第34話 【ケイちゃんの話】ピロートーク



「ねえ、起きてる?」

「起きてるよ」

「おしゃべり……しようよ」

 くるりと、振り向いてくれる。

「いいよ。 さっきの、えっちの話?」

「違うよ。 ふつうの話」

 ふたりで、くすくす笑う。 あたしはほっぺをつかまえて、むにゅっとつぶす。

「学校、楽しい?」

「楽しいよ。 同じクラスの子……放課後、よく、ポテト一緒に食べるんだけど」

「夕陽ちゃんだ」

「そう。 覚えてくれてた?」

「名前、変わってるからね。 その子の名前しか出てこないし」

「そうかも。 あたし、友達いないから」

「友達、たくさんいる必要ないよ。 夕陽ちゃんと、仲良いんだし。 それに」

 顔、近づく。 唇どうしが、触れる。

「いるし」

 あたしは、嬉しくてぎゅうっとする。 

「信じらんない。 大好きなの。 あたし、初めて。 こんなに、好きなのは」

「何人も付き合ってきたくせに?」

 いじわるだなぁ。

「もう全員、忘れた」

「薄情だなあ。 歴代の彼氏、かわいそうに」

 ごまかしたい。

「ねえ、また、ちゅーしよ」

「いいよ」

 また、唇を触れさせる。 さっきより少しだけ、長く。

「最初は、恥ずかしがってたのに。 もう、キス、平気?」

「夕陽が」

「夕陽ちゃんが?」

「どうやら、めちゃめちゃひとりえっち、してるんだけど」

 一瞬間が空いて、ふたりでふふっと笑う。

「夕陽ちゃん、貪欲だ」

「そう。 ひとりえっちしてても、キスだけは、ひとりじゃできないんだよ!って」

「あはは。 確かにね」

「力説するから。 まぁ、確かになって思って」

 首に、腕を回す。

「だから……あたしも。 一緒にいるときしか、キスできないなって思ったらさ。 恥ずかしいより、しないほうがもったいないかもって」

「ケイ、かわいい」

 ぎゅっとされる。 そして、

「なんか、また、したくなってきたよ」

 言うと思った。

「えっ。 も、もう、したじゃん」

「あと三十分あるよ。 ちょっとだけ、しようよ」

 ちょっとじゃ、終わんないじゃん。

「着替えたら、時間ないって」

「じゃあ、キスしよう」

「だめだよ。 キスしたら、したくなるじゃんか」

 かわいいね、と言って、ベッドを出る。 

 あたしも、同じように。

 パンツを履いて、ブラジャー付けて、キャミソールを着て、デニムを履いて。

 最後にブラウスを着ようとしたところで、つかまる。

「キスマーク、付けてあげるよ」

 首の付け根、肩の近くを、強く吸われる。

「うあ」

「あんまり、良くない?」

「ううん。 そうじゃないけど」

 ほんとは、首、よく分かんない。 夕陽に、聞いてみよう。 首も感じるのかって。



 ラブホから出て、車で家まで送ってもらう。 車の中では、あたしたち、静か。 手だけ、握って。



「あれ? また遊んでたんだ。 仲良いね、ほんと」

 散歩帰りの、お兄ちゃんだ。 犬の、マルの散歩。

「買い物行ってきたんだよ、ね」

「欲しいの、なかったけどね」

 あたしは車から降りながら、言う。 お兄ちゃんに、ごまかしながら。

「じゃあ、また。 ケイちゃん、また遊ぼうね」

 手を振ってくれる。 お兄ちゃんも手を振る。

「妹と遊んでもらって、車もいつも出してもらって、悪いね。 じゃあ明日、学校で」

「いやいや。 ケイちゃん、話合うし。 楽しいよ」

 あたしは、ハイタッチ。 手のひらを、くっ付けたくて。

「今日も、ありがとう。 英梨ちゃんも、気をつけてね」

 出発した車に、ずっと手を振る。 見えなくなるまで。



 英梨ちゃんのこと想って、夕陽みたいに、めちゃめちゃひとりえっち……は、しないけど。

 一緒にいると、楽しい。 手を繋ぐと、嬉しい。 えっちは、正直、恥ずかしい。



 英梨ちゃん。 お兄ちゃんの、同級生。

 あたしが今、一番好きな人。

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