第1-5襲 襲撃するギルド〈デイ・ブレイク〉
太陽が真上に昇る頃、ギルド〈デイ・ブレイク〉一行はギルド〈テレス・アルレギオン〉アジトの目の前に
なんとかハイネの二日酔いとヴェールの寝坊癖と二度寝癖が酷かったものも、一緒に泊まってくれたゼネが全部、対処してくれた。
念のために二日酔いが酷いから酔い止め薬と頭痛薬を事前に用意していたのだという。
(――有能すぎでは……!)
ゼネの帰り際に、非公認ギルド〈テレス・アルレギオン〉について伺った。
〈テレス・アルレギオン〉――この世界で救えない者を異世界に転生できることを信じ込ませて救済しようとしているわけがわからないギルドらしい。
本当ならば、警備隊を派遣させてその場で処分するのが正式な対応らしいのだが、充分な証拠が揃っていなくて断れてしまったという。
――だから、ギルドが依頼として扱った。
ギルド管理条約26条『違法ギルドが解体処分に応じなかった場合、武力を持って処分する』に乗っ取り、ギルド〈デイ・ブレイク〉とキリエに頼んだという。
そして、エンデ・ディケイドと名乗る人物がいたら厳重に警戒、もし殺せるなら殺してしまって構わないとだけ言って、ギルド管理協会へ帰っていった。
なんだかいつもの明るいノリと違う暗い雰囲気だったのが気になるが、それよりもなにが『明日は太陽が出る前に起きじゃぁぁぁあああ! さっさとカチコんで昼寝するぞ!』だ。
空を見上げれば一面の澄みきった青空が広がっていて、気持ちがいいほどの快晴だ。
(もう昼になってしまっているじゃないか!)
キリエは自慢の黒髪をかきあげて青空を見つめる。
「私たち、いつもこんな感じで……、うっ……」
おろろろ……とギルド〈テレス・アルレギオン〉の入口で吐き続けるハイネ。
こんな調子で戦えるかどうか心配になってきた。
「やられたら嫌な嫌がらせです! これで解体してくれるでしょう!」
ガッツポーズをするハイネ――確かにやられたら嫌だけれども。
「そうじゃな……。 建物からは魔術無効化のバリアが塗られているようじゃ……」
一同が建物を目にする。
ギルド〈テレス・アルレギオン〉のアジトは転移前の日本の寺院を感じさせ、どこか気持ちが安らぐような空気がした。
こんな綺麗な建物でこれから戦うというのだから、終わったら見るも無残な姿になるだろう。
せっかく綺麗なのに悲しい。
「見てくださいよ! あの像! ケイ・トラックに似ていますね! 確か、ファンタジー上の動物でしたっけ?」
ハイネが指を指したその先に景色とはまったく合わない石像が配置されている。
「大体はそうじゃな……、わざわざ作って置くなんて変な趣味をしておる」
「タイヤも造形されていますよ! 昔、読んだ『いせかいのとびら』を思い出すな~!」
「絵本なのに禁書になってしまったのが残念じゃったがな……」
キリエも見たことがあった気がした。
この世界に召喚される前のこと――
「不法侵入者だ! 異世界に転生するために全員捉えろ!」
ぞろぞろと敵兵が現れる。
「どうやらノコノコと向こうから来てくれたじゃねェか!」
「充分、吐き終わりましたよ! 破壊魔術使いたい放題です!」
アルムは待ちわびたかのように肩をほぐし、ハイネはヴェールのほうを向いてガッツポーズをする。
2人は迫りくる敵の方へ向くと、
「「
並ならぬ魔力を持つ魔術書を瞬く間に出現させた。
「
「
ハイネは灰色の長い髪を破壊魔術の発動で揺らしながら敵兵の鎧や武器をあっという間に灰にする。
「一瞬で俺の武器、防具が……」
「なんでまっ裸にされているんだよ……」
装備を灰にされた敵兵はすっぽんぽんで何もできなさそうで、安全な場所へ逃げるように走っていった。
その間、アルムは【獅子王の爪】と呼ばれる攻防に優れた鋭利な武器を両腕、両足に武装完了していた。
「女ごときに! やってやるぞォ!」
破壊魔術から逃れた敵兵はハイネの背後を狙って向かってくる。
「やぁぁぁぁぁぁぁあああああ!」
必死な眼差しで向けられた殺意を槍に宿して腹を目掛けて一刺し。
――直後、鉄の音が鳴り響いた。
「――遅いぜ!」
アルムは目にも止まらぬ速さで右腕の【獅子王の爪】で槍を受け流すと、抜群の身体能力で身体をひねり、その場で敵兵に回し蹴りをした。
