下水道こそ世界最強のダンジョンでした【うんこしてたら思いついた作品】
Shakla
プロローグ
下水道。
毎日大量の汚水を浄化し、排出している大型システムだ。
作られた目的は疫病対策だと言われているが、本当にそれだけだろうか?
今日も王都はたくさんの市民でにぎわっている。
「仕事行きたくねぇなぁ」「学校めんどいなぁ」なんて思いながら、彼らが歩いているこの道の下に、それはあった。
石と鉄でできた道が複雑に絡み合い、その広さは大都市を一回りも二回りも超える。
各地に隠れステージやワナが存在し、S級の武器や超レアアイテムが見つかることもある。
そして、どこからともなく聞こえてくる〝ヤツら〟の雄たけび――遭遇すれば命はないだろう。その強さは地上のモンスターとは比べ物にならないのだから。
これがひとつのフィールドにとどまらず、何層にも下へ重なっているのだ。
どこまで続いているのか――最下に何があるのか――誰にも分からない。
―――――――――――――――――――――――――――――――
長時間労働でクタクタになって帰宅し、また憂鬱な朝を迎えるという無限ループ。
数少ない貴重な休みはほとんど睡眠に消えていく。
とくに会う人とかいないし、これといった楽しみもないからね。
そんな感じで同じことを繰り返しているわけだけど、最近よくこんなことを考えるんだ。
――ぼく、何で生きてるんだろう?
仕事している最中やその帰り、休日で夕方に起床したときとかにふと、自分が生きている理由が分からなくなるんだ。
来世に期待!
と、思うこともあるけど、これが意外と実行できないんだよね。
今がまさにそのチャンスなのに……。
『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
「いやああああああああああああああああああああああ!」
ぼくは逃げていた。
〝ヤツ〟から、汚水を横目に全力疾走で。
後ろから聞こえてくる。硬く激しい地響き、そして金属音とぐちゃぐちゃという音。
どんどん近づいている。
どうしよう。もうすぐ追いつかれる。
しかも、ぼくの体力も限界に近い。だって走り始めてからもう一〇秒は経ってるんだから。
『ゴウウウウゥ!!』
「うわあああっ!」
バコーンッ、と後方からすさまじい衝撃音。
足が浮いた。身体が前へと吹き飛ぶ。地面に激突。ゴロゴロと転がった。
「いったぁ……」
その場でモガいた。両手足に痛みがツーンと染み込む。
「えっ……!?」
顔を上げてすぐ、ぼくは目を見開いた。
鉄でできているはずの地面が、ぐにゃりと曲がって大きな穴が開いていたんだ。
その手前に――〝ヤツ〟が立っていた。
見上げる。
その巨大な体躯は全身ドロドロとしたものに包まれていて、内側から金属のような、鉄のようなものがむき出しになっているんだ。
生き物なのかどうかも分からない――だって、ヤツには〝肉〟が一切ないんだから。
動くたびに、ガチャガチャぐちゃぐちゃという音が聞こえてくるんだ。
『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
太い腕を広げ、ヤツが雄たけびを上げた。
身体がビクついた。コマクが破れそうなほどの音量だ。
来る――大きな足音を響かせ、ヤツが拳を構える。
しぼるように、ぼくはぐっと目をつぶった。
あぁ、終わった。
もうあと数秒で、ぼくは死んでしまうみたいだ。
身体が熱い。呼吸も荒くて、心臓がバクバクと暴れている。
ズキリ、と右腕が痛んだ。その手を、強く握りしめた。
――死にたくない。
ロクな人生じゃなかった。
あのとき、ああしていれば――いろんな後悔が頭をよぎった。
体を鍛えていれば。勉強を始めていれば。あの子に声をかけていれば。アイツに、 イヤだと言っていれば――今とは違う結果になっていたかもしれない。
でも、もう遅いんだ。もう――
『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!?』
突如、前方から強い衝撃音とうなり声が響き渡った。
目を開けると、ヤツが倒れていた。どうやら豪快に転んだようだ。
つまずいたのか、足が絡まったのかは分からない。
とにかく、チャンスだ。今のうちに……。
『ゴオオオオオオオオオオオオオオ!』
「!?」
倒れたまま、ヤツがひとりでに後退していく。
まるで引きずられているみたいだ。
首を強く振り、手足をバタつかせ、必死に抵抗している。
でも引力がおとろえることはない。
方向転換。
右側の通路へ曲がっていき、姿が見えなくなった。
『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
「いっ……!?」
ヤツの鳴き声――というより、悲鳴が鳴り渡った。
同時に、その通路から金属のような鉄のようなハヘンが飛び散っていた。ドロと一緒に。
ゴリゴリメキメキという音が耳に入ってくる。
固いものが潰され、砕けているみたいだ。
しばらくすると、止んだ。シーン……と、急に静かになった。不気味なくらいに。
……何が起こったんだ?
あれだけ恐ろしかった怪物が、一瞬でやられてしまった。
角を曲がった瞬間に。
ということは、いるんだ――あの通路の先に。もっと恐ろしいのが。
「……逃げなきゃ」
すぐに立ち上がる。手足がブルブルとふるえている。
でも、そのとき――
辺りが薄暗くなった。すぐに分かった。これは、影だ。
前方から気配を感じた。恐るおそる顔を上げると、それはいた。
音もなく目の前まで来たそれを見て、ぼくは確信したんだ。
「下水道こそ、世界最強のダンジョンでした」
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