異世界転移ノ魔術師々
両翼視前
第1章 独捨仲入編
第1-1襲 異世界転移の暗殺者
――2年後。
月が煌めきだす頃、魔術王都マナ・リアのはずれにて暗殺依頼を遂行していた。
今回の依頼は女性をターゲットに催眠魔術を使って拉致をし、殺害をするレイプ魔の暗殺である。
部屋に寝転がる少女たちがうつろな目で私をじっと見つめてくるが、
寝転がる少女たちは虚ろな目で死んでいた――臓器をえぐられるようにしてぐったりと。
酷い遺体もあった。
ハエが群がっている遺体に、既に白骨化した遺体――酷くも無造作に置かれていた。
死体の管理が酷いかった。走れば走るほど匂いがキツく感じる。
依頼文が悲しみに溢れていた――『なぜ、ウチの子が死ななきゃいけなかったんだ』と。
こういう暗殺対象がいるからキリエの仕事が減らない。
キリエは暗殺対象を探して、自慢の速い脚と鋭い目と研ぎ澄まされた感覚を頼りに走りに走った。
建物を走っていると、二つのオーラを見つける。
一つは、被害者の小さい子供のようなオーラ。
見たところまだ息をしているかのように見える――よかった。これなら一人だけだが犠牲者を減らせる。
問題はもう1つのオーラ。吐瀉物のような吐き気のするオーラを感じ取った。
キリエは任務遂行のために一歩、また一歩と暗殺対象がいる部屋へ踏み出す。
「おや、お客さんかい? しかも、お嬢ちゃん」
どうやらなめられたようだ。
遺体は暗殺対象が全員、催眠魔術で拉致してレイプをしたというのか。
見ているだけで嫌悪感が凄まじいし、漂ってくる大衆もヘドロのようできつかった。
こんなところ長くいたくない――殺してさっさと次の依頼に行く!
「今日のワイは二人もヤレるなんてラッキーだぜェ! 抵抗せずにいいよ! こいよ!」
キリエはさっさと依頼を終わらすために切長の瞳に静かな怒りの光を宿して殺す構えを取る。
「
そう言いながら左腕に魔力を込めると、瞬く間に魔術書を出現した。
みんな――キリエは今日も力を借りる!
「
呪文を唱えながらページを破ると、腰から風が徐々に強まっていくようにして旋風刃という刀を現す。
魔術書は魔力の塊とはいえ、これから激しく動くのに邪魔だから消滅させる。
「お嬢ちゃん、無駄な抵抗はしずに一緒に気持ちよく――」
「――お前はムシャノ村を知っているか」
旋風刃に手を添えながら地を這うように距離を詰めていく。
「そんな、ド田舎知らねェよォ!」
大柄な暗殺対象も負けじと魔術書を出した。
「魔術書! 眠魔術! 【
すると、波形の波がゆらゆらとキリエの体を避けるように通過する。
「眠りなッ! お嬢ちゃん! そして、豊満な体でワイを満たしてくれッ!」
眠魔力がキリエの体を避けるように通過してくる。
余波が近づいてくるだけで気持ち悪いと感じるが、刀に力を入れて負けないように精神を統一させる。
対象から感じるオーラは揺らいでいた――油断しているから魔力のコントロールをおろそかにしているのだろうと推測する。
ならばと思うと、腰を落とすように左脚を後ろへ、右手に力が入るように構えなおす。
この暗殺対象――これから腕から切り刻まれることを知らずにゲスな笑みを浮かべている。
呼吸を一つに調える。
息を吸って――吐く!
「――消えろ! 【
刀を引き抜きながら魔力を込めると刃がひゅるひゅるとやさしく風にさらわれるように空気に溶けこんでいく。
まるで――風と共に散りゆくように。
刃が消えると暗殺対象の後ろに少女を助けるように素早く回り込んだ。
「お嬢ちゃん強いね~! 魔術を受けない加護でもかかっているのかい?」
なびくように短い髪をはためかせ、暗殺対象を軽蔑するように横目で見る。
「お嬢ちゃん! よく見たらその刀、刃がないじゃねェか! これで殺しに来たっていうのかい!?」
旋風刃は刃がないわけじゃない――¨風¨として自然に馴染むように溶けているのだから、目に見えない魔術刃として存在する。
「対象は乙女の苦しみをこれから味わうことになる――
嘲笑するかのように叫んだ直後、刃に見えるような鋭い風が辺りに8本展開され、暗殺対象を目掛けて切り刻むようになびいていった。
1本は左手首へ――。
もう一本は右脚へ――。
頭でここに動いてくれと願うと、風の刃はそれに答えるように動いてくれる。
「お嬢ちゃん、ワイに何を……した……」
襲い掛かる風の刃は自然のはためきをやめない。
頭で念じるように風は左手首から、右腕、左脇、右脇腹、首……そして、念頭に局部も千切りに切り刻んでいく。
裁けぬ怒りを! 今まで犠牲にあってきた人の分の憎しみを込めて!
「切る!」
【旋風の舞】が発動限界を迎えると、風の刃は微風が吹くように元の旋風刃の方へ戻っていく。
使っても8秒が限界の旋風刃の魔力反応――キリエの脳に負担がかかるからだ。
暗殺対象から綺麗な鮮血の泉が色鮮やかに吹き上がる。見た目とは裏腹に綺麗だった。
頭が静かにポトリと落ちると、連鎖するように身体がバラバラに崩れ落ちた。
「……暗殺……完了……!」
キリエはそうつぶやくと、旋風刃を魔術書の中へ消滅させた。
ふと、天井の隙間から見える月をどこか悲しげに懐かしむように眺める。
「キリエは……平和のために戦えているだろうか……?」
考えても仕方がない。
まずは気を失っている少女を安全な場所へ移動させよう。遺体を片付けるのはそれからだ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
朝日が昇る頃、キリエは暗殺対象の死体を燃やしながら、穏やかに眠る少女の顔を見ていた。
なんだか昔のキリエを思い出すと、嫌な記憶が邪魔してくる。
「キリエも穏やかに眠れたらどれだけよかったのに……」
無邪気に眠る少女は、おめでたいことにぐっすりと静かな吐息を吐いて眠っていた。本当に永遠じゃなくてよかったと安堵する。
この2年間、ギルド管理協会から依頼を受けられるように試験を受けてようやくなれた。
暗殺の依頼を中心に
悲惨な現場を見て、救われない気持ちになることの方が沢山あった。
でも、今回は大きな事件が起きていたなんて知らない純粋無垢な少女を見て、気持ちが救われた。
――ようやく夜が明ける。
東から綺麗な朝日が登って来ていた。
キリエにとって綺麗な朝日は苦手だが、少女を探している両親のことを考えると背に腹は代えられない。
遺体を燃やしていた炎を消す。
魔術書を出現させ、暗殺対象の生首を中へ消滅させる。ちゃんと殺したことをギルド管理協会に報告せねばならないからだ。
変な首輪もついているからなんかの調査が捗るだろう。
キリエは眠っている少女を抱いて、ギルド管理協会に届けようと歩き出した。
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