第2話「二人の願った日々 その2」



 何だかんだあって宴会も盛り上がり、時刻は午後9時。明後日の学校もあって長居するわけにもいかず、ここでお開きとなった。


「じゃあ、みんな外で待ってて。俺が会計済ませておくから」

「すみません……陽真さん」


 陽真が財布を持って会計へと向かう。彼を呼んだ星と七瀬は頭を下げる。

 三神に大量に日本酒を飲ませられた凛奈はベロンベロンに酔っぱらい、まともに動けない状態となってしまった。三神も酔いに酔って眠ってしまい、頼りにしていた大人の情けない姿に、生徒達は頭を抱えた。


「お待たせ。みんなごめんな、うちの凛奈が……」

「いえ、もそも三神先生のせいなので……」

「こちらこそ色々とすみません」


 そこで、ふらふらして歩けない凛奈を家に帰すために、星はスマフォで彼女の夫である陽真に電話をしたのだ。居酒屋に到着した陽真は、凛奈の代わりに料金を払うとまで言ってくれた。


「陽真くぅ~ん……来たなら一緒に飲もうよぉ……えへへ……///」

「宴会はもう終わりだ。帰るぞ」


 陽真は酔っぱらった凛奈を支え、車へと向かう。当然アルコール飲料を飲んだ凛奈は運転はできないため、陽真が代わりに運転することになった。

 三神も酔っぱらって動けないため、ついでに彼も車に乗せて自宅に送ることにした。陽真が今日非番でよかったと、心から思う星達であった。


「あの、先生の介抱手伝いましょうか?」


 あまりに酔っぱらいすぎた凛奈が心配で、七瀬は陽真に声をかけた。普段はおしとやかで純粋な彼女が、酒が入ってあられもない姿となっている。そこが逆に可愛いくも感じてしまうのは、やはり彼女の魅力だろう。


「大丈夫だよ、家で何とかするから。君達はもう遅いから家に帰りな」


 陽真は爽やかな笑顔を向け、丁重に断る。普段の凛奈もそうだが、陽真も立派な大人としての風格が出来上がっており、七瀬や星は尊敬する。時たま星達を支えてくれて、非常に優しい心の持ち主である。

 それに彼は高身長の黒髪イケメンで、警察官というエリートだ。凛奈という超絶的美人の妻までいる。完全なる勝ち組だ。将来自分達もあぁいう大人になれるのか、とても不安になる。


 そんな完璧超人の陽真にお姫様抱っこされた凛奈は、ふらふらとした意識の中で陽真の頬を撫でる。相当酒に弱いようだ。


「陽真くぅん……ふふっ、私の旦那様ぁ……///」

「あぁもう……」


 チュッ

 呆れた陽真は、凛奈の唇に自分の唇を重ねる。その光景を眺めていた七瀬や星、凛奈も一気に顔が真っ赤に染まる。


「いい加減シャキッとしろ。先生だろ……」

「ふぇっ、す、すみません……///」

「ほら帰るぞ。つ、続きは家でしてやるから……///」

「う、うん……///」


 おとなしく陽真に抱かれながら、凛奈は車へと運び込まれた。発進してから車が見えなくなるまで、星と七瀬は二人のラブラブな雰囲気に呆然と立ち竦んでいた。






「じゃっ、また学校でな~」

「うん。じゃあね」


 和仁や恵美と分かれ、星と七瀬は自分達の家の方向へと歩いていく。夜の空気はだいぶ冷え込み、厚着をしても夜風をもろに感じる。


「寒いね……」

「早くお家に帰りましょうか」


 そう言って早歩きをするも、冷たい外気は足をすぐに止めてしまう。星と七瀬は諦めてゆっくりと歩く。そしえ、夜道で二人きりというこの状況に、気まずさを感じる。


「……陽真さん、カッコよかったね」

「えぇ、一人で全員分奢ってくれたし、いい人すぎるわね」

「凛奈先生も幸せ者だね。あんな素敵な人と夫婦だなんて」

「二人共ラブラブだったし。微笑ましいわ」


 陽真と凛奈の夫婦の話題が上がる。二人のことを考えると、どうしても自分達と結びつけてしまう。果たして自分達は二人のように愛し合っていけるのだろうかと。


 せっかく付き合えたのだから、この愛を決して生滅させてしまいたくはない。しかし、いつまた昇のように、自分達の愛を引き裂こうとする相手が現れるか分からない。再び乗り越えていけるのだろうか。


 スッ

 すると、星が七瀬の手を握り、自分の上着のポケットに入れる。


「七ちゃん、ここなら暖かいでしょ♪」

「星君……」

「僕達も凛奈先生達みたいになれるかどうかなんて分からないけど、でも……これからも七ちゃんを愛する自信だけはある。どんなことがあっても、僕が七ちゃんを守るから」


 星のたくましい表情を見て、昇の魔の手から自分を救ってくれた星の姿を思い出す。


 小学生の頃は小さな絆一つで泣きわめき、この度に女である七瀬に情けなく助けを求めるほどの弱い人間だった。しかし、いつの間にか七瀬の背丈を大きく追い越し、力も以前と比べて桁違いに強くなった。


 そして今、彼が愛しの恋人となってくれた。


「これからもどんどん強くなって、七ちゃんを守り続けるから。七ちゃんには本当に感謝してるんだ。僕を強くしてくれたことをね。本当にありがとう……」

「星君……///」




 七瀬は思った。自分は生涯をかけて、こうなることを願っていたのだと。星と一つになり、これからも彼と共に生きていく人生を望んでいたのだと。きっと彼も自分に対して同じことを願っていたと、心から信じられる。


「前の呼び方に戻ってるわよ。『七瀬』って呼んでくれるんじゃなかったの?」

「あっ、ご、ごめん! どうしても忘れちゃって……」

「まったく……」




 チュッ

 七瀬は背を伸ばし、星の唇に自分の唇を重ねた。


「なっ、なぁ……///」

「これからも愛してるわよ、未来の旦那様♪」

「な、七ちゃぁぁぁぁぁん!!!」


 星は勢いよく七瀬に抱きついた。


「だから呼び方! ていうか、痛い!」

「だって! 七ちゃんが可愛くて可愛くて! うぅぅ……僕と付き合ってくれてありがとう! 七ちゃん大好き!!!」

「ふふっ、私の方こそありがとう。大好きよ、星君……」




 自分達が将来結婚できるのか、いつまでも永遠に相手を愛し続けることができるのか。どれだけ深く考えても、遥か先の未来を決定付ける根拠はどこにも見つからない。

 だが、今目の前にいる愛しの相手を、ひたすら愛するだけ。そのような自分達ができる最大限のことを信じ、生きていくだけだ。


 星は七瀬を、七瀬は星を、心の底から愛し続けることを誓うため、お互い再び熱いキスを交わすのだった。


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