第37話 私たちの秘密


 明後日から、夏休み。

 誘われて、二人きりのお昼。 空き教室。 めちゃ、暑い。

「あのさ。 話、いい?」

 ケイが、切り出す。

「どしたの。 夏休みの話?」

 眉根を寄せて、首を振る。 真剣な感じだ。

 私も、真剣に聞く。

「変なこと、聞いてごめん。 夕陽って、誰と付き合ってんの」

「えっ。 なんで。 大人の人……だよ」

「先生と、付き合ってんの?」



「そ……そんなわけないじゃん。 やだ」

 あはは。 笑ってみる。 暑くてたまらない教室にいるのに、首と背中がきんきんに冷たい。

「保健室の先生と。 放課後、一緒に帰ろうと思って探しに行ったら、抱き合ってたでしょ」

 手が、震えてきた。 俯いてしまう。

「だ、誰かに……言った……?」

 声も出ない。 涙は、出てきた。

「ばか。 言うわけないじゃん」

 ケイ、私の両手を握る。

「ばかだね。 言わないよ。 ……ほんとに、付き合ってんの?」

 私は唇をへの字にぎゅっと結んで、こくこく頷く。

 両手を握られたまま、質問される。 なんでか、私の目は涙で、滲んでる。

「最近?」

「ううん。 去年から」

「学校でギューするなら、鍵とか、かけときな。 昨日は、あたししか見てなかったけど」

「いつもは、かけてる……」



 放課後は、そのままハンバーガー屋さんに来た。

 私は、カフェラテ。 ケイは、ポテトとコーヒー。

「よく、ばれなかったね。 今まで」

「確かに……。 でも、見たのがケイで、ほんとによかった……」

 違う子、違う先生だったら。 ぞっとする。

「学校では、あんまりくっ付かないようにする」

「そうしな」

 そうだよね。

「ねえ、ところでさ」

 ケイは、ずいっと顔を近づける。

「えっちしまくってるんだよね?」

 お、おう。

「え……ええまあ。 しまくって……ますけども」

「ねぇ、どうやって、するの」

 むっ。 それ、聞いちゃいけないんだよ。 男女カップルにも、普通、聞かないでしょ。 デリカシー!

 唇をとんがらせて、抗議。 ケイは、違う違う、と言って、続けた。

「あの、あたしも、言いたいことあって。 あたしも、その……女の子と……付き合ってて」

「えっ」


「お兄ちゃんの、友達……。 女の子なの。 あたし、体触られても、あんまり、分かんなくて。 すっごい、好きなのに」

 もじもじするケイ、初めて見た。 

「ほんとう?」

「そんなん、冗談言わないよ。 ほれ」

 スマホを見せてくれる。

 ケイと、ポニーテールの女の子が写ってる。 頬っぺた、ぴったりくっ付けて。 二人とも、ニコニコで、すごくかわいい。 ピースして、二人、お揃いの指輪をしてる。

「英梨ちゃんっていうの」

「エリちゃん。 めちゃ、かわいい」

「でしょ! かわいいんだよ……。 いひひ」

「私の先生も、きれいだよ」

「知ってるよ! しかし、何だな。 連休も温泉で、やりまくってたんか…… そうか……」

「や…やりまくったなんて……」

「だって、そうじゃん。 ねえ、どうやって、したのよ。 チューして? むね、さわって? 下も? さわっちゃったりして?」

「ごめん、それは、学校でもやってるライトなコース。 温泉とか、泊まりは……フルコースだから」

「フルコースって……あんた…… 詳しく、教えなさい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る