死になって犯人の行方を探した。」


「そしてあなたは犯人を見つけることができた。でも、あなたの母親はそれを完全には嬉しいと受け止められなかった。だってそいつはこの数年間これまで普通にのうのうと生きていたのだから。」


男は歯を噛み締めながら拳を握り震えていた


「辛いですね。やるせないですね。あなたは本当に頑張りましたよ。でももっと色んな人に知って欲しかった。こんなことで自由を奪われてる人もいるのだと。」


「だから僕を人質にとり、注目を集めようとした。"そう。あなたの母親がされたことと同じように"」


俺はその言葉を吐いたら殺されるかもしれないと覚悟していた。なぜならこの男の人も同じくどうなってもいいやと覚悟を決めているはずだから。


でも。でももし人の心があれば...


男の息が荒くなる。そして連呼する


「俺はあいつと同じじゃない... 俺はあいつと同じじゃない... 俺はあいつと同じじゃない...!!!」


もうナイフが俺の方を向き始めた。

男があと残された動きは、俺めがけて刺すだけといったところまできていた


でも。


俺は向き合う。ナイフじゃなくて"この人"と


「じゃああなたのお母さんはあなたが嫌いでしたか?愛してませんでしたか?」


あなたは愛されている。あの数秒の過去を見ただけでも優しさに包まれていたではないか


「お母さんはあなたを一番に愛しているんじゃないですか?ダメですよ。こんなことしちゃ。考えてください。どうやってあなたの母親はこの数年間乗り越えたと思います?紛れもなくあなたがいたからでしょ!!!」


「こんなことしたらあなたはあなたではない。あの犯人と同じなんですよ。そしてお母さんの生きる源のあなたがあの犯人と同じだなんてお母さん耐えられると思いますか?とてつもなく辛くて最悪の事が起こってしまうかもしれないんですよ。」


俺のありったけの想いをぶつけた

これがこの人に届くか届かないかなんて正直どうでもいい。


ただ、伝えたいことが伝えられたから


男が口を開く



「あぁ確かにそうだったよ。」


瞳を見ると涙が溢れていた


「俺の名前に愛。なんてつけてくれたし。母が人質にとらわれてからようやく会えるとき、自分の心配なんかせずに、真っ先に俺に言った」



「"あなたに会えて本当によかった"と」

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