蹴り飛ばした衝撃でアジトがなだれ込むように半壊すると、やっと入れる場所が出来た。力業だが。
「女二人ごときになに苦戦してんの……! もっと兵力を回せ!」
アジトの外からまたぞろぞろと現れ、アルムとハイネを回り込むように敵兵が勢ぞろいしてく。
「先に行きな! 入口は作ったぜ! 露払いは」
「――私が引き受けます!」
「――俺が引き受ける!」
「なら、我らは最奥へ行くぞ! キリエン!」
「了解!」
キリエとヴェールはこの場をアルムとハイネを任せて、ギルドマスターがいる最奥を目指して作ってくれた入口から走り始めた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
廊下にろうそくの炎がゆらゆらと揺らめく中でキリエとヴェールは最奥を目指してひたすら廊下を走っていた。
道中、敵兵が現れたりしたが切り払うだけで倒すことが出来た。
相変わらずヴェールがついてくるように走ってくるが、息を切らしているようだった。
靴も走るための靴ではない――ハイヒールだ。
コツンコツンと廊下に音が響くおかげで、キリエよりも背丈が小さいヴェールがどこにいるかも分かるし、速度も調整できる。
「スピード落とそうか?」
「そんな心配……、目の前じゃ!」
「――
刀の刃が風になるように消滅すると、風の刃になりて流れるように目の前の敵を切り付ける。
やられる相手は刀に刃がついてないように見えるため、間合いがつかめないらしい。
キリエとヴェールはひたすら走ると、最奥がすぐ目の前に現れる。
この扉を開けば、敵のギルドマスターがいる。
もし、エンデ・ディケイドがいたら――関係ない、切り殺すだけだ。
おばあちゃんの家で見たふすまのような扉をスライドさせると、
「かかったな! ドアホォ! 召喚魔術――」
キリエの足元に魔術紋章が浮かぶ――召喚獣が召喚される一歩手前で、
「前へ行け! キリエン!」
ヴェールは小さい足でキリエを蹴り上げ、魔術紋章の発動範囲から離された。
「――焼き滅ぼせっ! 【
魔術紋章からフォクス・ナインが現れる。
真上にいたヴェールはそのまま流れるように丸吞みされ、アジトを突き破って天へ登っていった。
「噓……」
吹き飛ばされたキリエは態勢を整えても遅かった。
あんなに偉そうにしていたヴェールが、一瞬でやられてしまったのである。
――唖然。
ただこの一言に尽きる。
何も感じない匂いは一体、何だったのか。ただ単に調子に乗っている幼女だったのか。
「俺のフォク助がお前んとこの幼女を飲んじまったようだな」
敵ギルドマスターが憎たらしく微笑むのを見て、キリエは旋風刃を構える。
「お前はエンデ・ディケイドか?」
「ペテン・シストール! 名前だけ覚えて死ねっ!」
ゼネから聞いたエンデではないようだが、討伐対象を倒す目的ならキリエにある。
(対象を捕獲して、復讐相手の居場所を聞くこと! その目的なら何度でも戦ってやる!)
「魔術書!
討伐対象が魔術書を出現させると、亡者を纏いし呪いのオーラがキリエのところに向かってくる。
刀の刃にキリエの流れ出る魔力を込めて、
(――打ち払う!)
なんとか打ち払えたが、もし、まともに受けたら死ぬかもしれない。
呪いのオーラがぶつかった壁は嫌なオーラを発していたからだ。
「このまま絶望して死ねぇぇぇえええ! お前は異世界に転生できないぃぃぃいいいいいいい!」
「エンデ・ディケイドはどこにいる?」
「質問、うるせぇんだけどっ! 今頃、何処かの村を焼いて異世界人でも探しているんじゃねぇのぉぉぉおおおおお?」
この男の先にムシャノ村を焼いた真実が待っている。
(――絶対に生け捕りにしてエンデ・ディケイドの場所を吐かせる!)
「切る!」
「転生者が増えるッ! 増えるッ増えるッ増えるッ! 増えることはぁ……あはぁ……いいことだッ!」
気持ち悪く笑い続ける討伐対象を見て嫌な感じがする。
辺りから漂ってくる魔力からはどぶのようなけがれた匂いがして早く殺してしまいたかった。
しかし、殺してしまったらムシャノ村を燃やしただろうエンデ・ディケイドにたどり着けない。
(キリエはどうやって戦えばいい?)
