第1-2襲 魔術使いの暗殺者はギルド管理協会から逃げたい
「ありがとうございます! ありがとうございます! このお礼をどうしたらいいか……!」
「ねぇ、おかあさん? なんで、あやまってんの~?」
被害にあった少女を魔術王都マナ・リアのギルド管理協会に連れて来たまではよかったが、
理由は一つ――思っていた以上に人間が密集していたからだ。
受付カウンターではギルドへの仕事依頼する人たちの長蛇の列がまだかまだかと発生している状況を見て、トラウマを思い出してしまった。
ムシャノ村の人たちと出会って人格が明るくなったと思った。
しかし、初めて見る人たちと関わることに極度のストレスを感じていた。
――キリエは極度の対人恐怖症である。
あぁ……、逃げたい……! ギルド管理協会から逃げたい……!
村が燃えてからなんでもかんでも1人でこなしてきた。宿屋探しから炊事、洗濯、税処理まで誰にも頼らずにたった独りで。
独り立ちしてから、キリエは1人を好む性格に逆戻りしてしまったのだ。
「お礼は管理協会の方に渡しました。本当にありがとうございました!」
「おねぇちゃん、またね~!」
少女の母が頭を下げている横で少女は元気に手を振る。キリエも応じるように気持ち小さめで手を振る。
(こんな人が多い中で元気よく振れるわけない!)
そんな叫びが心の中でこだましながら見送った。
もしかすると、もしかしなくても、キリエは引きつった作り笑いをしているかもしれない。
あぁ、未だに心は空っぽだ。人の平和は守りたいけど笑顔なんて――。
「依頼お疲れ様です。こんな明るい朝に珍しいですね」
キリエの隣には満面の笑みを浮かべた受付嬢ゼネ・コントルがいた。
まるで、
ゼネ・コントル――ギルド管理協会の中でも黒三ツ星クラスでとにかく偉い役職の人。どういうわけかキリエの実力を買ってでて、専属の依頼紹介人となった。
とは言っても、暗殺の仕事しか持ってこなかったのだが……。
「少女のためだ。真夜中に帰すのは悪い」
ふと、ゼネの顔を見て大事な依頼を思い出した。
暗殺の依頼しか持ってこないあの眼鏡が初めてギルドの手伝いをしに行って来い! と言ってきた。しかも、寝ぼけて聞いていたから変な誓約書に押印してしまったという。
焦ったキリエは急いで断ろうかとも思った。
しかし、断るという行為は自分の信用問題に関わる。これもきっと偶然の運命なのだろうと思い、諦めて
しかし、彼女に名前を教えてほしいと聞いても、笑顔で眼鏡を光らせて『当日まで秘密ですよ!』と言ってはぐらかされてしまった。
別の日に地図を持ってギルドの場所を教えてくれと聞いても、彼女は紙喰いヤギを召喚して地図を奪い『行先の地図は紙喰いヤギに全部食べられてしまいました! てへっ!』と言って食べられてしまった。
明らかに最後の『てへっ』は余分だ。絶対に。
「どうでした? 暗殺任務は?」
ゼネは曇りのない笑顔で聞いてくる。
何を話せばいいか迷うキリエは咄嗟の判断で魔術書を出現させて、
「生首……みたいか……?」
生首を取り出した瞬間、――瞬く間に消えていた。
「また人がいない時に伺いますね」
ゼネはにっこりと金色の艶やかな髪を綺麗に震わせながら笑顔で言う。彼女のことだから消えた生首は依頼完了証拠として瞬時に回収したのだろう。
「それにしても凄いですね! これまでいろんな暗殺者に依頼してきましたが、生首を持って帰ってくる人たちは初めてですよ!」
「殺した相手はしっかり首を切り取って依頼者には見せるとムシャノ村から習った」
「わぁ~、凄い! 凄すぎます! そんな村があるんですね! やっば~!」
ゼネの大袈裟な身振り手振りを見て、ため息を吐く。
「生き残りは私、独り……しかいないからな……」
キリエは懐かしむように口で吐いた。そうさせた犯人を憎むように。
するとゼネが、
「そんな! キリエさんは独りじゃないです! 私がいるじゃないですかっ! カッコ可愛い女性だぁ~い好き! さぁ、友達になりましょう?」
びっくりした。まさか、事務的な話をしているかと思ったら、枝のような細い腕を広げて抱きついて来いと言わんばかりのジェスチャーが全力でしているのだから。
辺りを見渡せば、彼女があまりにもデカい声で待っている人が無茶苦茶引いていた。
ただでさえ目立ちたくないのに、2人はギルド管理協会の中央で依頼の受付をまだかまだか待つ人たちの視線が集まってしまっていた。
「さぁ!」
――『さぁ!』じゃない! しかも、胸にポンポンと叩いているし!
周りも百合のような和やかで微笑ましい光景を見て微笑んでいた。
もう絶対に朝、行くのはやめようと心に誓おうと思う。
「そうそう、今日こそ行きますよ!」
突然、ゼネが話を切り替えてくる。
「何処にだ?」
キリエがそう尋ねると、眼鏡をくいっと右人差し指で動かせて、
「以前、キリエさんに依頼したギルド〈デイ・ブレイク〉にですよ!
魔術書を出現させた。
「転移魔術! 【
彼女が転移魔術を発動させる。
星々が輝く夜空のような深く暗い空間がこの先へ続いている。
彼女に手を握られる――まるで、愛する人と密着するような握り方。
これ、恋人繋ぎか……?
そう思っている内に、先も分からない空間へ引っ張られるようにゼネは走っていった。
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