○○ちゃんの長靴

まぐろんばすぴす

○○ちゃんの長靴

 朝、ちいちゃんがカーテンを開けると辺り一面真っ白になっていました。


「わー! ゆきだー!」


 ちいちゃんは、お母さんにあいさつし、外に出ようとします。


「つめたい!」 


 スニーカー越しに足につたわるひんやりとした感触は夏の日に食べたかき氷みたいでした。


「食べたらおいしいかなぁ?」


 ちいちゃんは雪をひとつまみ、まじまじと見つめます。


「こらこら、食べたらお腹痛い痛いになるよ?」


「おかあさん!」


「それに、そんな靴じゃ冷たいでしょ? 長靴履こうね」


 そう言いながら、お母さんは一足の長靴を差し出します。しかし、その長靴をちいちゃんは見たことがありませんでした。


「おかあさん、わたしのながぐつはこれじゃないよ?? わたしのはウサギさんがかいてあるんだよ?」


「そうね、でも今日はせっかくだからこれを履いてみましょ」


 お母さんが勧めた長靴はビニールやゴムではなく、藁で出来ていました。ちいちゃんはさっそく履いてみます。


「わー! あったかい!」


 藁靴を止めるための小さな赤いリボンが白一色の世界ではっきりと踊っていました。


「おかあさん! これすごい、ぜんぜん足がつめたくならないよ!」


 そうやってはしゃぐちいちゃんの様子を、お母さんは満足そうに眺めていました。ちいちゃんはその様子を知ってか知らずか、雪玉を作って重ねて遊んでいます。


「あら、雪だるまじゃない。上手に出来たわね」


 お母さんがそう言うと


「まだかんせいじゃないよ! もう一こ作るの」


 と言い、せっせと雪玉を作り始めます。今度のは先程のより少しばかり大きいようです。そして数分後。


「できたー!!」


 ちいちゃんの目の前には大きめの雪だるまと小さめの雪だるまが並んでいました。


「凄いわねえ、可愛らしい雪だるまが2つも」

「んっとね、こっちの小さいのがわたしで、大きいのがおかあさんなの!」


 ちいちゃんは大きく目を開いてお母さんに伝えます。それを見たお母さんもちいちゃんの頭を優しく撫でてあげます。


「へへへー」

 

 ちいちゃんは満足そうな顔を浮かべ、次の遊びを探しに駆け出しました。お母さんはその様子に目を細め、しゃがんで何かをはじめます。


 ところがしばらくして


「いた!」


 突然、ちいちゃんの声が庭に響き渡ります。お母さんが心配して目を向けると、ちいちゃんが横になっていました。どうやらコケてしまったようです。


「あらあら、大丈夫??」

「うぅー……だいじょうぶ」


 ちいちゃんは目に涙をためていますが我慢しているようです。そこで、お母さんはある魔法を唱えます。


「いたいのいたいのとんでけー!」


 頭を撫でられながらそう言われたちいちゃん。照れてるのかはにかみながらも、その顔はコケたことなど無かったように朗らかでした。しかし再び悲しそうな顔になり


「あのね、ながぐつのリボン切れちゃったの」


 と、お母さんに伝えました。


「もうはけないのかなあ」


 寂しそうに言うちいちゃんを見たお母さんは、何かを思いついたかのように「少し待っててね」と伝え、家の中に入ります。


 やがて、再び外に出たお母さんは水色のリボンを片手に持っていました。


「ちいちゃん、水色好きだったよね。つけてあげる」


 そう伝え、藁靴に新しいリボンを付けてあげました。


「わー! 水色だ! かわいいなあ」


 ちいちゃんは大はしゃぎです。


「その靴はね、お母さんが昔子供だったときにおばあちゃんに作ってもらったのよ」


 突然、お母さんは空を見ながら話し始めました。


「おばあちゃん??」

「そう、おばあちゃん。お母さんのお母さんね。その頃から赤いリボン付けてたから傷んでたのかな。それで急に切れちゃったんだね」


 お母さんは少し寂しそうな表情をしつつ、話を続けます。


「お母さんがまだ子供だったときにもたくさん雪が降ってね。それでこの靴を貰ったの。取っておいてよかったわ」


「お母さんが子供のころにかぁ……なんだかうれしいなあ」


 ちいちゃんはニコニコしながら藁靴を見つめます。


「その長靴、藁靴と言っておばあちゃんの生まれたところで作られてたらしいわよ。長持ちよねえ」


「わたしもこのくつ、ずっと大切にする! いつか大人になって子供が出来たらはかせてあげるの!」


「そう、ありがとう」


 ちいちゃんのセリフにお母さんは驚きつつも凄く嬉しそうな顔をしました。そして、また空を見上げます。ちいちゃんも空を見上げます。


「おばあちゃん、ありがとう。このくつ、大好きだよ! ずっとずっと大切にするね!」


 並んだ二人のすぐ側では、いつの間にか3つに増えた雪だるまが仲良く寄り添っていました。


おわり

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