考えながら睨み合いを続けていると、
――直後、上空から巨体が降り注ぎ、アジトが半壊した。
舞い上がる土埃が煙たく、前が見えない。
「フォク助ッ!」
悲鳴がアジトに響き渡った。――空から落ちてきた巨体そのものこそがヴェールを丸飲みしたフォクス・ナインだったからである。
フォクス・ナインは右足を上げて泡を吹いて気絶していた。
完全に死んだとは言えないが、様子を見る感じ戦闘不能なようだ。
(ヴェールはフォクス・ナインに飲み込まれたまんまなのか……?)
すると、 廊下からコツンコツンと足音が響き渡る。
空から後光が差し込むと、土埃が消えた。
「口の中、くっさ! う〇こにならなくてよかったわ……」
太陽の光でキラキラと輝く虹色髪の幼女――ヴェールがドヤ顔で腕を組んで立っていた。
しかし、服がフォクス・ナインのよだれでべとべとである。折角、かっこよかったのに……なんかもったいない。
「何故、ガキがそこにいる! 俺のフォク助が飲み込んだだろッ!」
「――お前のきつねっころ、芸なさすぎ! 人を踊り食いする芸よりも、歯磨き覚えさせたらどうじゃ……?」
歯を食いしばる討伐対象はとても悔しそうに言う。
ヴェールはポニーテールを止めていたシュシュをおもむろに取り外すと、虹の光のように輝く。
光が弱まると――すらりとしたグラマラスな成人体型に変わっている。
幼女の時よりも髪が伸びて、宝石よりも綺麗な瞳が澄んでいて、身長もキリエを余裕で追い抜かしていた。
「死ねよッ! 呪魔術【骸囁き】!」
ペテンが呪魔術をキリエとヴェールに飛ばしてくる。
フォクス・ナインの恨みでキリエがさっき跳ね返したものよりも何倍もの魔力がオーラに宿っていた。
「呪いは解かれた――魔術書」
ヴェールは魔術書を出現させると、ぼんやりとしたやさしい光のオーラが溢れ出す。
「
匂いはないけれどとてもやさしく包み込んでくれるような、でも、何かを引きずった悲しいオーラで溢れていた。
「【
ヴェールが極光虚無魔術を唱えると、目の前で呪魔術が消滅した。
まるで、虹の光に飲み込まれるように。
「どういうことだよッ! 当たっていただろう! どうして消えてんだよっ!」
呪魔術は相手を呪いたい気持ちが強ければ強い程、魔力が強くなる魔術である。特にフォクス・ナインがやられた恨みがあるのだから強力だったはずだ。
(たった、一回の極光虚無魔術を発動して消したというのか……?)
「お前の魔術、つまらんから¨無効¨にした」
「極光虚無魔術なんて聞いたことがないぞッ……!」
「我にしか使えんようじゃからな」
「絶対に殺すッ……! 二度と転生できないようにッ……!」
ペテンが焦って魔術書をめくった刹那、
「――極光虚無魔術【
刹那、辺りが光の幕に閉じ込まれる。
人の一息よりも圧倒的に速く覆い、何が起きたか目で追いつけなかった。
光の幕が開けると、憐れむような目でヴェールは討伐対象を見ていた。
消滅するフォクス・ナインを見て、対象は焦燥に駆り立てられるように魔術書を出現させる。
「消えているッ! 俺の魔術が徐々に徐々に消えていってるッ!」
目をうろたえながらページをめくるも、発動できる魔術が消えている様子――もしかして、ヴェールは暗殺対象の魔力を無効にしたというのか。
「魔術書とは己の魔力があってようやく見えるもの」
「俺のフォク助も! 必死に練習した魔術も! なんで魔術書から消えていってんだよォォォオオオオオ!」
討伐対象は鼻水を垂らしながら泣き叫ぶ。
「お前の魔力を全て¨無¨にした――負けだ」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
無残にもペテンの絶望した声が部屋に響き渡る。
「神よ! 我を救いください! 異世界に転生させてください!」
そう言うと泡を吹きながら白目を向いて倒れてしまった。
ヴェールは服のポケットからシュシュを取り出すと、綺麗に光り輝く髪を結ぶ。すると、また光に包まれて幼女の姿に戻った。
「キリエン! サポート最高だったぞ! 我はキリエンの口からギルドに入りたいと聞きたい!」
ヴェール・クリスタ――ゼネ曰く、『五本指に入る魔術師』と言った。
「是非」
とんでもないギルドに入れられたのかもしれないと思うと、次第にキリエの顔は笑顔になっていったと思う。
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