第18話 私の出した結論を伝えます

グレイ様と別れ、自室に戻って来た。まずは手渡された資料を、1つずつ確認していく。どうやら私の為に残してくれた両親の遺産は、今の奥さんの家や洋服・アクセサリー、さらに2人で暮らす生活費、家の改装工事、旅行にも使われていたらしい。


それも、私と結婚した当初からかなりの額をあの女性に貢いでいる。やっぱりデビッドが言った通り、あの2人は私と結婚する前から繋がっていたのだろう。


そして湯水のように両親の遺産を使った2人は、ほぼ使い果たし、私の私物を売ってお金にしたとの事。デビッドは私にとって、都合の良い金づるだった。改めてその事実を突きつけられた気がした。


でも、これは紛れもない事実なのだろう。あの時両親を亡くしたショックで何も手に付かなかった状況だったとはいえ、全てデビッドに任せたのがそもそもの間違いだった。でも、今更後悔しても遅い。その事実は、しっかり受け止めないと!


ふと亡くなった両親からもらったネックレスを手に取る。グレイ様が買い戻してくれたネックレスだ。思い返してみれば、うちの両親はびっくりする程働き者だった。朝早くから夜遅くまで、仕事をしていた。そのせいで子供の頃は寂しい思いをしたこともあったが、それでも私の為に一生懸命働いてくれたのだ。


“いつもさみしい思いをさせてごめんね。この仕事が落ち着いたら、家族みんなで旅行に行こう”


そう話していた両親。でも、結局旅行に行けないまま、この世を去ってしまった。この資料には両親名義の貯金以外に、私名義のものもかなりの額が入れられていた。そのお金を根こそぎ使われていたのだ。


きっと昔の私だったら、きちんと管理しなかった自分も悪かった。だからデビッドに使われてしまった分は、高い勉強代として諦めよう、そう思って穏便に済ませようとするだろう。


でも、私は変わりたい。しっかり現実に向き合い、逃げずにデビッドとその奥さんと戦いたい。そう思えるようになったのは、きっとグレイ様に出会えたからだろう。曲がったことが大嫌いで、いつも自分が正しいと思う道を突き進んでいる。その為には、どんな苦労も惜しまないグレイ様。きっとこの資料を集めるのにかなり苦労したはずだ。


私の為に必死に情報を集めてくれたグレイ様を見たら、私ももっと強くなりたい。逃げたくない、少しでもグレイ様に近づきたい、そう思ったのだ。



それに両親だって、私の為に貯めていたお金を、別の人間に使われたと知ったら、どれほど悲しむだろう。


いつも面倒な事から逃げていた。でも、もう逃げたくはない。ここまで調べてくれたグレイ様の為にも、必死に働いてお金を残してくれた両親の為にも、そして自分自身の為にも、デビッドと戦おう。


もしかしたら、裁判となればデビッドに傷つけられるかもしれない、暴言を吐かれることもあるかもしれない。それでも、しっかり戦いたい。これは私の戦いなのだ。それにやっぱり、私をだましていたデビッドを許すことは出来ない。きちんと罪を償ってほしい。


とにかく明日、グレイ様に自分の気持ちを伝えよう。きっと彼なら、私の力になってくれるはずだ。


翌日

早速グレイ様に自分自身の気持ちを伝えた。


「そうか、よく決心してくれた。そうと決まれば、早速準備に取り掛かろう。ただ、裁判所に出廷しなければいけない事になるが、大丈夫かい?」


「ええ、もちろんです。もう逃げたくはないのです。それに…グレイ様もいらっしゃいますし…」


そう呟いた瞬間、恥ずかしくなって俯いてしまう。そんな私の手を握り


「俺がずっとそばに居るから、安心して欲しい。もちろん、あのクズ男が何か暴言を吐こうものなら、すぐに締め上げるから」


そう伝えてくれたグレイ様。その気持ちが嬉しくてたまらない。


「グレイ様が居て下さったら百人力です。でも、締め上げるのだけはやめて下さいね」


「そうだな、そんな事をしたら、俺が捕まるか」


そう言って笑っていた。それにつられて、私も笑う。グレイ様がそばに居るだけで、心がこんなにも穏やかになる。不安な事も多いけれど、きっと大丈夫だろう。そう思った。そして早速グレイ様に教えてもらいながら書類を作成し、裁判所に証拠の資料と一緒に提出した。


「近いうちに、あのクズ男とクソ女の元に、裁判所から書類が届くだろう。訴えを取り下げる様、スカーレットの元に押しかけてくるかもしれない。とにかく、なるべく1人にならない方がいいだろう。食堂へは俺が送り迎えをしよう」


「さすがにそこまでしていただかなくても、大丈夫ですわ。確かにデビッドは私の仕事先を知っていますが、住んでいる場所まではわからないでしょうし。それにあの人、意外と小心者なので、グレイ様の家でお世話になっているとわかれば、手出しをしてこないと思うんです」


デビッドは昔から、強い人には媚を売り、弱い人には威張るタイプの人間だった。よく考えたら、本当に最低な人間よね。どうして私ったら、あんな男を好きになったのかしら…


今ではなぜあの男を好きになったのかわからないくらい、デビッドへの愛情はこれっぽっちも残っていない。こうなったら、徹底的に戦おう。書類を提出したことで、気を引き締め直すスカーレットであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る